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十九話目、退屈しのぎの現実逃避

 「………」

 自分以外は誰も居ない自室、無音の室内は本を読むのに適している。

夕食を食べた後、日課である読書をしている。

 「あ~…駄目だ、これも違う…」

 色々な本を読んでいるが、一向に帰る方法が見付からない。

歴史書、魔導書、果ては関係無さそうな植物、地理の本。

様々な本を読み漁っても、手掛かりすらも見付からない。

 「でも、面白かったな~…この研究書…」

 一番可能性が高いと踏んで、セルリアさんに頼んで借りてもらった白の英雄に関する歴史書。

内容は史実に基づいて書かれているらしいのだが、

出てくる人物が人物なだけに、英雄譚どころか、最早ライトノベルのようだった。

 「にしても…不思議なんだよな~…」

 白の英雄について調べていると、どれもこれも幼少期についての記載が無かった。

出生については書かれているのに、だ。

生まれも不明であれば、俺と同じように世界を越えて来た、俗に言う異世界転移者なのだが、

生まれがはっきりしているのなら、異世界転生者である可能性が高い。

とはいえ、誤魔化している可能性だってあるが。

 「そもそもの話、俺と同郷かどうかだってはっきりしないのに…」

 ただ国を興しただけで、異世界から来たと言うのは暴論だとは思う。

まあ…あくまで可能性の話だけど。

でも、俺が白の英雄を調べ続けているのには理由がある。

 「若くして王の座を降りた後、一人で平穏に過ごした。か…」

 他の歴史書には、失踪、隠居、

はたまた流浪の旅に出て他の国で余生を過ごした等、書かれていた。

つまりは、白の英雄の晩年については記述がバラバラなのだ。

英雄と呼ばれた人間の最後が不明なんて事があるだろうか?

普通なら、盛大な葬儀をするものなのではないだろうか?

現に、白の英雄の仲間だった人は、国を挙げて葬式を行っている。

他にも、白の英雄とは関係なくても一応調べてみた歴史に名を残した人達は、

同じように国が葬式を行っていた。

という事は、白の英雄はもしかしたら、

他の世界に行った事で消息が分からなくなったのではないだろうか。

だから白の英雄の行方が分からなくなってしまったのかもしれない。

いや、絶対そうに決まってる。

 「はぁ…」

 分かってる。

これがただの希望的観測だって事くらい自分でも分かっている。

でも少しくらい良いじゃないか、現実逃避をするくらい。

そうでもしないと、心が折れそうなんだから。

 「もうそろそろ…限界なのかな…」

 この世界で生きる事が。

ではなく、本だけで元居た世界に戻る方法を探す事がだ。

実際の所、本だけで見付かるなら、とっくに見付かっているだろう。

それに、百聞は一見に如かずとも言うように、行ってみなければ分からない事だってある。

 「まあ…何処にも行けないけどな…」

 城の外どころか、部屋の外にも行けないんだから…

もう手詰まりだと思うと、本を見るのすらも嫌になってベットに寝転がって天井を見た。

だが暇である。

寝るにはまだ早い気がするし、どうしようかと考えていると、

丁度良い話し相手が居る事を思い出す。

 「ルイーザ~こっちにおいで~怖くないよ~大丈夫だよ~?」

 怖がらせないように、まるで犬猫を呼ぶかの如く天井裏に居る人物に呼びかける。

しかし、全然出てくる様子が無かった。

…そうか、そっちがその気なら…

 「よし、今から何とかして天井裏に行くから待ってろよ」

 そう言った途端、天井から人が降りてきた。

 「始めから素直に出てくれば、面倒が無いのに…」

「………」

 俺の態度が気に入らないのか、ルイーザはものすごく睨んできていた。

…返事をしない方が悪いと思うけど…

 「…それで、何の用?」

「暇だから話し相手になって」

「…そんな事の為に僕を呼ばないで」

 予想していたよりもくだらない事だったからなのか、不服そうな声音でそう言われた。

…一人称についてはつっこまないからな?

 「酷い言い草だな?元はと言えば、そっちが原因でこうなったって言うのに」

「僕に言われても困るんだけど…」

「アルバート王子の代わりに、責任とって話に付き合え」

「何で僕が…」

「アルバート王子が主だからだ。諦めろ」

 表情を見れずとも分かる苦々しさに、八つ当たりみたいだったかなと思うが、

毒を盛ったのはルイーザなので別にいいかと思う事にした。

 「さて、何の話をしようか?」

「楽しそうね…」

「そうか?まあ、唯一素のままで話が出来るからな」

 そういう意味では、俺の事を一番分かっている人物なのかもしれない。

…そう思うと、顔を隠されてるのが気に入らないな…

 「なあ、その顔に巻いている布、取って見せてくれないか?」

「絶対に、嫌」

「別にいいだろ、天井裏に居て顔を合わせる事なんて無いんだから」

「絶対に嫌!」

 むうっ…どうやら本気で素顔を見せたくないようだな…

 「普通なら見れない俺の黒目と黒髪を見せてるんだから、顔を見せてくれたっていいだろ?」

「影の仕事をしている人間に、顔を見せろって言う方がおかしいのよ!」

「人の顔を見るのに、影も日向も無いと思うんだけどな?」

 隠されると見たくなるのが人間というもの。

ここまで嫌がるという事は、何かあるのではと勘ぐってしまう。

様子を見るに、どうせ大した事じゃなさそうだしな。

 「ええい、往生際が悪いぞ。観念して素顔を晒せ!」

「ちょ…何して…って、首をくすぐらないでよ!分かったから!取るから!」

 別に本気で取る気は無かったのだが、

くすぐり攻撃が予想外に効いたのか、顔を見せてくれるようだ。

…本当に大した理由じゃなかったんだな…

ルイーザは俺から少し離れて、目以外の顔全てを隠している布をするすると解いていく。

 「………」

 ルイーザの素顔を見た俺は、驚きのあまり言葉が出なかった。

その理由は、元から見えていた空色の瞳や隠れていた紫色の髪の鮮やかな美しさでも、

思っていた以上の美少女だった事でもない。

 「えっ…どうやってその髪を仕舞ってるわけ!」

 思わずそう大声で言ってしまう程に、ルイーザの髪は長かった。

背中まである髪は、まるで藤の花を思わせる鮮やかな紫色で、

雲の無い空をそのまま写したような空色の瞳は、髪の色と相まって冷たい印象を与える。

だが、その冷たさを凌駕するくらい可愛らしいのである。

顔立ちはもちろんの事、背丈もエレナさんやセルリアさんより少し小さいのである。

そのせいか、何処か妹のような可愛らしさがあるのだろう。

…妹が居るわけじゃないけど…

 「髪はこうやって纏めてから巻いてるの。こうやって」

「…ごめん、全然分からない…」

 髪をシニヨンのようにしてから、布で顔を覆っているのは分かるが、

あの量の髪の毛がどうして綺麗に仕舞えるのかが分からない。

…布を巻いてる時は、もっと短いように見えてたのに…

 「だから…ここはこうやって…」

「あ、もういいよ。何度見ても分からないだろうから」

「…そう…」

 その顔には、聞いたくせに…と言わずとも伝わる表情が張り付いていた。

…説明する手間を省いたのに…

そんな話をしている内に、もういつも寝る時間になっていた。

 「もうこんな時間か。ルイーザの素顔と髪について話してただけなのに、時間が経つのは早いな」

「…どうするの?まだ続けるつもり?」

「いや。もう寝るから戻ってもいいよ」

「なら戻る」

 そう言ったルイーザは、さっと戻っていった。

…早いな…そんなに天井裏は居心地が良いのか?

 「ふあ…俺は寝るかな…」

 ああ言った手前、寝ないわけにはいかないからな。

そう思った俺は、のそのそとベットに潜り込んだ。

今夜は良い夢が見られるかもしれないと思いながら。

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