閑話:台風
クリスは風の音で目が覚めた。
クリスが窓から海を見ると、雨がすごく風も強いことはわかるが、夜でよく見えない。
たぶん、海がものすごく荒れていると思う。
「もしかして、クララが言っていたことは本当かも…」
クリスは急いで伝える必要があると思い、詰所に向かった。
クリスは息があがっていたが、ドアを開けると共に「台風が来るわ」と言った。
「台風? ちょっと海が荒れているけど、台風かどうかはわからないわ」
「いや、それだけじゃないの。クララが教えてくれたの」
「クリス、何の話をしているの?」
クリスを指を上を向けてクルクル回しながら「クララが手をクルクル回しながら、大きいの来ると言ったの」と言った。
「それだけのことで台風が来るって? はぁ… クリス、クララが言語を理解していることは知っているわ。よく考えて。クララはここで生まれて外に出たことがないのよ。台風なんて知っているわけないじゃない」
「お母さん、だって、南西の方を指さして、手をクルクル回したのよ。台風は南西から来ることが多いし… 野生の勘?」
「野生の勘? クリス、いつも論理的に考えなさいと言っているでしょ? そんなことより、倉田さんが貯水池を確認しにいっているわ」
「貯水池?」
「水が来ていないのよ。水力発電のタービンも止まっているわ。太陽も出ていないし、このままだと電力が足りなくなるわ」
「じゃ、私も確認に行くわ」
「ダメよ。停電に備えて、準備しなきゃ。その遺伝子組み換えの胚は液体窒素に入れておいて」
「はい」
クリスはキャサリンの指示に従い、作業を続ける。
急に、扉が乱暴に開かれた。
「キャサリン、逃げるぞ! 崖崩れが起きる! 急げ! クリス、そんな作業はいい。来い!」
とクリスの腕を掴んで部屋を出る。
研究所の外はものすごい風と雨だ。
クリスが風に躊躇していると、倉田が「急げ!」と引っ張る。
倉田の懐中電灯はたよりなく、数メートル先しか照らしていない。
しばらく歩くと、石の階段に出た。
クリスはやっと知っている場所だとわかりホッとする。
クリスは一息つきたかったが、倉田はクリスを手を引き、階段をのぼる。
その時、雷が光った。
その光で見えた海は真っ暗なのに荒れ狂っていることがわかる。
研究所にも波が打ち寄せていた。
鳥居をくぐった先の神社があり、神社の扉を開けると10人近くの人がいた。
その人たちはクリス達を冷たい目で見ていた。
クリスは研究所がこの土地の人に歓迎されていないことは知っていたが、冷たい目を向けられたことはなかったので、少し怯んだ。
だが、一人の女性がクリスに向かって「怖かったでしょ、こっちにいらっしゃい。タオルがあるわ」という。
クリスは自分の髪がぐっしょり濡れており、自分が震えていることに気づいた。
キャサリンは「ありがとうございます。クリスをお願いします」とクリスの背中を押した。
キャサリンは倉田さんと大人達の場所に行き、何やら話している。
すると、光と轟音が聞こえ、振動があった。
「「キャー」」とクリスの周りの子供達が怯えた。
倉田さんと何人かが、外に駆け出した。
「雷が落ちた見たいね。でも、ここは中津綿津見神様に守られているから安全よ」
クリスは神様を信じていなかったが、雷や暗い荒れた海を見た今は、何か畏怖すべき物があると思った。
どのくらい経ったかわからないが、倉田さん達が帰って来たが、重苦しい雰囲気があるので聞きに行けない。
クリスは疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまった。
クリスは肩をゆすられて起きて、周りを見渡したが、周りにいたのはキャサリンだけだった。
「みんなは?」
「帰ったわよ」
クリスが扉を開けると、眩しい朝日が顔にあたる。
風は少し強いが怖くはない。
クリスは外には研究所のメンバが全員揃っていることにホッとした。
「台風は去ったのね」
キャサリンはクリスの言葉には何も返さず、クリスの手を引き石の階段を降りる。
階段の中段にさしかかると、木の隙間から研究所が見えた。
研究所の山側には大きな石がめり込んでいるのがわかった。
「あのまま避難しなかったら、危なかったね」
「そうね…」
研究所に近づくにつれ、海側も崩れている箇所が見える。
そして、研究所の被害の大きさがわかった。
太陽光パネルの半数はなくなっており、海側の地形も変わっている…
「終わりだな…」と倉田の呟きが聞こえた。




