魂の物質化
「エンジュ!」
足元の遺物や瓦礫を吹き飛ばす勢いで跳ぶ。
白い靄が纏わりつく前にエンジュとセレンを抱えて脅威から離れる。
「ど、どうしたのよイオド。ビックリしちゃった」
見えていないエンジュは呑気な事を言っているが、急がなければ何をされていたか分からない。振り返り、靄のいた方に目を向ける。
「どうやら幽霊騒動の正体はコイツなようだぞ」
「あ、今度のはウチはゴーグル無しで見えるな」
メギスは見えるらしい。エンジュ達は見えないが異変は感じている。前情報通りの存在だ。
俺は少し勘違いしていたようだ。若しくはどこか幽霊について本気でいると思えていなかったか。
インターフェイスの出力装置が都合よく故障していてそれっぽく見えていたのが勘違いの元だった。
この遺物投棄場には確かにいたのだ。この世ならざる存在が。
「————ゥッ!」
様々な音がだぶって聞こえる金属音の叫びを靄があげたかと思うと徐々に凝固していき、両腕がブレード状の顔のないのっぺらぼうの様な白いロボットと思わしき存在がが顕現した。
身体の前面がボロ布に包まれて、足は見えない。少し浮いている様だ。
「——魂の物質化だって!?」
メギスが驚愕の表情で顕現した何かを見つめて叫ぶ。
目の前の何かはメギスが驚くほどの事をやってのけたわけだ。
「うぉっ! なんだコイツ、いきなり現れやがった!」
「わっ! ホントだ」
「⋯⋯少しカッコいいわね⋯⋯」
セレンが少し空気読めない事を言ってるが、この状態の奴は全員見える様だ。
「メギス、魂の物質化とは何だ? 厄介な能力なのか?」
「そうだね、大抵の魂魄体は辛うじて現世にしがみついてる状態なんよ。ウチが実験に使うために専用の装置で物質化してから使うわけなんだけど、当然だけど不安定でまともに成功したのなんて獣挽きくらいでさ。でもあいつは当たり前の様に自前で物質化してる。⋯⋯ちょっとヤバいかもね」
いつも余裕な態度のメギスが不安そうな表情を見せている。
「あいつは機獣なのか? だとしたら転移装置の機獣避けが作用してないことになるが」
「⋯⋯機獣だった存在かな。もう色々混じり合って元の機獣は残ってなさそうだけどね。生きた機獣じゃないからもしかしたら効果が薄いのかも」
「⋯⋯ねぇ、目はないけど何かあたしの方見てない?」
エンジュの少し震えた声。無理もない。得体の知れない存在が突然現れたのだ。しかもエンジュの言う通り目はないが顔の向きからエンジュを凝視してる気がする。
さて、どうエンジュを逃すか。
この場での討伐は出来ればやりたくない。どんな能力を持った相手かわからない以上、エンジュの安全が確実とは言えない。
だが仮称・幽機獣はどうもエンジュに狙いを定めている。白い両腕のブレードをゆらゆらと動かし今にも跳びかかってきそうで、簡単には逃してくれそうにない。
「⋯⋯イオド、まずセレンとエンジュを逃す。得体の知れねぇ相手だ、巻き込みたくはねぇ。俺とテメェで足止めだ。まさかビビってねぇよな?」
シュマが背負った電気槍を構えながら俺の横に並ぶ。
ニヤニヤと挑発した風に俺を奮起させてくる。俺がエンジュだけを逃そうとしてることに薄々勘づいていたのかもな。
まぁ、どの道それしか出来ることはないな。それにエンジュ以外を切り捨てたら、エンジュは今後、俺をまともな人間として扱ってくれない気がする。
「——幽霊と戦った経験はないが、メギス曰く今の奴は物質化しているらしい。斬れるなら幽霊だろうと殺してみせるさ」
戦闘の気配を感じ、獣挽きが己を構えろと触手で叩いてくる。もちろん留守番なんてさせないさ。今回はお前を使わせてもらう。
「————」
俺とシュマが武器を構えたのを認識したのか、エンジュを一心に見つめていた幽機獣が首を廻らせ意識を此方に向けたのがわかった。
目も口も鼻もないツルッとした顔からは、何も読み取ることができない。
「俺とシュマが抑える。お前達は刺激しないようそっと逃げるんだ」
「⋯⋯わかった。あたしがいてもどうにもならないもんね。イオド、気をつけてね」
「戻ったらすぐ救援を寄越すわ。それまで無茶はしないでね」
幽機獣の注意が再びエンジュに向かないよう、エンジュ達が逃げ出すと同時に俺とシュマは佇む奴に斬りかかった。




