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エンジュも行きたい

「⋯⋯凄い」

 トルソーに飾られたあまりのスケイルメイル風上衣の出来栄えに、エンジュはため息を溢すように囁いた。

 実際凄い逸品だ。単純に縫い付けただけとは信じられない。ただの上衣が堅固な鎧に錯覚してしまうくらいバランスよく鱗が並べられている。

 これならエンジュの守りは完璧だと、俺は納得させられてしまった。


「ふふ、あたしはその圧倒されたような顔が見たかったのさ! 出来上がった作品から目が離せないお客の顔はエクスタシーすら感じるねぇ!!!」

 ふぉぉぉ! と鼻息荒くウルカが大興奮している。


「エンジュの反応もわかるぞ。まるで美術品みたいじゃないか。やはりウルカに頼んで正解だったな。俺が仕上げてたらここまでのものにはならなかった」

 肩周りや胸周りに美しく飾られた鱗は、見た目だけじゃない実用性も兼ね備えている。ウルカの防具作りのセンスが惜しみなく込められてるのが理解できる。


「ありがとよ、イオド! あの槍を仕上げた奴の言葉だ、胸に沁みるよ。あの造り手の心が籠った槍の持ち手に相応しい防具にどうやら出来たみたいだね⋯⋯!」

「こんな⋯⋯私が使ってもいいの? 全然実力に見合ってないと思うんだけど」

 あまりの鱗上衣の完成度に及び腰になっているエンジュ。


「君は別に一流の戦士になろうとしてるわけじゃないんだ。目的の為に必要なモノは何でも使うんだ。生き残る為にな」

「そうだよ。防具は使われてなんぼだ。遠慮なんていらない。あたしの防具で命が救われた。そう言われる瞬間があたしの生きる意味なんだよ。美術品を作ってるわけじゃないんだ。使っておくれよ」


 ウルカの言葉がしっかりとエンジュに届いたようで、迷いのうかがえる表情がキッと決意の表情に変わった。

「ありがとう、ウルカさんイオド。私もっと頑張るから! 槍と防具に相応しい持ち手になるよ!」


「やる気があるのはいい事だが、君は死なないよう気をつけるんだぞ。槍も防具も使うのは緊急時だけだ」

 エンジュにとって強さは目的じゃなく手段だ。そこは間違えないでほしい。

「わ、わかってるよ。⋯⋯でもさ嬉しいね。大事にするよ」

「箪笥に仕舞うんじゃないよ! 大事に使いな!」


                  ◇


 試着と微調整を終えて俺とエンジュは店を出た。

 大事そうに鱗上衣が入った袋を抱えるエンジュを家に送り届けて、俺は家に帰った。


「さて、シュマに知らせるか」

 お隣さんから漂ってくる美味そうな夕餉の香りを嗅ぎながら、アームデバイスでシュマに繋ぐ。


「⋯⋯イオドか。何かわかったのか?」

「あぁ。取り敢えずあの少年が幽霊ではない事はわかった」

「そこまでは俺も調べた。ただ、テミス様があまり乗り気ではなくてな。何らかの機械のインターフェイスだろうとこまで調べるのが限界だった」

 

 気分の問題なのか⋯⋯。人間だけで解決できる事はそうするべきと考えてるのかね。

「エンジュがあの機械が開発された時代の記録媒体を持っていてな。メギスと一緒に機種を特定した。これで少なくとも幽霊騒ぎの原因を取り除ける」


「⋯⋯あいつの活動も役に立つことはあるんだな」

 シュマが少し感心した表情を浮かべている。

「そこでちょっとお願いがあるんだ」

「あ? 何だよ」


「あの場所はセレンのクランメンバーか許可された者しか行けないだろう? エンジュも連れて行ってほしいんだ。 今回のエンジュの貢献がなければ解決はもっと遅かったわけだから、その資格は十分あると思うんだが」

「⋯⋯」


 シュマが考えている。

「⋯⋯ついて来たい理由は何だ?」

「どうも今回の機械の開発された時代が、エンジュの探している魂の転写装置と同時代のものらしくてな。何処からそこに流れ着いたか調べたいみたいだ」


「なるほどな。そりゃ気になっちまうよな。ただ俺の一存じゃどうにもならねぇからな。一応セレンには聞いといてやるが、期待はするなよクランの長はそう甘くはねぇぞ」

 まぁ、テミス様に貢献を認められて下賜されたと言っていたしな。


「聞いてもらえるだけありがたい」

「あぁ。じゃあ、また連絡する。テメェはどうせ暇だろうしいつでもいいだろ?」

「問題ない。そちらの都合に合わせる」

 無事にエンジュの同行が認められるといいな。

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