煌燬赫熔
俺とシュマによる幽機獣を挟さんだ同時攻撃。
斜め右上から獣挽きを袈裟斬りに、斜め左下からシュマが槍で薙ぎ払う。
「「——死ね!」」
お前もエンジュを真っ先に狙うとはな⋯⋯! シュマも同じ気持ちだったらしく言葉が被ってしまった。怒りのままに獣挽きを引き絞り刃を回転させる。何もさせずに殺し切る自信があった。
火花散る大刃が俺の意を汲んで殺意に塗れて奴に当たる寸前。
「——何っ!?」
「消えた⋯⋯!!」
パッとこの場に最初から何も居なかったように、幽機獣が突然消えた。
「———きゃあっ!」
後ろでエンジュの金切り声が上がる。
ヒヤッ背筋が凍る感覚を、そんな筈はないのに覚えてしまう。
振り返る。奴がいた。どうやって移動したのか、刹那のうちに背後を逃げるエンジュ達に追いついたのだ。相手は幽体だ何をやっても不思議ではないだろうが! 何故考え付かなかった!
「エンジュっっっ!!!」
幽機獣は右腕のブレードを緩慢に振り上げてエンジュを斬ろうとしている。
先行していたメギスとセレンがエンジュの悲鳴に驚き振り返る。
何故執拗にエンジュを狙うんだ!? 巫山戯るなよ!!
俺は音が無くなるほど極限まで集中した世界を一足で加速する。手を伸ばす。僅かに距離が遠い。奴に届かない。斬られてしまう。——エンジュが。
どうする、どうすればいい? あと一手足りない。慢心があったか? 誰も俺には敵わないと、傲慢にも思っていたのか? 何故俺は忘れるんだ。負けたから無様にも何千年も眠りこけていたんじゃなかったのか!?
戦闘モードはもう間に合わない。
エンジュは斬られる。
俺の胸を絶望が覆っていく。
深い後悔に獣挽きの柄を握り込む。そして思い出す。まだ俺にはコイツがいた事を。
「頼む獣挽き———っっ!!」
「————!」
獣挽きから触手が高速で射出される。巻き付く時間はない。
「きゃっ」
触手でエンジュを突き飛ばす。
「———— это больно!!」
触手を幽機獣に断ち切られた獣挽きが金属音の叫びを上げる。相棒の悲痛な叫びは、俺の中の何かを振り切った。間に合う間に合わないじゃない、相棒が作ってくれた僅かな時間に賭ける。
「戦闘モード強制起動!!! 異星侵蝕・煌燬赫熔!!」
無理矢理のモード移行に脳内にアラートが響き渡る。全てを無視。後のことは後で考える。
全身の筋肉、腱、骨を巡回するナノマシン共が励起される。造り替えられていく。ただ戦うための身体に。
スキンスーツが硬質化し、防御の為ではない攻撃のみに特化した鎧に変わっていく。顔は鎧から昇り立つ黒い靄で覆われる。
「———イオド、テメェ、その姿は⋯⋯」
シュマが俺の変化に驚愕しているが、答えてる暇はない。
「————?」
幽機獣も俺の変化が分かるのか、不思議そうに首を巡らせ見つめてくる。どこか余裕を窺わせる行動に己を強者と思い込む傲慢さすら感じた。先刻までの俺のように。
その余裕が命取りだと、先達から教えてやる。
「シュマ。エンジュ達に付いててくれ」
「⋯⋯後で全部話せよ」
無言で頷く。
「⋯⋯獣挽き、もう少し付き合ってもらうぞ」
獣挽きの刃を再び回転させる。
まずは少し距離を取らせてもらう。そこはエンジュに近すぎる。
「———gyo————ッッ!?」
獣挽きの回転する剣先を押し付ける突撃。強化された脚力による速度に幽機獣は全く反応できていないようだ。無防備な腹に押し付けられた刃がガリガリと奴の幽体を削りながらエンジュ達から離れる。
また得体の知れない能力で跳ばれても困るから、エンジュ達から離れすぎない位置で突進を止める。この距離なら跳ばれても反応できる。シュマも付いてるしな。
「———!? ?——!」
大した損傷はまだ奴には与えていない筈だが、何故か異様に戸惑った雰囲気を見せる幽機獣。
知ったことかと大上段から轟音を発する獣挽きを叩き込む。
「⋯⋯む」
当たらなかった。正確には当たったがすり抜けてしまった。
俺から距離を取る幽機獣。俺を敵だと判断したのか無視して跳ばずに両腕のブレードを構えている。
斬りかかる。当たらずすり抜ける獣挽き。右からの反撃を獣挽きで受ける。流石に攻撃の瞬間は実体化しているな、獣挽きをすり抜けて俺を斬ったりはできないと。
それならと奴の攻撃中に殴りつけてみたが、奴の攻撃と同時でも俺の拳はすり抜けて、奴のブレードは獣挽きに実体を持って当たった。
「⋯⋯何故先刻の突撃は当たったんだ?」
奴にとって身体の一部を幽体化するのはお手のもののようだ。だから逆にわからない。エンジュ達から引き離す時の攻撃が何故当たったか。
考えろ、幽機獣の能力の隙は必ずある筈だ。無敵の能力なんかじゃない。
「⋯⋯化けの皮、剥がさせてもらうぞ」




