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安心させたい

「エンジュ⋯⋯」

 騒がしく話しすぎたのか、エンジュが起きてしまった。真っ青な顔でも目だけは反骨心でギラギラ光っている。


「自分の体力も把握せずにこうして倒れている現状を、おままごと言わずに何と言うのですか? 今回は家で倒れ、セレンに見つけてもらったから大事には至りませんでしたが、これが日を跨ぐような長めの遠征なら貴女は完全なお荷物になっていたのですよ」


「⋯⋯流石に長めの遠征ならもっと気をつけるよ。今回はたまたま調子に乗っちゃっただけだし、今までの探索で倒れたりしたことない。見てもいないのにおままごとって決めつけないでよ!」

 実際、これまでの探索でエンジュが気分悪くなったり倒れたりした事はない。


 短槍の訓練もシュマにつけてもらって大分それらしくなってきている。

 お互いに至らないところも多々あるが、確かにおままごと呼ばわりは流石に撤回してもらいたくなってきた。


「——見てないから、見れないから心配なんじゃないですか! 私はもう歳です。行きたくても一緒には行けません。探索の結果からしか貴女の行動は窺い知れません。その結果貴女は寝込み、原因は探索仲間との意思疎通の不備。⋯⋯安心できますか? 今回はたまたまだからまぁいいかと、私が考えると思いますか? 血は繋がって無かろうと子供が苦しんでるのを見て何とも思わないとでも? ⋯⋯貴女が努力してるのは知ってます。イオドさんが凄腕だと言うのも耳にはいってる。それでも村の外は厳しい世界なんです。たまたまなんて言い訳は通用しない世界を貴女は歩もうとしてるという自覚を持ってください」


 ウェスの声は感情の昂りから、最後の方は震えていた。それほど心配だったのだ。当然と言えば当然か。娘が倒れたなんて連絡をもらって落ち着いていられる親なんていやしない。

 

 反論しようとしていた己が恥ずかしく思えてきた。俺の認識はまだ甘かった。俺にとって危険ではない世界。エンジュには危険だが俺がいるし、防衛手段も幾つか備えてもらってるから問題ないと考えてしまっていた。


 共に歩めない者にとっては結果が全て。

「ウェスさん⋯⋯」

 エンジュもウェスが怒ってるのではなく、心配してるのだと理解して何も言えなくなっている。


「ほら、エンジュちゃんも反省したみたいだしそこまでにしときなよ。まだ顔も青いし、特製キノコ粥作ったから食べなよ! 今は元気になるのが何よりの親孝行だよ」

 緊迫した空気を払うようにセレンがいい香りの粥をエンジュに持ってきた。


「⋯⋯ごほん。少し言いすぎたかもしれませんね。おままごと呼ばわりは撤回します。自分で食べられますか?」

 ウェスも言いすぎた自覚はあったのか発言を一部撤回していたが、俺は言い過ぎではないと今では考えてしまっている。


「こ、子供じゃないんだから自分で食べられるよ!」

 セレンから粥を受け取ったウェスがエンジュに食べさせようとするが、恥ずかしがったエンジュが皿を奪って食べ始める。


「ゆっくり食べなさい。⋯⋯それではエンジュも目を覚ましたことだし、私はそろそろ院に戻ります。今ごろてんやわんやになってるでしょうからね」

 エンジュがガフガフ言いながら食べるのを、暖かい眼差しでひとしきり眺めてからウェスは孤児院に帰っていった。


                   ◇


「カッとなって反抗しちゃったけど、ウェスさんの言葉聞いてちょっと調子に乗ってたかもしれないって思った」

 キノコ粥も食べ終わり、いくらか顔色も戻ってきたエンジュが呟いた。


「前回の探索で、俺は遠くに行くなと伝えたがまぁまぁ遠くまで行っていたな」

 笑顔に絆されてまぁいいかと流したが、万が一を考えればあれは叱らなければいけない場面だった。


「う、あれは⋯⋯ごめんなさい。もうしません」

「ただ、あれは俺もダメだった。具体的にどこまで行っても平気かと言わなかった。曖昧な遠くまで行くなでは認識に齟齬が起きるのは当然だ。まぁ、エンジュも遠くまで行ってしまった自覚があるようだし、お互いこれからは気をつけよう」

 しょぼんと反省したエンジュをセレンが慰めている。


「⋯⋯色々出来るようになってきた今が一番危うい時期だ。嗜められてよかったじゃねぇか。⋯⋯あんなに感情を露わにした母さんは見たことねぇ。相当心配だったんだろうぜ」

 シュマの言う通り、出来ることが増えて万能感を覚え始めた時期は油断しやすい。


「これから少しずつ頑張れば大丈夫だよ。私が慌てて連絡したから母さんもびっくりしちゃったんだよ。取り敢えずエンジュちゃんは夜更かし禁止ね!」

「⋯⋯はぁい。体調管理はほんと気をつけるよ。今回のでコリゴリだしね。ただ、もう一押し欲しい」

「もう一押し?」


 エンジュの体調管理とお互いの情報伝達の正確さ向上以外にも何かしたいということか?

「私に拾い手としての実績がちゃんとあれば、ウェスさんもここまで心配しなかったと思うのよ。2人にあって私にないのは実績からくる信用よ。⋯⋯好き勝手やってきたから私には何もないのよね。何とかウェスさんを安心させてあげたい」


 シュマは衛兵でそれなりの地位。セレンはクランリーダー。エンジュは、まぁ⋯⋯。悲しいな。

「イオド? 流石に傷つくよ? その目やめようか」


 いけないいけない。エンジュは好きでこうなった訳じゃないんだ。

 ただ、実績か。村に対する貢献という意味なら、エンジュに俺のような討伐系は難しいが、今まで集めに集めた記録媒体を生かした新たな資源の発見はどうだろうか?

 村の人間は積極的に辺りを開拓しようとはしていないみたいだし、まだ見つかってない施設もある可能性はある。

「確かに討伐は無理だけどそっちは私でもできそう!」


 俺の考えを聞かせると、自分の得意分野ということもありエンジュはやる気に満ちた笑顔を見せる。

「なら俺にいい考えがある」

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