二十二話目、王城脱走計画、練り始め
(というわけで、カズヒコを追ってここまで来たわけなの)
「ふ~ん…成程ね…」
朝のパンとサラダをスイと分け合いながら、スイがどうして王城に来たのか話を聞いていた。
話をまとめると、俺が親鳥に川へと落とされた後、俺の事が気になったスイは、
飛べるようになってから俺を探しに親鳥の所から巣立ったらしい。
色々と探し回って、一番大きな建物の中に居るかもしれないと思って飛んでいたら、
この部屋に居る俺を見付けて真っ直ぐ飛んできた、という事らしい。
…まず間違いなく親鳥に黙って出て行ったんだろうな…言ってるようには思えないし…
「もうこうなった以上、一緒に居る事は確定だけど、先に君を親の所に帰さないといけない」
(え~?どうして?)
「心配してるだろうからだよ。それに、いつまでも一緒ってわけにもいかないし」
(どうして?)
「…分かりやすく言えば、君のお母さんに会いに行くって事。そこから先は、会ってから考えよう」
(分かった~)
とりあえず、今後の目標は決まった。
後はその間をどうするかだ。
「とりあえず、スイを抱えて旅費を稼がないとな…」
何をするにしろ、お金は必要だ。
道中の食費、宿代、それに着替え等々、必要な物は多い。
それを揃えるのですら、それなりの金銭が要るのだ。
まず城の外に出るのは当たり前だとして、その後に何か仕事を探さないと…
「…ついでに、スイを隠せる袋か鞄も探さないといけないな…」
鞄に入れた状態でも髪と目の色が変わるかは分からないけど、
やってみて駄目なら別の方法を探そう。
城の外に出る前に、まずはスイを入れる鞄が必要だと気付いた。
「…服の中に入れるしか無いか?」
(お水、ちょうだい)
「ああ、はいはい」
スイをどうやって隠すか考えながら、スイが飲みやすいようにコップの水を指にかけて、
少しずつ飲ませていく。
…鳥を飼った事が無いから、このやり方でいいのかな…
「それにしても、何で俺を追ってきたんだ?
あの時俺は何もして…って痛っ!指をつつかないで!」
(お水~!)
あっ…駄目だ、聞いてない…
水を飲む事に夢中になっているスイに、今聞いても無駄だと思った。
「…当分は、外に出る準備かな…」
最早これ以上は話し合いが出来無いと感じた俺は今出来る事をやると決めて、
スイと一緒に朝食を食べる事だけ考える事にした。
「…遅いな…」
エレナさん達が来るはずの三時になったが、来る気配がまったく無い。
「昼食の時も急いでたから、多分何かあって遅れてるんだろうけど…」
昼に来たセルリアさんは、朝の時よりも急いでいた。
というよりも、時間が経つにつれて忙しなくなっていた。
朝食の器を取りに来た時は、明らかに忙しそうにしていた。
だけど、この時はまだ会話をする余裕はあった。
だが、昼食を持ってきた時は会話が無かった。
それでも、失礼しますとか、すみませんとかは言っていた。
それが昼食の器を片付けに来た時には、ほぼ無言。
言葉を交わす暇すら惜しいのかと思うほどに、素早く皿を片付けて部屋を出て行ったのだ。
…あの様子だと、何かあったんだろうな…
「折角スイを遠くに行かせたのに…」
今はスイを外に出している。
理由は簡単、部屋の中に隠すよりも見付からないからだ。
外に出しておけば見付からないし、わざわざ隠し場所を探す必要も無い。
だからスイには呼ぶまで外で遊ぶように言ったというのに…
「いや…早いよりはいいかもしれないか?」
だけど、外に行くのを嫌がったスイを無理やり追い出した意味が…
そんな事を考えていると。
「クシマ様、セルリアです。入ってもよろしいでしょうか?」
やっとセルリアさんが来た。
時間は少しだけ過ぎているけど…何かあったのかな…?
「はい。今開けますね」
手が塞がっているだろうセルリアさんに代わり、扉を開けに行く。
でもまあ…エレナさんが勝手に開けるんだろうな…
そう思っていたが、結局扉は俺が開けた。
「こんにちは。ごめんなさいね、ちょっと遅れてしまって」
「…走って来ました?」
「…そう見えるの…?」
扉を開けると、
一見何とも無いように振る舞っているように見えるエレナさんとセルリアさんが居た。
しかし、よく見ると額に少し汗をかいていた。
…息を整えてから扉を叩いたんだろうけど…汗を拭かないと意味無いと思うんだけど…
「上手く隠してるつもりみたいですけど、詰めが甘いせいで意味が無くなってますよ」
「…今度からはハンカチを持っておくわ…」
「…やる意味はあまり無いと思いますけどね…とりあえず、中にどうぞ」
長々と立ち話をするような内容でも無いので、とりあえず部屋の中に入ってもらう。
「遅れておいて何なのだけれど、すぐに出なければいけないのよ」
「えっ、何でですか?」
早速椅子に座ったエレナさんは、開口一番にそう言った。
…じゃあ別に来なくてもよかったんじゃ…
「もうそろそろ、王都から出ないといけないのよ。いわゆる視察ね」
「今日一日忙しかったのも、その準備のためです。
そのせいで、クシマ様にはあのような態度をとってしまい、申し訳ありません…」
「あ、いえ。別に気にしてないですし、急いでいたなら仕方ありませんよ」
意図してあんな態度をとったんならともかく、忙しかったのなら仕方無いだろう。
本当に気にしてないしな。
「忙しいのは急に決まったからなのよ。兄様が私に押し付けたのよ…絶対…!」
「それは言いがかりなのでは…」
「本来なら殿下が行く事になっていたのですが…急にエレナ様が行く事になったので…」
「ああ…あり得そうですね…」
アルバート王子なら、俺からエレナさんを離そうと思ってやるかもしれない…
セルリアさんが紅茶を渡しながら言った言葉に、そう思った。
「そのせいで、一ヶ月くらい貴方の所には来れなくなるの」
「そうなんですか」
あれ?そうなると、俺はどうなるの?
連れて行ってくれる…わけは無いだろうし…
セルリアさんは付いて行くだろうから…ん?放置される?
一ヶ月の間、俺をどうするのだろうかと考えていると。
「だから、その間はセルリアが貴方に付く事になるわ」
「…ん?」
思っていたのとは違う言葉に、一瞬思考停止してしまった。
…あれっ?セルリアさんを俺に付けるの?
「そんな事して大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、他にも侍女は居るんだから。それに貴方を任せられるのはセルリアしか居ないのよ」
「いや…そういう意味では無いんですけど…」
セルリアさんを連れていかなくていいのかな…?
そう思ってセルリアさんを見ると、特に不満気な様子は無かった。
…うん、大丈夫そうだな…
「私もちょっと心細いけれど、カズヒコさんの食事の用意はセルリアにしか任せられないのよ」
「他にクシマ様の食事を用意出来る人が居れば、話は別なのですが」
ふむ…確かに食事を持ってきてくれないと俺が困るけれど…
「せめて料理出来る場所があれば…自分で作れるのに…」
「あら?調理場なら、此処にもあるわよ?ねえセルリア」
「はい。今は使われておりませんが、此処から少し歩けば調理場があります」
「そうなんですか…」
ああ…そういえば室内はあんまり見てないからな…知らなくて当然か…
「それにしても、料理出来るの?」
「まあ…人並みには」
一人暮らしだったから、最低限の炊事くらいは出来る。
とはいえ、人様に出せるほどは上手くは無いけど。
「じゃあ調理場を使えるようにすれば、食事は自分で作れるって事ね!」
「エレナ様、何を…」
「セルリア、やっぱり貴女は私と一緒に来なさい」
「ですが…クシマ様は狙われているのですよ?」
「城の警備は万全だし、そもそも今まで危険な事なんて無かったじゃない」
…うん?これはチャンスかも?
エレナさんの言葉に、押され気味になっているセルリアさんにそう思った。
「だったら、こうするのはどうですか?」
だから俺は、二人にある提案をする事にした。




