二十一話目、自由を運んで来る鳥
朝から驚くような出来事が起きすぎている。
もう、何をどうすればいいかも分からない。
「………」
とっ…鳥が…しゃべった?
中でも一番の驚き、鳥がしゃべった事なんて常識外れすぎて、
紙詰まりしたコピー機のように頭が処理出来無い。
「いっ…いや、気のせいかもしれない。さっきだって幻聴が聞こえたし…」
そうだ、気のせいに決まってる。
たとえ気のせいじゃなくても、幻聴だ。
本当に鳥がしゃべるわけがない。
そう思って、さっきの幻聴が言った通り、雛鳥の首のあたりを撫でた。
(あ~そこそこ。あともうちょっと下…)
「うわぁ!」
また!また聞こえた!
幻聴とは思えない程はっきりと聞こえた声にびっくりして、思わず一歩後ろに下がった。
すると、聞こえていた声が急に途切れた。
あれっ、何か変だな?と思った後、もしかして…と考え、もう一度鳥の体に触れる。
すると。
(むう~…何で途中で撫でるのをやめるの?)
「やっぱり…!」
触れている間だけ声が聞こえる!
という事は、声を聞きたい動物に触れたら、声が聞こえるって事か…
はっ…!もしかして、これが俺に与えられたチート…
「なわけあるか!」
これがチートだったら俺は泣くぞ!それ以前に、こんなのチートと呼べるか!
思わず窓のふちを叩いてしまうくらいに、しょぼい能力だったのが悲しかった。
「まあ…無いよりはましだと思おう…」
たとえ使い所の無いものでもな…
雛鳥を撫でながら、そう思う事にした。
(どうしたの?元気無いけど…)
「ああいや、心の底から悲しいなって思って…って、こんな事言っても分かるわけ無いか…」
(悲しいの?だったらわたしを撫でてよ!)
「あ…伝わってるんだ…」
どうやら一方的なものでは無く、お互いに伝えられるようだ。
といっても、ただ会話出来るだけじゃあな…
「クシマ様、朝食をお持ちしました」
「うげっ…!」
今来てほしくない人が、嫌なタイミングで来た!
雛鳥を部屋の中に入れた事を怒られると思い、雛鳥を隠せる所を探す。
その時、ふと見えた姿見に映る自身の変化に気付き、尚更見られるわけにはいかなくなった。
「クシマ様?入ってもよろしいでしょうか?」
「ちょっ!ちょっと待ってください!今、着替え中で…」
(着替えてはないよ~?)
「お願いだから静かにして!」
いくら俺にしか聞こえなくとも、しゃべられると反応しちゃうから!
小声で雛鳥に注意し、結局は部屋の中に隠したらばれるという事で、
窓の外にある茂みの上に、着ていたシャツを敷いて雛鳥を乗せた。
「窓を二回叩いたら中に入っていいって合図だから。それまでここで待っててね?」
(うん、分かった~)
まるで親に飼ってはいけないと言われた犬猫を、隠れて飼っている小学生のようだな…と思った。
実際は鳥だけどな…
そんな事を思っている間に、手近にあったシャツをさっと着て、
扉の前に居るだろうセルリアさんを迎えに行く。
「すっ、すみません。ちょっと汗をかいてしまって…」
「そうなのですか?今日は、そんなに暑くは無いはずですが…」
「夢見が悪くて…ちょっと嫌な汗をかいたんですよ」
「そうですか。どのような夢だったのですか?」
「…昔の事、ですよ…」
俺の言葉を聞いたセルリアさんは、それ以上は聞いてこなかった。
…大方、昔の事と聞いて勘違いしてるんだろうな…でっちあげた昔の事と…
「朝食の準備が出来ました。今日はエレナ様は昼の三時に来られるそうです」
「分かりました」
「それと申し訳無いのですが、器は後ほど回収いたしますので、
テーブルの上に置いたままにしておいていただけますか?」
「いいですけど…どうかしたんですか?」
「今日から忙しくなるので…しばらくの間はこちらに長居が出来無くなるかもしれません」
「そうなんですね。なら、此処はもういいので、急ぐのなら行ってください」
「お気遣いありがとうございます。では、失礼いたします」
急いでいる様子は無いものの、いつもより機敏な動きでセルリアさんは部屋を出ていった。
…本当に急いでたんだな…
「さて…」
朝食を食べよう。
の前に、窓をコン、コンと叩き、窓を開けた。
「静かにしてくれてありがとうね」
(静かにしててえらい?ならもっと撫でて~!)
「はいはい、よしよし」
茂みの上でおとなしく待っていた雛鳥を褒めながら撫でる。
そして雛鳥を抱えて、自分に起きている変化をしっかりと確かめる為にもう一度姿見を見た。
「…髪の色が…変わってる…!」
雛鳥を抱えた俺の姿は、明らかに変化していた。
まず、耳までかかるくらいの長さの黒髪は、今は爽やかな風を思わせる黄緑色になっている。
更に間近で見てみると、目の色も黒から深い海を思わせる青色になっていた。
…何だか目の色はセルリアさんに似てるな…
「何でこんな事に…」
そう考え、ふとある本に書かれていた事を思い出した。
雛鳥を抱えたまま、見終わっていた魔導書を開き、目的のページを見付けた俺は、
そこに書かれた文章を見て、この状態になった理由が分かった。
「魔力には色がある…か…」
詳しい事は長くなるから要約すると、一説によれば魔力は髪と目に宿っていて、
属性によって色が決まっているらしい。
この本によると、今の俺は風の緑と、水の青のようだ。
…よく考えたら、雛鳥の体毛と髪が同じ色…あっ、よく見たら目も同じ青色だ…
「という事は、この子の魔力が俺に伝わった、って事か…」
熱や電気と同じ事が、俺に起きたって事か。
…もし本当にそうなら、俺には魔力が無いって事になるけどな…
その事実には目を逸らしたい為、本をぱたりと閉じた。
(一人でぶつぶつ言って、どうしたの?)
「あっ、何でも無いよ。君のおかげで変わった理由を調べてただけだから」
(それって、いい事?)
「…そうだね…良い事、だね」
よくよく考えれば、この変化は俺にとって良いものだった。
これなら…前まで出来無かった事も出来るかもしれない…色々と確かめておかないとな…
「あっ、でも君は親の所に帰らなきゃいけないのか…」
(…?どうして?)
今の考えは、雛鳥の意思を無視した考えだ。
それに、雛鳥が俺と一緒に居たがったとしても、親鳥は心配するだろう。
となると、今一番確かめないといけないのは、親鳥がこの雛鳥を心配しているかどうかだ。
その次点で、雛鳥と俺が一緒に行動するのを、親鳥が許してくれるかどうかである。
その二つを確かめないと、雛鳥とは…
(わたし、お母さんの所に帰れないよ?)
一緒に居れないどころか、一緒に居るしかない状況だった。
あっ…頭、痛くなりそうかも…
「…ちょっと待って?帰れないってどういう事?」
(帰り道が分からないの。方向ならわかるけど)
「………」
おおっと…?これは話し合わなきゃいけないぞ~?
自分の事より、この雛鳥の方が心配になった。
「ええっと…とりあえず話し合いたいから…名前、聞いていいかな?」
(名前?わたし達魔物に名前は無いよ?)
「名前は無いのか…」
まあ、動物に名前の概念が無くても不思議じゃないか。
無いならルイーザの時と同じように付ければいいんだし。
そう思った俺は、雛鳥の名前を考える事にした。
…魔物って言った所には触れないでおこう…
「名前があると便利だろうから付けるね。えっと…」
(名前付けてくれるの?わ~い!)
名前を付ける事を喜んでくれる雛鳥を見て、名前の付け甲斐があるなぁと思いながら考える。
う~ん見た目は翡翠っぽいから…翡翠…翡翠?
「…スイ、はどうかな?ヒスイのスイ。女の子っぽい名前でしょ?」
(ヒスイのスイ?何か分からないけど嬉しい!)
どうやら雌らしいので、女の子っぽい名前にしようと思った。
その上で、この雛鳥に関連するもので考えてみると、カワセミっぽい事しか思いつかなかった。
そこでカワセミとヒスイの漢字が同じだったのを思い出した俺は、
ヒスイから名前を取って、スイと雛鳥に名付けた。
よく分かってないみたいだけど…喜んでくれて良かった。
「名前を付けた事だし、話し合いを始めようか」
そう言って俺は、朝食を食べながらスイと話し合いをする事にした。




