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十二話目、望んでも望まなくても

 毒を盛られてから、約一ヶ月が経とうとしていた。

 「今日もですかね…」

「私からはどうにも…」

「一応来たんだが…どうかね?」

 今日も医師は解毒薬片手に待機している。

というのも、毒は一週間に一度だけ、昼食にのみ仕込まれていて、

今日が毒を仕込んでくる四回目の日だからだ。

 「香りは前に食べたものと同じシチューだと思うんですけど…」

「今まで使われた毒は香りが強いわけじゃないが、同じ毒が使われてないかもしれない」

「もしかすると、前より香りがしない強い毒が使われているかもしれません」

「それも食べてみないと分からない…ですよね…」

 今日までの三回は全部同じ毒だったらしく、対処は楽だったらしい。

しかも、毒が入っている時は香辛料を足してごまかしているから、

香りが違うと毒入りだとすぐに分かる。

 「…やはり、毒見役はいりませんか?」

「毒見をしてもらうほどの立場ではありませんし、誰に毒見をさせるんですか?」

 セルリアさんの提案は、最初に毒を盛られてからされてるが、俺の場合は問題がある。

まず、毒見をする人間が居ないという事。

エレナさんやセルリアさんは、立場上除外なのは当たり前だとして、

医師が毒見をしても意味が無いし、だからといって俺の事を知る人間はこれ以上増やしたくはない。

だから結局は、俺が食べないと毒の有無が分からないというわけである。

 「分かってはいます…ですが、毒が入っているか分かっているのに、

クシマ様が食べなければいけないのでしょうか?」

「実際に食べないと本当に毒入りか分かりませんし、

入っていたとしても代わりに何を食べるんですか?

何処で毒を盛られているか分かっていないんですよ?」

 暗に、この昼食を食べるなと?という言い方と視線を向ける。

捨てるのは簡単だけど、誰かが食べる必要があるから俺は食べなきゃいけない。

その理由は、セルリアさんでも言えない。

言えばきっと止められるから。

 「…今回も毒を盛られていれば、それは私の落ち度です。

そのせいでクシマ様が苦しむのであるのなら、私は出来る限り貴方の助けになります」

「…ありがとうございます…」

 さすがに止める理由がなくなったからか、一応は納得してくれた。

…でもいくら四回目とはいえ、毒入りの食事を口に入れる勇気は結構いる。

 「では、いただきます…」

 意を決してシチューを口に運ぶ。

…やっぱり、味が薄く感じる…

最初に毒を口にしてから、食べ物の味が薄いと感じるようになっていた。

多分、毒のせいだと思うから誰にも言っていない。

…たとえ一週間の間があるのに回復の兆しが見えなくても、いつか元に戻るだろう。

味の薄いシチューを何の感慨も無く食べ進めていって、シチューの入った皿を空にする。

 「…いかがですか…?」

「特に何ともありません」

「なら、遅効性の毒だろうか?」

「それは夕食時に使った方が効果的ですから、それは無いと思います」

 たとえそうだったとしても、誰かに見付かる可能性がある。

寝る時に効くならまだしも、昼食に使わない代物だと思う。

 「つまりは毒は入っていないという事でしょうか?」

「今日何ともなく過ごせれば、ですね」

 そう言いつつも、内心ではもう毒は仕込んでないなと確信する。

 「なら、今は私の出番はないようだね。何かあればすぐに来るよ。では」

「ありがとうございます」

「またお世話になる時はよろしくお願いします」

 部屋を出て行く医師に目を向けず、シチューと一緒に出されたパンとサラダを眺める。

…食べなきゃいけないんだよね…

別に満腹ではないんだけど、味の薄い料理を食べる気になれるかは別な問題。

でも食べないと空腹のままだし、セルリアさんにさせたくもない心配をかける。

それに何より、味がしないわけじゃないのに、食べたくないと思うのは情けない。

元居た世界には味覚障害でまったく味を感じない人も居ると思う。

そういった人に比べたらまだましなんだから、

このくらいで弱音を吐くのはそういった人達に失礼だ。

そう思いながら、パンとサラダを口に放り込む。

 「…これでもう誰にも狙われないでしょうか」

「それは誰にも分かりませんよ」

 一口大にちぎったパンを少し噛んで飲み込んでからそう言う。

だけど俺はこれからも狙われる、いや、もっと酷くなると思っている。

それが何かまでは分からないけど、考え得る方法は二、三個程はある。

そんな事を考えてる間に、昼食は全て食べ終えていた。

 「ごちそう様…」

「もうよろしいのですか?」

「はい。今日も美味しかったです」

 欠片程も思っていない味の感想を伝え、

空になった昼食の器をセルリアさんが運んで部屋を出て行った。

 「…何が正しいんだろ…」

 頭に浮かぶのは最悪の可能性ばかり。

天井を仰ぎ見てつぶやいた言葉は、信じたくない物に目を向けるため、

誰よりも自分に向けた言葉だ。

 「答えが分かっても、いつか予想も出来ない事が起こるんだろうな…」

 その時が待ち遠しいような、そうでもないような…

はっきり言って、今の状況から楽になれるなら死んでもいいと思っているのと同じくらい、

死にたくないとも思っている。

 「せめて、狙って来る理由が分かればいいんだけど…」

 そうすれば、相手が誰か考えられるし、

交渉をしてもう狙って来ないように出来るかもしれないのに…

 「普通に生きていたいって思う日が来るなんて…」

 きっと小さな町で見付かったら、こんな目に遭う事も…いや、別な危険があったかも…

 「はあ…早く帰る方法を見付けたいなぁ…」

 結局は、望んでも望まなくても、誰かが俺を狙って来る。

だったら元居た世界に帰るべきなんだろうな、とぼんやりと考えていた。

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