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分断

「——ぬっ、ぐっ!」

 床を何枚もぶち抜きながら落下していく。配管や謎の床材が崩れる騒音が耳障りだし、粉塵が鬱陶しい。

 隠密行動でと言った矢先にこんな凡ミスを犯してしまうとは。

「⋯⋯むぅ、だいぶ落ちてしまったな」


 ようやく頑丈な床に着地できた。見上げる俺が落ちてきた穴の奥の暗がり。エンジュ達がいる階層は遠い。

 何より崩れて完全に塞がってしまっていて、跳んで戻るのも厳しそうだ。

 余計なことをして、エンジュ達がいた場所も崩してしまったら目も当てられない。

 大声をあげて呼びかけるわけにもいかないのでアームデバイスで生存を伝えておく。


 それにしてもここまで脆い床ではなかった筈だがな。

 現に以前エンジュを抱えて村に繋がる穴まで跳んだ時は何ともなかった。

 ⋯⋯創造者クリエイターが何かしたのかもな。あいつらの行為に意味はない。賽の河原の如く無限に都市を造っては壊していく。

 運が無かった。


「⋯⋯なかなか既読がつかないな」

 俺が落下する時に酷く音を立ててしまった。もしかしたら返事をする余裕がない状況なのかも知れない。

 シュマがいるし、エンジュももうそれなり以上に短槍を扱えるが、どうにも胸騒ぎがする。何とかして早く合流しなければ。


「⋯⋯獣挽き、おきてくれ」

 背負った獣挽きをコンコンと小突いて起こす。

 アームデバイスに入れてきたマップが、役に立たないエリアに俺は居るらしいという事しかわからない。

 俺一人ではどうにもならん。ナビがいる。

 獣挽きには図書館の司書のコアパーツがインストールされている。大まかでもこの一帯の地図がある筈だ。


「⋯⋯どうしましたマスター? あれお一人ですか? 今日はエンジュさんと探索という話では無かったですか?」

 スリープモードから覚めたばかりで、今の状況を把握できてない獣挽きに手早く説明する。


「それはちょっと運が無かったですね。床の下を崩されているとは流石に想定しませんし」

 たらればを言っても仕方ないが、エンジュが用意していた縄梯子をを使っていればこうはならなかった。悔やんでも悔やみきれんが、今するべきことはあれこれ後悔することではなく、早急に合流することだ。


「慰めはいい。君には元の階層に戻るためのナビを任せたい。最短距離で頼む」

「任せてください! 今周辺状況を検索にかけます」


                   ◇


「イオド、落ちちゃった⋯⋯」

 呆然と、エンジュが呟く。隠密行動の意味を調べたくなるくらいあり得ない轟音を響かせて遙か下方へ消えていくイオド。

 一瞬目の前の光景が信じられなかったぜ。


「見りゃわかる」

 どれ程落ちたかしらねぇが、その程度で死ぬような奴じゃねぇのはわかる。今問題なのは、

「——ちっ、やっぱりな! 音を聞きつけて眼紐が来やがった!!」


 俺らが見下ろす階層中に響き渡っただろう、床の崩壊する音に釣られて一頭の眼紐が向かってきているのが遠くに見える。

 数えるのも面倒な複数の目が、美味そうとでも思ってるのかこっちをを捉えて離さねぇ。


「来い! 一旦ここから離れるぞ」

「でも⋯⋯」

 イオドが心配なんだろう。アイツの実力をよく知ってるだろうに、これだから甘ちゃんはよぉ。


「アイツは殺したって死なねぇよ! 今は動け。あの眼紐はデケェ。イオドとの合流を待つにしろ、村に帰って救援を要請するにしてもこの場に留まってるわけにはいかねぇ」

「そ、そうだよね!」

 エンジュの手をとりきた道を戻る。

 イオドとの合流の選択肢を口にしたがその気はない。俺の中では村に戻る一択だ。エンジュを連れた状態で交戦するつもりはねぇ。


「——これでも食らっとけ!」

 撤退する寸前に振り返り、眼紐の進行方向に機獣忌避玉を投げる。

 放物線を描いた拳大の球は地面に着弾し、禍々しい色合いの煙が爆発的に広がる。転移装置に組み込まれてる機獣避け効果を限定的に発揮させる小玉だ。

 眼紐には目眩し程度しか効かないだろうが、何もしないよりは確実に時間が稼げる。


「走れ!」

 稼げる時間は少ない。

 俺は殿で前をエンジュに走らせる。

 配管だらけで走りにくい通路を急ぐ。何度か角を曲がると後ろの方で重い何かが配管を潰しながら移動する音が響いてくる。


「転移装置の機獣避けが効いてねぇ! やっぱ追ってくるよな」

「やっぱりこっちを捕捉されてると効きが悪いよね」

 機獣避けも万能じゃない。機獣にとって何となくそっちに行きたくなくなるような雰囲気にしてるらしい。

 だからこっちの存在がバレてるとお構いなしに追ってくる。


 このままだと追いつかれちまう。何とかアイツが入れないようなエリアに向かわないと。

「———っ! 止まれエンジュ」

「ど、どうしたの?」

 

 とんでもなくヤバい気配を進行方向の曲がり角から感じる。姿はまだ見えないが、以前見た本気の隊長から感じた圧が漏れ出てる。

 額に冷や汗が浮き出てくる。前に進みたくねぇ。かと言って後ろもヤバい。

 

 俺がチキってる間に金属音の重い足音が近づいてくる。規則正しい音の幅からすると、少なくとも二足歩行か。

 息が乱れる。俺はここまでかも知れねぇ。横を見ればどうすればいいか戸惑う幼馴染みの顔。

 最低でもエンジュは逃す。


「⋯⋯前からヤベェのが来る。俺が引きつける。その間に村に戻って応援を呼んでこい」

「私も戦えるよ! 二人で戦った方が良くない?」


 コイツはこの寒気すら覚える圧に気付いてないのか? やっぱりコイツに戦いは向いてねぇな。

 だけど、状況のまるでわかってねぇコイツの態度に緊張に固まった身体と心がほぐれる。


「転移装置までそう遠くねぇ。ここでエンジュが残るよりとっとと応援を呼んできてもらえる方がありがてぇんだよ。合図したら行け」

 不服そうだが頷くエンジュ。後ろの轟音も近くなってきてやがる。


 背負っていた短槍を構える。大きくなる足音。

 角から姿を現したソイツは首から上が存在しなかった。

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