餅は餅屋
「⋯⋯そんなに下手だったか?」
完璧とは言えないまでも、手本通りにできたと思ってるんだが。
「不服そうな顔してるけど、よく見な! ウロコの厚さが一枚だけ見ても部分部分でバラバラだし、他のと大きさも合ってない。形も不揃いだ」
確かに言われてみれば思ってるよりクオリティが低い気がするな。
「あんたが造ったっていう槍は立派な出来だったのにねぇ」
あの槍は拙い部分はあれど、不思議と集中して作成できた。
「あれは造ってる時に不思議な高揚感すらあった。ウロコを削り出すのは集中してない訳ではないんだが⋯⋯言葉にするのが難しいな」
「まぁ、あんたみたいなタイプは珍しくはないよ。一品物は得意なのにスケイルメイルみたいな寄せ集めて作るタイプの物が苦手な奴とかね」
苦手。俺は細かい作業はそこまで苦手ではない筈だが、それが何度も何度も同じように続くのは苦手だったのかも知れない。
「ウルカの言う通りだと思う。槍の時ほど楽しくなかった。⋯⋯だが楽しい楽しくないと言ってる訳にはいかない。もう少し練習させてくれ」
エンジュの安全の為には防具の強化は絶対に必要なんだ。楽しさなんかに左右されるな。
「はぁ⋯⋯、あたしはね作品には製作者の愛がこもってこそだと思ってるのさ。愛があるから扱う者のことを真に考えた作品ができる。⋯⋯今のあんたにエンジュちゃんがあんたの造った鎧を着て探索するイメージは浮かんでるかい? ただぼんやりと鎧のイメージがふわふわしてるだけじゃないかい?」
「———っ!」
何も間違ってない。エンジュのための鎧なのに、俺の完成予想のイメージにエンジュが着てる姿はなかった。
ただただ鎧を完成させることだけを考えていた。
「あんたの、相棒のためにより良い装備をって気持ちを汲んでやりたいとあたしは思ってるよ。それを自分で造りたいって気持ちもね。だけど今回のは流石にあんたには厳しそうだよ。⋯⋯どうだい、あたしに制作を任せてみないかい?」
本職の人間に作ってもらえるならそれに越した事はないが、
「それはありがたいが、オーダーメイドする程手持ちはないぞ?」
最近の探索で多少テミスポイントが増えてるが大した額じゃない。
「⋯⋯一緒に探索に行くまではポイントを貰わない限りオーダーメイドする気はなかったさ。他の顧客に失礼だしね。ただ、一生懸命頑張って足を引っ張らないよう拾い手なのに武器も扱えるよう努力してさぁ。⋯⋯応援したくなっちゃったのよ」
エンジュは頑張っている。俺もそう思う。短槍は比較的簡単に扱えるようになるとは言え、努力がいらない訳ではない。
俺やウルカが側についていたが、初めてのまともな機獣との戦闘も無事こなしてみせた。初戦だから怖気付くのではと思っていた己を叱ってやりたいくらいだ。
「だがどうすればいい? 手持ちはない、ウルカはタダでオーダーメイドする気はない。⋯⋯また何か素材でも採ってくるか?」
「素材は間に合ってるから大丈夫。あれだよオーダーメイドは高いけど、エンジュちゃんの持ってる装備にあたしが代わりに縫い付けるくらいなら探索を共にした友人へのプレゼントって事でいいと思うのよ」
あぁ、それならオーダーメイドではないか。もともとエンジュの装備に縫い付けるつもりだったし。それにしても友人へのプレゼントか。
「エンジュが喜びそうだ。恐らくお返しに何かウルカに贈ろうとするだろうな」
「そいつは照れちまうね! それじゃ、エンジュちゃんの上衣とエラー個体の角を持ってきな。あ、黒いあんたのナイフも貸しておくれ。あれがないと作業できないからね」
「了解した。君に任せられて正直ホッとしている。防具は生命線だからな。不安があった」
ポイントが足りていたなら迷いなくウルカに任せていた。手持ちがなかったから仕方なく自作しようと思ったのだ。
「任せておきな! フルオーダーにも引けを取らない出来に仕上げてやるよ!」




