十一話目、独りぼっちは辛くて悲しい
嫌ダ…何デ俺ダケガコンナ思イヲシナイトイケナインダ…
「それはお前が必要ないからだ。お前は要らないんだよ、この世界にとっても、な」
「今のは…夢、なのか…?」
目を覚ますと、いつの間にかベットで寝ていた。
…一体どのくらい意識を失ってたんだ…?
窓の外を見ると、日は高く、そこまで時間はたっていないように思える。
「それにしても…あの夢は一体…」
確か内容は…あれ?思い出せない…
かろうじて覚えていたのは、誰かに何かを否定された事だけ。
それ以外に思い出せないかと、十分程悩んでいたら。
「あ…目を覚まされましたか…」
「はい。ところで、どれくらい眠っていたか教えてくれますか?」
セルリアさんが部屋に入って来た。
その手には、水が入っているだろう桶と、タオルのような布があった。
「丸一日程です。少し前まで高熱で魘されていたので心配しておりましたが、
目を覚まされて安心しました」
「そうですか…」
どうせするなら心配じゃなく、反省にしてほしい。
誰のせいでこんな事になったと思ってるんだよ。
あの時止めてくれたら苦しい思いをしなかったのに。
そう思うも、毒入りなのを分かっていて、自分から食べた手前、
セルリアさんを責める気はしなかった。
「そういえば、丸一日眠っていたという事をエレナさんは知っているんですか?」
「はい。ですが、眠っていた事は伏せて、体調不良で会う事が出来ないという事にしています」
「…ありがとうございます。エレナさんに嘘を言ってくれて」
「約束をしましたので。それに、クシマ様の言う事も納得出来ますし…」
だとしても、報告は大事だと思うんだけど?
いくらエレナさんに危険が及ぶ可能性があるとしても、さすがに嘘はよくないと思う。
「エレナ様はおそらく、今回の事を知れば面白そうと言って、犯人探しを始めると思われます」
「つまり、暇だから首を突っこむのを、止めるために嘘を言ったと…」
貴族の人って暇を持て余してるのか…?
そう思わざるを得ない話に、心の中で半目になってしまう。
セルリアさんも俺の言った言葉に頷いているのを見るに、
エレナさんが犯人探しをするのは嫌なんだろうか…
「忘れておりました。叔父様から伝言を言付かっていて、
少しの間はベットの上で安静にした方がいいとおっしゃっていました」
「分かりました。…もう話す事が無いなら、一人にしてもらっていいですか…?」
「ですが、毒が盛られていた以上、何かあるかもしれないのですよ?」
「それでも…少し気分が優れないので…お願いします」
毒が抜けきっていないせいか、体が少し重く感じた。
それを伝えると、セルリアさんは気を使ってか。
「分かりました…夕食の時にまた来ますので、よろしいですか?」
「はい。…すみません…」
苦笑しながらも、一人になる事をセルリアさんは了承してくれた。
その笑顔を見て、少し申し訳ない気持ちになってしまうのは、
我が儘を言っている自覚があるからだろうか。
「では…私は別の仕事に行って参りますので」
そう言ったセルリアさんは、扉をゆっくり閉めた。
「ふう…」
重く感じる体をベットの上に倒して、息を吐くと同時に力を抜く。
すると、何故か目の前がぼやけてきた。
一人になって思い出すのは、毒を飲んだ時の痛み、そして死んでしまうかもしれないという恐怖。
セルリアさんが居た時は気を張っていたから、
その反動で一人になった途端に気が緩んで涙が出たのかもしれない。
「っ…うっ…ううっ…」
正直、後悔した。
死ぬかもしれないと思うと、体がどんどん強張っていく。
誰かに殺されるかもしれないという事が、こんなに怖いとは思わなかった。
泣いてしまうのもしょうがないと思うくらいに。
「っ…何で…俺だけがこんな思いをしないといけないんだ…!」
まだ生きていたい。
まだ死にたくない。
そう思っていても、足掻く事も出来ない。
分かっていても、その事実は辛くて苦しい。
「どうにも…出来ないのになぁ…」
そう思うしかなかった。
また毒を盛ってくるだろう犯人に、もうやめてほしいと祈って。
翌日、見舞いに来たいというエレナさんを部屋に呼ぶ事になった。
ぼろが出ないように、セルリアさんと事前に話し合い、
何が何でもばれないように話を合わせてエレナさんの前に臨んでいる。
「急に具合が悪くなったと聞いて、心配したわ。前から体が弱かったのかしら?」
「そういう事では無く、環境が変わったせいで体調を崩しただけだと思います」
「そうなの?」
「はい。まだ本調子ではないので、また具合が悪くなるかもしれません」
さすがにもう大丈夫とは言えなかった。
また毒を盛られる事もありえるし、いつ毒を盛ってくるか分からないから、
体調が崩れやすいと言うしかなかった。
「貴方も大変ね。そういえば、今まで貴方は何処に住んでいたの?」
しかし、それで予想外の質問をされてしまった。
まあ、内容は元々考えていたけど。
「事故に遭った後から色んな場所を転々としてて、
正直言って何処に来た事があるかも覚えてないんです」
「何処かに住んでいた事は無かったの?」
「長くても三ヶ月くらいです。
まあ…その三ヶ月居た場所はやむを得ず離れてしまったんですけど…」
「…ごめんなさい…嫌な事を思い出させてしまったみたいね…」
「いえ、別に気にしなくても大丈夫ですよ?」
だって嘘だから。
決して言えない事だが、思わずにはいられなかった。
そんな風にエレナさんと談笑していると、急に体が重くなってきた。
毒が抜けきってないと医師に言われていたから、そのせいだと思われる。
…少し辛いな…そう思っていると。
「エレナ様…もうそろそろ彼を休ませるべきかと思われます」
「ああ、そうね…それじゃあ私は部屋に帰るわ」
「あ、はいそれじゃあ」
エレナさんが席を立ち、部屋を出て行く。
セルリアさんは今日一日俺に付くらしく、エレナさんが出た後も、部屋に居る。
「…嘘が上手いと思ってましたか?」
紅茶に口をつけてからセルリアさんに問いかける。
色々と嘘を吐いているから、どう思っているか気になったからだ。
「本当の事を言っているかと思ってしまいました。…どう見ても、嘘を吐いているようには…」
「そうですか…」
セルリアさんの言葉に、怪しまれている可能性が出てくる。
だが、どうせ真実は俺だけしか知らないし、誰も思い付きはしない。
そう考えて、疑われていても大丈夫だろうと楽観視した。




