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首無し

 現れた首無しは、最初は古い映像データに出てくるような重鎧を着込んでるのかと思った。

 だがよく見ればコイツは戦闘ドロイドだ。関節部分が人工関節だし、本来なら首が収まっていた部分は引きちぎれた配線や電子部品が見える。

 これだけの損傷で何故動けてるのか知らねぇが、間違いなくまともな機体じゃないことだけは確かだ。


 黒いボディは見るからに戦闘特化の人工筋肉マシマシのマッシブさで、所々ヒビが入り歴戦の風格を漂わせてる。

 右手に抜き身で、何の体液だか血液だかわからない汚れ塗れの大剣を携えている。物理剣に見えるが、今まで村でも記録媒体でも見たことのないモデル。


 俺は槍を構え、いつでも突っ込める。だがどうもドロイドの様子がおかしい。

 戦闘態勢の俺が曲がり角で待ち伏せていた構図なんだが、相手には焦った様子も慌てた様子もない。

「⋯⋯」「⋯⋯」

 エンジュに音を出すなと指を口に当て指示。エンジュも異変に勘づいてるのか黙って頷く。


 ゆっくりと重い足音を響かせ、こちらに歩いてくる。だがやはり俺たちを認識していないのか、奴の進行方向が僅かに俺たちからズレている。

 ⋯⋯首がないから視覚センサーもないだろうし、一体何を頼りに周囲を知覚してやがるんだ?


 黙って動かなければやり過ごせそうだが、後ろから迫る眼紐が足音だけでなく配管を無理矢理破壊しながら向かってくる振動すら響いてくるようになっている。

 このままでは追いつかれちまう⋯⋯!


 首から上が無い奴だ。もしかしたら周囲を知覚する術などないんじゃねぇか? 何かしらのセンサーが生きてるなら、もうとっくに知覚されてる距離だ。

 とても友好的な見た目には見えない。乾いた血液がこびり付いた何かを殺す事しか考えていなさそうな出立ち。暴走した自律戦闘ドロイド。

 俺たちを殺そうと思うなら実行に移すに十分な距離。


 考える時間もない。奴に此方を知覚する術は無いと判断する。エンジュの手をとり静かに横をすり抜けようと一歩踏み出した時、


「————、————!!」

 チキって考えすぎたか! 眼紐が追いついちまった!

 眼紐に目線を向けた瞬間、それまで悠然と歩んでいた戦闘ドロイドが鋭く俺たちの横を走り抜いていくのが目端に映った。

 一歩の力強さが半端なく、踏み抜かれた床は無惨にも陥没している。

 ⋯⋯疾ぇ!


 首はないが、目標に捉えているのは明らかに此方を追い縋ってくる眼紐だ。

「—————ッッッ!!!」

 眼紐の方も、自分に向かってくるドロイドに苛立っている。高域の金属音の咆哮をあげて威嚇している。


「⋯⋯」

 そんな眼紐の怒り狂った咆哮なぞそよ風だと言わんばかりに、右手の大剣を両手で握り締め大上段に構える。

 明らかに剣が届かない位置で構え始めたのが疑問だったが、理由はすぐにわかった。

 ドロイドの持つ大剣の刃から、目が焼けそうな程の眩い蒼の光が溜まり始めた。耳をつんざく音圧が質量でも持ったように身体に当たる。


「———なっ」

 思わず声が出ちまった。幸いドロイドに反応はない。音で判別してるわけじゃなさそうだ。

 俺がまだ鼻垂れのガキだった頃、大人に見せてもらった記録媒体の中にあった一つの武装。

 一目で憧れた俺はそれについて調べ続けた。そして最早手に入れることは無理に近いと、とっくのとうに諦めていた古代兵装。


 俺は光ってる姿しか知らなかったから今まで気づかなかった、ドロイドの持つ大剣。

「フォトンブレードだと⋯⋯」


 問題なく稼働するものが現存しているのも驚きだが、あんな対軍兵装とでも言うべき代物をこんな狭い場所で撃とうって言うのかよ!?

 眼紐は確かに強力な機獣で、生半可な武装じゃ歯が立たない。

 だが流石にフォトンブレードは余りにも過剰な火力だ。

 予想はしていたが、やっぱりあのデカブツはバグってしまっているらしい。


「エンジュ来い! 少しでもここから離れるぞ!」

「え、えわかったわ!」


 あのフォトンブレードの光り方から察するに、最大火力で放とうとしてやがる。この階層の床が保つとは思えない。

 とても間に合いそうにねぇが、少しでも離れないと巻き込まれて消し炭にされちまう!

 慌てて走り出す。


 どんどんボルテージを上げていく蒼い光の奔流。高まっていく不協和音。

「————ッッッ!?」

 走りながら後ろを見遣る。怒り狂っていた眼紐も異変を感じたのか、及び腰になっているがもう間に合わないだろう。


「⋯⋯⋯」

 鼓膜が破れそうなほどだった音圧が消えた。

 直後。



 階層中を蒼が満たした。


 

 眼紐ごと熱断された階層の床が、全てを巻き込んで崩落していく。

 俺とエンジュ、そして攻撃を放った首無し諸共。

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