幽抉
刺さった投げナイフを引っこ抜く。
当然だが抜くときに穴は広がってしまった。もう一度幽体化させればもう少し被害は少なかったと、後で気づいて悲しくなった。バレたら怒られるだろうな。
ちょっと幽体化時にどういう飛び方をするか見たかっただけなんだが⋯⋯。
「幸い貫通はしていないな」
「ひびがしっかり入っちゃってますけどね⋯⋯」
獣挽きの指摘通り壁には放射状にひびが。恐らくこの幽体ナイフは再出現した際にそこにあった物体を押し除けるようだ。
引っこ抜く時にこぼれ落ちた壁の破片の総量が変わっていないから、それがわかる。
「それにしてもこんな事になるなんて記述はあったのか?」
「それが刀身をオンオフ出来るとしか書かれていなくて。⋯⋯もしかしたらマスターの血が変に作用してしまったんじゃないですか?」
うーん、その可能性は大いにあるな。俺自身、俺には何が混ざってるのか全て把握してるわけじゃない。混ざった何かの血が、影響したとしか考えられない。
「壁に傷をつけた件は追々考えよう。今は考えたくない⋯⋯。それにこれは嬉しい誤算だ。極めて強力な遠距離武器が手に入ったと言う事だからな!」
不可視で飛んできて、身体の中で再出現させられる。俺の家の壁で起きた事が機獣や人体にも起こるとなると非常に凶悪でもある。
「⋯⋯結構えげつないですね。回収すれば何回でも使えますし、無くしたくないですね」
気軽にポンポン使う武器ではないな。認証した俺以外には使えない筈だが、何にでも裏道は在る。ここぞという時と、確実に回収できる状況で使う事にしよう。
「残りのブレードも全部ナイフにしてしまおう。端材は君が食べるといい。面白い能力が芽生えるかもしれないぞ」
「ありがとうございます、マスター! 必ずや期待に応えて能力を発現させて見せます!」
ビシッと敬礼を決める獣挽き。様になってるが少女の見た目でやっても可愛いが先に来てしまうな。
「無理はするなよ」
ふんすっと気合十分な獣挽きを横目に、量産体制に入る。重心を刃の方に多めにかかる様にしよう。先程投げた時、少し飛び方が不安定だった様に見えた。エンジュの槍を造った時と同じ様な高揚が訪れている自覚がある。
やはり俺は武器造りが好きな様だな。
◇
「———ホルスターが必要だな。買いに行くか、それとも⋯⋯」
量産した投げナイフに満足感を覚えていたところ、ホルスターが必要な事に気づいてしまった。
ポーチにじゃらじゃら入れておく訳にもいかない。投げナイフを入れる用のホルスターなんかこの村に作ってる奴はいるだろうか?
そもそも投げナイフに需要がなさそうだし、探し回るより自作した方が早いかもしれない。
どうしようか悩んでいると、獣挽きがあっと思い出したという顔をした。
「マスター、それなら幽機獣に切り落とされた私の触手を使いませんか?」
何を言い出すかと思えば、獣挽きの触手をホルスターにか。というか拾っていたんだな。
獣挽きが本体のどこに仕舞っていたのかわからないが、取り出して渡してくれた。
「何かに活用できないかと折角だから拾っておいたんです! 生体金属で構成されているので腐らないですし、頑丈です。是非使っていただきたく!!」
血走った目で鼻息荒く力説してくる獣挽き。呼吸なんてしてないだろうに、芸の細かい奴だ。
まぁ、でも渡された触手は彼女の言う通り非常に硬質かつ柔軟で、触り心地もいい。ただ、どう弄ればいいか悩むな。取り敢えず適当に腰に巻ける様にすればいいか。
「一応、元は私の一部なので簡単な加工なら出来ますよ」
おぉ、それはありがたい。武器以外のアイディアは本当に出てこないポンコツだな俺は。
「ならホルスターの方は君に頼もう。一本渡しておく。抜き差ししやすく、かといって自然と落ちてしまわないくらいのタイトさで頼む」
「畏まりました! 元が私の触手であるとわかる様なデザインにしますね!」
デザインは別になんだっていいんだが、獣挽きが楽しそうだからそれでいいか。
「ところでこの子達の名前は決めないんですか? 折角特別な機獣の素材で作ったんですし、何か付けましょうよ」
名前か。確かにずっと投げナイフ呼びも可哀想か。うーん、幽霊みたいな機獣の素材だしな。
「⋯⋯幽抉にしよう」
「おぉ! 何かそれっぽいですね! では幽抉達を失くしてしまわないよう気合い入れて作りますね!」
ブレードの端材を食べたからか、幽抉に親近感を覚えてるらしい獣挽き。
何だかんだ量産するのに結構時間がかかってしまった。ふとアームデバイスを見ると新着メッセージの表記が。
「⋯⋯エンジュからか」
どうも候補地が数ヶ所あるから明日会って話し合いたいとのこと。
「探せば意外とあるもんだな。まぁ、まだ候補だからそこにあるとは限らないが」
今日はもう満足。完成した幽抉を並べて寝るとする。
「⋯⋯棚くらい買うか」




