二十七話目、助けるために必要な助け
「さて、今後君の面倒は俺が見る事になった。だから此処から離れてもらうんだけど、
残念ながら俺の所には連れて行けない」
「…何で?」
「軟禁されてるから」
「………」
「だから、旅費が貯まるまでの間にリーリスが生活する場所にこれから行く」
リーリスと一緒に旅に出る事が決まったが、
面倒を見ると決めた以上、この路地裏に居させるわけにはいかない。
だけど王城に連れて行く事は出来ない。
…衣、食、住を与えられるような場所じゃないからな…
「何処に…行くの?」
「一応言っておくと、これからお世話になるかもしれない人の所に行くから、
本当にそこで寝泊まりするかは決まってないからね?」
あくまでリーリスを預けられる人の所に行ってみるだけ、
そこが駄目な可能性だって十分にありえるので、
実際はリーリスの生活する所を探しに行こうとしているのだ。
…あそこが駄目なら、俺にはもうどうにも出来ないけどな…
(もしかして、あの人の所に行くの?)
「まあ…他に頼れる人も居ないけどね…」
肩に乗ってきたスイを鞄に戻しながら、リーリスとあの人が居る所へ向かっていった。
「…此処が…リーリスがしばらくお世話になるかもしれない所だよ…」
「………」
(大きいところだね~)
目の前にある豪邸と言っても過言ではない大きさの建物に、俺達は言葉を失っていた。
「これが…ランドルさんの家なのか…」
今俺がこの世界で唯一頼れる人、
ランドルさんにリーリスを預けるために教えてもらったランドルさんの家に来ている。
…商人って言ってたけど…こんな大きな家に住んでるのか…貴族よりも金持ちなんじゃあ…
「…とりあえず…訪ねてみよう…」
こんな時間に家を訪ねるなんて非常識だから、
追い出されて中に入る事すらも出来ないかもしれない。
…そうなったらリーリスをどうしたらいいのかな…
そう思いながらも、門の中に入って玄関の入口の扉を叩く。
「はい、どちら様でしょうか?」
扉を開けてくれたのは、セルリアさんとほぼ同じようなメイド服を着た女性だった。
「ランドルさんに会いに来たんですけど、呼んでいただけませんか?」
「申し訳ありませんが、旦那様は今日はもう誰ともお会いになりませんので、
明日またお越しください」
「そうですか…では明日の朝にまた来るので、来客があった事を伝えてください」
やっぱり駄目か…しょうがない、一旦王城に戻って考えよう。
そう思ってリーリスと王城に帰ろうとした時。
「誰か来たのか?急ぎの用件なら中に入ってもらいなさい」
「あっ、ランドルさん」
奥の方からランドルさんがやって来た。
「おお君か。何をしている、早く中に入れてあげなさい」
ランドルさんはメイドさんにそう言って、温かく俺達を迎え入れてくれた。
…さっきメイドさんが言ってた事と違うんだけど…
「いやすまないね、まさかこんなに早く頼ってくれるとは思ってなくてね」
「いえ…こんな時間に来た俺が悪いので、気にしないでください」
「そう言ってくれて良かったよ。さあ、立ち話もなんだから応接室に来てくれ」
ランドルさんにうながされて、俺とリーリス、
ついでに鞄でおとなしく眠っているスイと、ランドルさんの家へと入っていった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「………」
「紅茶しか出せなくて悪いけれど、何せ急だったからこんなものしか出せなくて申し訳ないね」
応接室に着いてソファーに座った俺とリーリスに、
さっき玄関で応対してくれた人とは違うメイドさんが紅茶を淹れてくれた。
「十分ですよ。むしろ、事前に何も言わずに来たのに、
ここまでしてもらえるなんて思ってませんでしたから」
「こんな事なら常に来客用の茶菓子を常備しておけば…」
「そこまで気を遣われると、こっちが申し訳ない気持ちになるのでやめてもらえませんか…?」
「ん…そうか…ではこの話はやめておこう」
話を聞いてもらえるだけで十分なのに、これ以上気遣いされるとこっちが困るからな。
このままいくと、まるでお菓子をせびっているように見える気がしてちょっと嫌だった。
「それで、私に会いに来た理由は何かな?」
早速話の本題に入ろうとするランドルさんの切り替えの早さに、さすが商人だな、と思った。
いや関係は無いか?
「実は、頼みたい事があって来ました」
「そうか…私に出来る事なら何でも言ってくれ」
まだ何も言ってないのに助けようとしてくれる事に心の中で感謝して、
頼みたい事をランドルさんに言った。
「リーリス…この子を、少しの間だけ預かってもらえませんか?」
「…その子をかい?…一体どうしてだね?」
ボロボロの服を着ているリーリスを一瞥した後、
ランドルさんは怪訝そうな顔をしてそう聞いてきた。
まあ当然そう思うよね。
だって明らかに兄妹に見えないし、
その上リーリスはどう見てもまっとうな生活をしていない格好だ。
不審に思うのも無理はないだろう。
だから俺は、ランドルさんに本当の事を少し誤魔化して言った。
「彼女は路地裏を歩いていた俺の銀貨を盗もうとしたんです」
「何だって!それならすぐに騎士に引き渡して…」
「いえ、いいんです。銀貨はすぐに返してもらいましたから。その時に約束したんです。
俺と一緒に旅について行く代わりに、此処から出られるようにすると」
「…騎士に引き渡すつもりは無いのか…では、何故その子を此処に?」
「俺では…リーリスには着るものも、食べるものも、住む所だって満足に用意出来ません…
でも、ランドルさんなら…そう思って…」
「なるほど…だが、君がそこまでしてその子を助けようとする理由は?
何故そんな約束をしたのか分からない」
「それは…」
理由なんて、ただ逃げる時に協力者が居た方が楽だからだ。
でも、心の何処かでは別の理由もあるのかもしれない。
「それは多分…寂しかったんだと思うんです」
「寂しい…か…」
「俺は、こっちに来て一人だったんです。もちろん、周りに人は居ましたけど、
一人で居たのと同じだったんだと思います」
実際、捕らわれの身ではあったし、一人で居る時間の方が多かった。
今では一人で居る時間しかない。
だから、目の前に居た可哀想な女の子を助けて、一人にならないようにしたんだと思う。
…結局は自分のため、本当は助けてなんていないのかもしれない。
「リーリスは盗みをしたくてしたんじゃない。だったら、
俺と一緒に旅をしてまっとうな生活が出来るまで、手助けをしてあげようって思ったんです」
ただ、一緒に逃げてくれる仲間が欲しかった。
目の前に居た都合のいい誰かがリーリスだっただけ、別に他の誰かでも良かった。
理由なんてきっとそんなものなんだろう。
…認めたいわけじゃないんだけど…
「…君は、旅に出るのか?」
「はい、探してる場所があって。その場所に行くために」
「期間は?どこまで行くつもりなんだね?」
「それはまだ、決まってないんです…次に行く方向は決まってますけど」
「そうか…では、旅の資金が工面出来るまで、その子を此処に置いて欲しい、そういう事だね?」
「はい。働いて、ちゃんとした宿に泊める事が出来るまで、お願いしたいんです」
「…ん?」
「えっ?」
さっきの会話の中でおかしな所があったのか、
ランドルさんは引っかかっているような顔になっていた。
「どうかしたんですか?」
「今…働いて、と言っていたが…働き口はあるのかい?」
「いえ、ありませんけど…それが何か?」
「………」
そこからランドルさんは考え込んで、黙ってしまった。
えっ…本当に何なの…?
「もし君が良ければ、私の所で働かないか?」
「えっ…いいんですか?」
「ああ。その方が、君もその子の様子を見れるだろうからね」
「…では、ありがたくお受けさせていただきます」
ランドルさんの提案は予想外ではあったが、
俺としては願ってもない話なので当然受ける事にした。
「詳しい事は明日話そう。それで、今日はどうするつもりかな?」
「リーリスを此処に置いたら帰ろうと思います。色々と準備がありますから」
「では少しゆっくりしていってくれ。その子は私が責任をもって預かると約束しよう」
「…ありがとうございます、こんなに助けてもらって何だか申し訳ないです」
「いやいや、私からすればこれでもまだ足りないくらいだ。
それだけ大事なものを君は取り返してくれたからね」
「そうなんですか?」
「ああ、だからこれからも遠慮無く頼ってくれ。私は今からやる事があるから失礼するよ」
そう言ったランドルさんは応接室から出ていった。
…ひったくられた荷物の中には何が入ってたんだろ…
「とりあえず…リーリスの面倒を見てもらう事は出来たな…」
予定には無かったが、就職先も見つかった。
このまま順調にいけば、思っているより早く王都を出られるかもしれない。
そう思っていると、ふいにリーリスが服の裾を引っ張ってきていた。
「あたしは…ここで何をすればいいの…?」
どうやら何か勘違いをしているらしいリーリスに、俺は何をしてほしいかを言った。
「何もしなくていいよ。でも強いて言うなら、これから先で必要になる事を学ぶ、かな」
まあ、それは俺が教えるつもりだ。
俺が居なくても生きていけるようにする。
それが、リーリスを利用しようとしている俺の責任のとり方だと思うから。




