ホルスター
眼紐の生産プラント探索は、なにもプラントに殴り込みに行く訳じゃない。流石にどれだけの数がいるか不明だし、エンジュを守りきれない可能性もある。なので基本は隠密で行動、必要のある場合を除いてこちらから手を出したりはしない。
生産プラントを発見したら位置情報をテミス様に知らせるまでが今回の探索だ。無事に目的が達されればエンジュがちゃんとやれている事をウェスに示せるだろう。
ウェスが安心できればエンジュも憂いなく自身の探索に集中できる。
それと眼紐の出現場所などを分析していてくれたプルナも、功績を認めて貰えるはず。俺のお隣さんで終わっていい存在じゃないことは明らかなのだ。
俺はプルナが毎日何かしらの機獣料理を試作してるのを知っている。彼女なりのやり方で村に貢献しようと頑張っている。日の目を見てほしいものだ。
出発は明日。門の前に集合だ。
「お帰りなさいませ、マスター。ホルスターは無事完成しました!」
機械弓を抱えて家に帰ると、ご機嫌な様子の獣挽きが出迎えてくれた。ホルスターの出来に満足しているのか、俺に早く見て欲しくてソワソワしている。
「ただいま。⋯⋯おぉ、これはなかなかの出来じゃないか! しっかりフィットするしナイフも抜きやすく簡単には落ちない。よく器用にできるな? 少女の姿はホログラムだろう」
受け取ったホルスターを早く早くとせっつかれたので装着。
肩掛けするタイプながらズレたりもせず、かと言って動きを阻害しない絶妙なタイトさ。
切断された触手の面影を存分に残したホルスターは、獣挽きの細かい作業に向いてるとはとても思えない触手が作ったとは信じられないクオリティだった。
「愛さえあれば不可能はないんですよ、マスター!」
剣に愛を語られてもな。俺もよく分からないが。
「そんなものか。いや、想像以上の出来栄えで驚いてる。ありがとうな。大事に使わせてもらう」
「⋯⋯マスター!! 感謝など不要でございます。そのホルスターを私だと思って肌身離さず使って頂ければそれで——」
うっ、とホログラムの少女が呻いて鼻を抑える。実態のない立体映像の筈だが、その可愛らしい小さな鼻から一筋の赤い線が。
「⋯⋯ホログラムなんだよな?」
「すみませんマスター。マスターが私の触手を肌身離さず着けてくださるのを想像したら、興奮し過ぎて鼻血が⋯⋯」
「その、なんだ。あまり興奮しすぎるなよ? 体に悪いぞ」
なんだこの発言は。俺も混乱しているな。⋯⋯本当にホログラムなんだよな?
まぁ、獣挽きのホログラムはリアル志向なんだということで納得しよう。
適当に床に放っぽり出していた弓を壁に立てかける。
「マスター、その包みはなんですか? 何だか嫌な予感がするのですが⋯⋯」
獣挽きが機械弓の入った包みが気になるのか、訝しげな表情で尋ねてくる。
「あぁ、これは以前エンジュを襲った人間達がいただろう? そいつらから鹵獲した機械弓をシュマに預けていたんだが、用済みってことで返却されたんだ」
「———え、浮気?」
スッと獣挽きの眼からハイライトが消える。
「違うぞ? お、俺に弓の心得はないし、俺が投擲武器を使うより威力が出ないんだ。そう、使う理由がない。わかるな? 取り敢えず置いておくだけだ」
俺の必死の弁解で、獣挽きの眼にハイライトが戻る。
「確かにマスターが使う必要はありませんよね! すみません、私の早とちりでした。——で、これはどうするんです?」
余程自身以外の武器を俺の周りに置いておきたくないのか、あからさまに処分しろ的な圧を感じる。
別に売りに出しても俺は構わないが、少し勿体無いと感いてしまう。
「そうだ。君がこの機械弓をカスタムしてみないか? いつかエンジュに使ってほしいと思ってるんだ」
弓を使う気は今のところないと言っていたが、絶対使えるようになったほいがいい。
「エンジュさんにですか。そう言うことなら別に構いませんが、どういった方向性の弓にしますか?」
使えなくはないという程度とのことだし、初心者でも扱えるものがいいな。
「弓の心得がない者でも扱えるのがいい。君が作ったホルスターの出来が最高だったからな、期待してるぞ」
「——最高の逸品を約束致します、マイマスター。赤子でも機獣と戦えるような弓に仕上げて見せます」
流石に赤子に戦わせはしないが。それくらい気合の入ったモノを作ってくれるようだ。
獣挽きはルンルンと鼻歌を歌いながら機械弓の包まれた布を解いていく。頑張り過ぎてまた強制スリープにならないといいが⋯⋯。
さて、霊抉をホルスターに入れたらもう寝るか。明日は忙しくなるぞ。無事、眼紐の生産プラントが見つかるといいな。




