二十六話目、人を助ける事の意味
もう夜になって暗くなってきた大通りには、ガス灯のような灯りが大通り全体を照らしていて、
昼間には無かった屋台も並んでいて昼と変わらず活気があった。
「夜になるとこんな感じなのか~…何か古めかしいと言うか…懐かしいと言うか…」
(そうなの?)
「………」
明治とか、大正時代っぽい気がするな~…
スイに夜の大通りの感想を言いながら歩いていく。
そこには、さっき俺から銀貨の入った袋を取ろうとした女の子も居る。
…今のこの状況…他の人が見たらどう思うのかな…
「………」
ふと周りの目が気になり、女の子の姿を見る。
服は俺とは違って汚れている上にボロボロ。
髪は元々赤かったのは分かるが、汚れでくすんでしまっている。
目も、奥に光が無いというか、生きる気力が感じない暗い茶色に見える。
体格は…俺より少し小さいから、一つ二つくらい年下かな?
それでまともに食事をとっていないからか、やせ細っている。
…この子と俺が二人で並んで歩いていたら…
「駄目だ…分からん…」
俺の世界で同じ状況になったとしても、どう見られるかなんて分からない。
それにこの世界の価値観も分かってないのに、人がどう見てるかなんて分かるはずもない。
…可能性があるとしたら、泥棒を騎士に引き渡そうとしてる…くらいかな?実際にそうだし…
そんな事を考えていると、食欲を刺激する匂いが屋台の方からしてきた。
丁度よく空いてるその屋台は、串焼きを売っているらしく、
他にもジュースやら串焼きの肉を野菜とパンで挟んだものもあった。
…肉、多いな…肉屋がやってるのか?
「此処にするか…」
腹の虫が鳴るほど空腹な女の子のために、屋台で買い食いする事にした。
本当は食堂で食べるつもりだったけど、屋台の方が手軽でいいかな…
「はい、いらっしゃい。何にするかね?」
串を焼いている恰幅のいい男性が近くに来た俺達に笑顔でそう言ってきた。
…女の子が居るから嫌な顔されると思ったけど、そんな事無かったな…
「えっと…じゃあ串焼きを二本ください」
「すぐに焼けるからちょっと待ってね」
そう言って男性は串に刺さった生肉を焼き始めた。
ジュ~…っと音を立てて、香ばしい匂いがしてくる。
肉からは余分な脂が落ちて炭火…じゃなかった、
赤く光る石から出ている熱でまたジュ~…っと脂が蒸発した音がする。
俺から見ても食欲をそそるその光景は、腹が減るけれど食べたいとは思えなかった。
…どうせ味が薄いって分かってるからかな…
そんな俺とは違い、目の前の光景に釘付けになってる…かと思いきや、
女の子はまるで手の届かないものを見ているように顔を逸らしていた。
…食べられないと思ってるのかな?
「はい。串焼きね」
女の子の様子にそう思っていたら、串焼きが焼きあがったらしく、男性から三本の串を渡された。
「あれっ?頼んだのは二本なんですけど…」
「おまけだよ。その子に食べさせてあげなさい」
「はい…ありがとうございます」
「代金は二本分の二十リムでいいからね」
二十…という事は、銀貨二枚でいいのだろうか…
そう思って、すでに女の子から取り戻していた袋から銀貨を二枚出して男性に渡した。
「うん、ちょうどだね。また来てくれよ」
どうやら銀貨一枚は十リムだったらしく、
男性はそれ以上は何も言わなかったので俺も何も言わずに屋台から離れた。
…という事は、俺がもらった銀貨は二万円くらいか。
…せめて十万円くらいは欲しいかな…どれくらいかかるか分からないし…
「じゃあ、そこで食べようか」
お金の事はともかく、今は串焼きを食べるために噴水へと向かう。
立ち食いは行儀が悪いから座れる所を探さないとな。
そう思っていたが、いざ来てみるとベンチが無かったので、噴水のふちに座って食べる事にした。
「はい、これ」
「…えっ?」
噴水のふちに座ると同時に、女の子に串焼きを一本渡した。
俺がそうすると思ってなかったのか、女の子は驚いていた。
本当に食べられないと思っていたのか…だったら何で連れて来たと思ってるんだか…
そう思いながら俺は串焼きを食べ始める。
…うん、薄いな…
肉の味、肉に振られた塩とハーブの味、その全てがうっすら感じるだけで全然美味しくない。
しかも、中々に大きい拳ほどの肉が四個、長い串に刺さっている。
…これは気合入れて食べないとだな…
ちゃんと味がしたらな~…なんて考えながら、ちゃんと食べてるか女の子を見る。
最初は戸惑っていたが、俺が何もしないと思ったからか、おそるおそる肉を口に運ぶ。
すると目を輝かせて肉にかぶりついた。
そうして串焼きを食べていると、途中で女の子は何故か涙を流して泣き始めた。
理由は聞かなくていいだろう。
あんな場所に居るっていうだけで何となく察しはつく。
まだ食べている女の子に余ってしまった三本目の串焼きを渡し、
女の子の背中をさすりながら一緒に食べた。
「今夜は月が綺麗だ…」
「………」
「無言でいられると会話が出来ないんだけど…」
串焼きを食べ終えた俺と女の子は、もう一度隠し通路の帰り道に戻ってきた。
理由は当然、人に聞かれない、見られないようにするためだ。
「さてと…これからしなきゃいけない話をする前に、名前を聞かせて?」
「…リー…リス…」
「リーリス、ね。それじゃあリーリス、これからするのは君がどうなるかの話だ」
「………」
女の子…リーリスは、俺の言っている事が分かったのか、何も言わずに不安そうに頷いた。
「俺は、別に君を騎士の所に連れて行こうとは思ってない。
ただ、君には選んでもらわなきゃならない」
「選ぶ…?」
「そう。これから君がどうするのか、決めてもらわないといけない。
でもその前に、見せないといけないものがあるんだ」
そう言って俺は横並びに歩いていたリーリスと向かい合って。
「スイ」
(は~い)
戻ってくる途中で打ち合わせをしていた通りに、スイは鞄から出て飛んでいった。
その時にスイが魔法で起こした上昇気流が思いの外強く、中心に居た俺はそこまででは無かったが、
その近くに居たリーリスは突風を間近で受けて手で顔を守っていた。
「…えっ…?」
そして風がやんで手を下ろしたリーリスは、黒髪に戻った俺の姿を見て呆然としていた。
「俺はね、この髪と目の色のせいで、この国の王族に狙われているんだ」
「王…族…」
「そう。だから俺は逃げたいんだ、この王都から」
「………」
「ああ、別に俺の秘密を知ったからって、何かを強制する気は無いよ」
「じゃあ…何で…」
「言っただろ?選んでもらわなきゃならないって。だから君に、選択肢をあげるんだ」
俺は別に、彼女を助けたいから助けたわけじゃない。
いや、その感情が無かったわけじゃないけど。
それ以上に、俺はこの世界に来た意味を、何も無い俺でも出来る事を見付けたかった。
それを、彼女に求めようとしたんだと思う。
「この袋には、銀貨百九十八枚、千九百八十リムある。この袋を持って此処を一人で出ていくか、
俺と一緒に此処を出て一人で生きていけるまで王族から逃げ続けるか。どっちかを選ぶんだ」
「………」
「俺はついて来てほしいけど、無理強いはしない。…どうするかは君が決めるんだ」
俺が彼女に出来る事なんて、持ってる銀貨をあげるか、
一人で生きていけるように手助けする事だけだ。
それに、一人で逃げるよりも、居ると思われていない協力者が居た方が好都合だ。
…まあ…寂しいというのもあるのかもしれないけど…
「あっ…あたし、は…」
顔をうつむかせて声を震わせながら、リーリスはそれでも言葉にしていく。
「一人は嫌っ…置いて…行かないで…!」
雫が、リーリスの頬をつたって落ちていく。
それだけ一人で居た時間が多かったんだろう。
「じゃあ、どうしたいんだ?」
だからこそ、ちゃんと自分がどうしたいのかはっきりと言葉にさせる。
伝えなきゃ、誰も分かってくれないから。
「一緒について行く!此処から出て、お兄さんと一緒にいる!」
うん、まあ上出来かな。
そう思って、俺はリーリスに手を差し伸べた。
「俺の名前は串間和彦。呼ぶ時は和彦って呼んでくれ」
「…うん!」
雫の跡が頬に残った笑顔で、リーリスは俺の手を取った。
こうして俺は、二人目?の協力者を得た。




