シュマから依頼
エラー個体の角とエンジュから借りてきた上衣をウルカに預けた。黒のナイフともしばらくお別れだ。何だかんだ便利に使っていた道具が手元にないのは、少し寂しさを感じる。黒のナイフを渡す時のウルカは涎を垂らす一歩手前の顔で興奮していて、少し怖かった。
エンジュから上衣を借りる際は、ウルカが友達として制作する旨を伝えた。とても喜んでいたな。お返しは何にしようか嬉しそうに考えていた。
今はすることが無くなったから家に向かっている。獣挽きと戯れるか、武の鍛錬でもするか考えながら我が家まで辿り着くと誰かいた。
「よ! イオド、邪魔してるぜ! 何にもないんだなお前ん家」
メギスだった。桃色の髪をふわふわ揺らしながら子供のように話しかけてくるが、彼女はもしかしたら俺以上の寿命の持ち主かも知れない長命種だ。
部屋には寝台しかないからメギスは勝手に寝台に座っていた。
獣挽きは何故か俺が帰ってきても反応せずに置物の様に固まっている。
「メギスか。何か置く必要を感じてないからな。客も来ないし」
「うちみたいのが来るだろーがよ。ま、あんたが茶を沸かしてる姿は想像できないけどな!」
あっはっはと楽しそうに笑うメギス。妙にテンションが高いがよく見るとクリッとした目の下には隈が出来ている。
どれだけ寝てないか知らないが、徹夜明けですぐにうちに来るなと言いたい。俺と違っていくら長命種といえど睡眠は大事だろうに。
まぁ、また来客があった時気まずいから机と椅子くらいはどこかで見繕ってくるか。
「⋯⋯それで? 何か用があったからきたんだろ」
「あぁ。この前知らない機獣の素材をくれただろ? そのレンズでこんなの作ったからあげにきた。正直眼し持ってこなかったから機獣の種類とかはわからなかった」
メギスからゴーグルのような物を手渡される。
「ついでだったからな。目立って変な箇所だけ持ってきたんだ。必要ならそのうち丸ごと持ってくる。⋯⋯で、これを俺に試せって事か?」
「そう! うちでも試してみたんだけど、まぁ単純に遠くまでよく見えるゴーグルだね。ただそのコンパクトさではあり得ないくらいの距離まで引き寄せられるから、限界を確かめてきて欲しいんだよね。うちが行ける範囲では限界はわからなかったからさ」
入り組んだ場所が多い階層都市だが、果てが見えないくらい広い階層も存在する。
メギスが単独で行ける範囲にはないだろうが。
「わかった。近いうちに試してくる」
「頼むよ! デザインにも拘ったから、気に入ったらあげるよ! ⋯⋯それにしても機獣のそういう能力とか構造は誰が設計したんだろうねぇ。そのレンズだってさ設計者は居たんだよ。機獣は自然に生まれるわけじゃないからね。⋯⋯嫉妬しちゃうね! うちにはまだ理解しきれないからさ!」
獣挽きを造れるほどの技術者であるメギスでも嫉妬を覚えるのだな。俺にはコンパクトだからといって何が凄いのかさっぱりわからない。その道を極めた者しかわからない感覚だな。
◇
ゴーグルを受け取った後は適当に話して解散した。メギスが帰る際に獣挽きが恐る恐る眼玉を出して覗っていた。怖いのか?
ゴーグルは取り敢えず額に掛けておく。バンドが自動でシュッとしまって俺の頭にフィットした。
「おぉ、近くもよく見えるな」
キリキリとレンズ周りの金属輪を回して獣挽きを観察していると、誰かから呼び出しを受けた。
「ん、シュマからか珍しいな。⋯⋯どうした? 何かトラブルか?」
シュマから連絡があるとは珍しい。エンジュに何かあったかとも思ったが、それならエンジュ本人から何かしらメッセージがある筈だ。
「あぁ、イオドいきなり悪ぃな。今暇か?」
「問題ない。特にする事はない」
「そうか。トラブルって言やぁトラブル何だがよ⋯⋯、何というか」
これまた珍しく歯切れが悪い。ホログラムのシュマも言い淀む様な仕草で額を掻いている。
「どうした? 言い難い事なら直接聞きに行くか?」
「⋯⋯いや、いい。ちょっと一緒に調べに行って貰いてぇ場所があるんだがよ。⋯⋯イオド、テメェ幽霊って信じるか?」




