全霊都市
「⋯⋯お前は、獣挽きなのか?」
あまりにも予想外な事態に、俺の脳の理解が追いつかない。目の前の少女は何と言った? マイマスターだと?
「勿論です! ずっとお話ししたかったのですが生憎、本体に発声機能がないもので難儀してました」
俺の聞き間違いではなく、本当に獣挽きだった。というか性別は女だったんだな。
「———ちょっと待って!! 流石にそこまで高位の自我は載っけてないはずだよ!? どうなってんの?」
メギスにとっても想定の範囲外らしく、本気で慌てている。ただその双眸は興味深い現象に対するワクワクとした輝きに溢れている。流石は研究者か。
「⋯⋯そうですね。貴女の言う通り設計段階及び完成時も私という自我は、それこそ獣と何ら変わらない程度でした。訳もわからず大暴れした挙句硬く封印されました。きっかけはマイマスター、貴方に所有されたことです」
獣挽きのホログラムが、陶酔したような眼差しで俺を見つめる。
「⋯⋯お、俺か? 特に何かした覚えはないが⋯⋯」
単純に武器をやるからと受け取りに行っただけだった筈だ。
だがどうも獣挽きにとってはそうではなかったようで、クネクネと細い腕で身体を抱きしめるようにしながら当時を思い出すように吐息した。
「はあ、はぁ⋯⋯。私を熱烈に抱きしめて、良い子だと囁いてくれたではないですかぁ! 遠慮なく身体が壊れる程に握り締められて私は目覚めたんですぅ!」
「え、イオドマジで? ⋯⋯引くわ〜」
「言ったかもしれないがだいぶ語弊があるな! 抱きしめてないというか、お前はただの剣だっただろうが! 触手を出してあばれだそうとするから、主従を決めるために強めに握ったんだ! 如何わしい事はしてない!」
このままだと加虐趣味のど変態にされてしまう。俺は断じて変態じゃない。
「まぁまぁ、熱烈な出会い話は置いといてさ。イオドと出会って自我が成長したのは分かるけどさ、限度があるじゃない? ウチの想定を遥かに超えてるんだけど他に何かあったの?」
誤解を解きたいが、メギスの興味はもう別に移ってしまった。後で必ず誤解は解こう。
「⋯⋯厳密にどれが私の自我形成に寄与したか明言はできませんが、マスターが機獣の素材を私に下さるようになってから意識が段々と明瞭になっていったのを覚えています。そしてあの幽霊のような機獣に触手を断ち切られた瞬間に様々な意識の断片が流れ込んできました。それこそ濁流のように。⋯⋯そのおかげかと愚考します」
「⋯⋯確かにあいつは色んな機獣の魂を取り込んでる。特にあのブレードは屠ってきた機獣の魂の欠片がこびり付いていても不思議はないか⋯⋯」
メギスがブツブツと考察に勤しんでる間に俺も聞いておきたいことがあった。
「獣挽き、君はこのコアパーツをコピーした訳だろう? このコアパーツは図書館の司書の役割を果たしていた機械のものだ。君はその機能を受け継いでたりはしないのか?」
何かエンジュが知りたい情報でも持っていてくれたら嬉しいのだが、そう都合よく行くかどうか。
「このコアパーツには、図書館に収められた蔵書の電子データが圧縮されて収められています。緊急時への備えとしてのバックアップとしても用いられていたようですね。マスターがお望みなら、キーワードを仰っていただければ検索しますよ」
おぉ! コアパーツをあの時拾っておいてよかった。
ホログラム獣挽きも俺に頼られたのが嬉しかったのか先ほどまでのはぁはぁした笑顔ではなく、自然な少女の笑顔を見せていた。
「では魂の転写装置について言及してるデータを頼む」
「畏まりました。⋯⋯残念ですが、該当データは存在しませんでした」
始まりの時代の機械だから期待してしまったが、同じ時代だとしてもデータが入ってるとは限らないか。魂の転写装置などという普通に考えて常軌を逸した機械だ、広く知られている筈がないか。
「——何だ、イオド魂の転写装置を探してたんだ?」
「そうだが、メギスは在処を知ってるのか?」
「流石に知らないけど、その在処に繋がりそうな情報が眠ってそうな場所は知ってるよ」
何だと!? 灯台下暗しとはこの事だな。メギスはこういうモノに興味ないと思って尋ねようとも考えなかった。だがそうか。獣挽きに擬似魂を入れたと言っていたんだ、似たような技術だろう魂の転写について調べていたとしても不思議はないか。
「頼む、教えてくれ。エンジュにどうしても必要な情報なんだ!」
「エンジュが探してるんだ? テミス様に不用意に広めるなって言われてるけど、獣挽きを大事にしてくれてるみたいだし、エンジュのためだしね。⋯⋯ちょっと待ってね」
ゴソゴソと記録媒体の詰まった引出しを漁るメギス。
「⋯⋯うーん。この中に入れといたんだけどな⋯⋯、あ、あった。はいこれ中身は不完全だけどとある廃都への地図が入ってる。その名も『全霊都市ヴォウルカシャ』そこに何かしら情報があるかもよ」




