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二十五話目、通りすがりだからこその行動

 何とか自分の身を守れた事に安堵し、抵抗するのをやめたひったくりの上でふと考えた。

…これ、どうしたらいいのかな…と。

一応身を守るためとはいえ、魔法を使わせて大丈夫だったんだろうかとか。

ひったくりを捕まえたんだけど、誰かがどうにかしてくれるんだろうかとか。

とにかく誰かが何とかしてくれないと動けない状況だった。

 (捕まえたはいいけど、この人どうするの?)

「そうなんだよねぇ…」

 やっておいて何だが、正直に言えばひったくりを捕まえた後の事は考えて無かった。

ただ向かってきたから迎え撃っただけ、それだけだ。

…いつまでこうしてたらいいのかな…

 「君!もういい。私達が代わろう」

「おおっ!私の鞄!」

 途方に暮れていると、ようやく騎士と被害者である中年男性がやってきた。

 「お願いしま…」

「あのねえ…今回は怪我が無かったから良かったけど、

次はこんな危ない事はしないように。分かったかい?」

「あ…はい…」

 怒られてしまった…というか、捕まえようと思ってこんな事をしたわけじゃないのに…

ひったくりを抑えるのを代わってくれた騎士に理不尽に怒られて、少し納得がいかなかった。

 「まあ…この程度で済んで良かったと思おう…」

「君、ちょっといいかな?」

 声をかけられて振り向くと、荷物を取られた男性が近くに来ていた。

 「はい、何か用でも?」

「さっきは泥棒を捕まえてくれてありがとう。鞄の中には大切な物が入っていたんだ」

「ああ、それは良かったですね」

「私はランドル、商人をしているものだ。君の名前は…」

「…和彦です」

「そうか、カズヒコか。良い名前だ」

 本名を名乗るのはどうかと思ったが、偽名をすぐに思い付かなかったので本名を名乗った。

 「それでカズヒコ君、泥棒を捕まえてくれたお礼がしたいのだが…」

「そこの君、さっきのスリの事で話があるから、詰め所に来てもらえないかな?」

「………」

 ああ…怒られる程度で済まないのか…

面倒事の予感がするも、騎士に付いていくしかなかった。


 「ふんふ~ん、ふふふふ~ん」

 チャリン、チャリン。

 (ご機嫌だね)

「まあ、ね。ひったくりを捕まえたおかげで、褒賞されたんだし」

 どうやらあのひったくり、あのあたりでかなり盗みを働いていたらしく、

騎士達も手を焼いていたらしい。

それを俺が捕まえたものだから、怒られながらも懸賞金代わりにお金をもらえた。

 「それにスイの方こそ機嫌が良いんじゃないか?」

(ふふん、まあね~お礼にもらったこの鞄、居心地が良いんだもん…)

 うっとりとした声でスイは新調した鞄の中でくつろいでいる。

この鞄は、ひったくりを捕まえたお礼としてランドルさんがくれたものだ。

しかも、ランドルさんはこの鞄を渡した後、何か困った事があれば頼ってくれとも言ってくれた。

…本当にいい人だった…後見人証明書の件も頼んでみようかな…

 「しかし…このお金、どれくらいなんだろうか…」

この世界での金銭感覚は身についてないからよく分からないが、

これは旅費の何割くらいなのだろうか?

確か、銀貨二百枚って騎士の人は言ってたけど…

 「え~っと…食料品店で見た林檎の値段が十って書いてたから…」

 林檎一個の値段を百円だと仮定すると、この世界は日本の十分の一の相場って事になるのかな?

で、銀貨一枚は…

 「あっ…分かんない…」

 今いくら持ってるのか分からないんじゃあ、相場で考えたって分かるはずが無い。

どうしたもんかな~…と腕を組んで考えていると。

 「っ…!」

「ん?あっ!」

 何者かに銀貨の入った袋を奪われた。


 ???視点

 昼間でも薄暗い路地裏。

こんな所にまともな人間は居ないし、通らないような場所。

そんな所で、あたしは生きている。

此処に居るのは、怪我で働けなくなった人。

盗みを働いて、隠れ住まないといけなくなった人。

そして…あたしと同じ、子供の時に親に捨てられた人。

そんな人しか居ない。

毎日食べるものに困る生活、誰も助けてくれないから、自分の事しか考えられない。

そんな人間しか居ない場所に、普通の人は来ない。

だけどこの日、普通の人がこの路地裏を通っていた。

あたしがそれに気付いたのは、今まで聞く事が無かった音が聞こえたからだった。

チャリン、チャリン。

 「…?」

 今は夕方。

元々薄暗かった道は更に暗くなり始める時間。

今までこんな音、聞いた事が無い。

何なんだろうと思って音がした方を見てみると。

 「………」

 男の人が一人歩いていた。

何でこんな所を通ってるんだろうとか、

一人でしゃべって何をしてるんだろうとか、そんな当然思う事は無かった。

ただあたしは、男の人が持っている袋しか見えなかった。

今もチャリンと音を立てているその袋の中身は、

この路地裏に居る人間が欲しいと思うもの、お金だとすぐに分かった。

…あれがあれば…この場所から出られる…?

その事で頭がいっぱいだった。

だからあたしは、隙を見て…

 「っ…!」

「ん?あっ!」

 男の人が腕を組んだ時、意識が向いていなかった袋を奪って走った。

だけど、走り出してすぐに足がふらついてしまって。

 「あ、うっ!」

 よろけて転んでしまった。

早く起きて逃げなきゃ…

前に盗みをした人が鞭で打たれていたのを見て、

自分も同じ事をされると思って、立ち上がろうとする。

でも、何でか足に力が入らなくて中々立てなかった。

それでも逃げようと、這ってでも逃げる。

でも、それじゃあ遅かった。

 「あっ…」

 あたしから袋を盗まれた男の人の影があたしに被さり、振り向くと男の人が目の前に居た。

 「あっ…ああっ…」

 その人の目は、まるでぽっかりと開いた深い穴のようだった。

青色のはずなのに、何でか暗闇のような黒に見えるその目は、

何の感情も分からなくて、言い様の無い怖さがあった。

 「嫌っ…嫌っ…!」

 体が震えて這って逃げる事も出来なくなったあたしは、

ただ体を縮こまらせてこれから起きる何かを耐えるしか無かった。


 王城にある自室に戻ろうと、隠し通路に向かっていたら、

油断している隙を突かれてひったくりに遭いました。

 「って、早く追いかけないと…!」

 今の状況を説明してる場合じゃないよ!逃げられる前に俺の全財産を取り返さないと!

そう思って走り出そうとしたら。

 「あっ、うっ!」

 数メートル先でひったくりがこけた。

…被害者だけど…大丈夫か?

 (何だかちょっと、まぬけだね~)

「…否定はしないけど、可哀想だからそれ以上は言わないでおこうか…」

 そのおかげでお金を取られなくて済んでるんだから…

スイの言い過ぎな発言を少したしなめてから、俺はひったくりの所へ歩いていく。

 「あっ…」

 俺からお金の入った袋を盗んだひったくりはどうやら女の子のようで、

俺の影を見て近付いてきたのに気付き、こっちを振り向いた。

 「あっ…ああっ…」

 そして俺と目が合うと、何故かものすごく怯えられた。

…何で?俺、別に怒ってるわけじゃないのに…

 「嫌っ…嫌っ…!」

 まるでホラー映画のヒロインのように、腰を抜かして逃げる女の子の様子に傷付く。

…俺はお化けか…?

 (怖がられてるね~?何かした?)

「………」

 縮こまって怯えている女の子を見て傷心を抱いた俺は、

とりあえず袋を取り戻そうとぎゅっと目をつむっている女の子に手を伸ばした。

すると。

ぐう~。

 「………」

 明らかに場違いな腹の虫が鳴いた。

当然、俺ではなく女の子の方だ。

ただ、女の子はそれどころじゃないんだろう。

未だに怯えていた。

 「はあ…」

 仕方ないな…

そう思った俺は、袋を持っている女の子の手を取り、大通りに戻った。

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