俺は獣か?
エンジュが呼び出した守護獣は顔こそ黒い靄で隠れて眼だろう赫い光が二つ点ってるのがわかる程度だが、体格や服装が完全に俺だった。
「⋯⋯エンジュ?」
確かにエンジュには人間ではないと言ってあるが、まさか獣だと思われてるとは。
「ち、違うのよ! イオドをそんな風に思ってるわけじゃないのよ!」
ぼーっと佇む俺らしき守護獣の横でわたわた慌てるエンジュ。
「まぁ、守護獣に決まった形はないからね。イオド、君がミセタイダケに見せられた幻覚体も人型だっただろう?」
それもそうか。守護獣と言うから獣型が出てくると思って待ち構えてたら俺が出てきて驚いてしまった。
「でも何でイオドっぽいのが出てきたんだろう⋯⋯⋯⋯ネコチャンガヨカッタナ」
エンジュは守護獣を眺めて疑問する。後半は聞かなかったことにしよう。
「推察するに、これまでイオド君に守られた経験から信頼感があるんじゃないかな? 彼なら護ってくれると」
そうか。もしかしたら最初に怖がらせてしまったから、こんな禍々しさが混じっている姿なのかもな。
だが禍々しい見た目の割に、特に暴れ出したりもせずにぼーっとエンジュの横に立っている。一応守ってるつもりなのか。
「見た目より大人しいねぇ。何か軽く命令してみてくれるかい?」
「わ、わかりました! ⋯⋯えーと、じゃあ回って!」
のそりとその場で一周回る俺っぽい守護獣。エンジュ、そいつは犬じゃないんだぞ?
「うん。キチンと言うことも聞くね。問題ないんじゃないかな。体調に変わりはなさそうだしね。次は私もついて行くから、軽く素材集めがてら探索に行こうか。能力も見ておかないとね」
◇
連続使用を避けるため二時間ほど薬屋でキノコ茶を飲みながら休憩した後、店主がいつも薬草を採りに行ってる朽ちた植物園に赴くことになった。
ちなみに俺がミセタイダケを採りに行った植物園とはまた別の施設だ。
「これから行く場所は他言無用だよ」
例の如く配管だらけの階層に転移して、店主が独自に見つけた秘密のルートを歩く。
貴重な薬草が未だ稼働するロボットによって管理されているが、数が少ないため店主以外の人間に知られると取り尽くされてしまう可能性があるから他言無用なんだと。
「⋯⋯そんな貴重な場所でなくてもよくないか? 俺たちがうっかり漏らしてしまうとか考えないのか?」
村の中では守護獣を試せないだろうが、外のそれなりに広い場所なら何処でもいい気がするが。
「まぁ、君たちは信用できるし万一漏れてもそこしか採取地が無いわけではないからね。これから行く植物園は周りから隔絶されていてね。機獣が入り込まないんだ。それに守護獣は最初は不安定なんだよ。能力を試すなら静かで敵が来ない場所がいい。隔絶されてるとは言え、それなりに広いしね」
「でも植物園がこの階層にあるなんて知らなかった」
エンジュが知らないのも頷けるほど、植物園までのルートは複雑だった。曲がっては下り何度も店主が設置したダミーの壁を開けてようやく辿り着いた。
店主がここさと言った場所は、細い通路の奥に横開きの自動扉があるだけだった。
店主が扉の横に隠されたコンソールに何か打ち込むと、圧縮空気の音と共に扉が開く。
中に入ると朽ちているとは思えない生きた植物園が広がっていた。
「凄い⋯⋯あ、壁に地図が。へぇ、確かに大きくはないけど何個も区画があるんですね」
今俺たちがいるのは掠れて読めないが、何らかの薬草なんだろう小さい花が一面に咲いている区画だ。
小さなロボットが何体か花を管理するためか走り回っている。
「そうだよ。その一つの区画が死んでいてね。何か実験する時はここを使うようにしてるんだ。近いしね」
死んだ区画に移動するついでに、店主は何本か薬草を俺に指示を出して採取して行く。
いくつか区画を跨いだ頃に採るよう指示された花が妙に印象に残った。見覚えがあるような無いような。
「その花は潰して傷に塗ればそれ以上悪化しなくなるよ。意外なところに生えてたりもするから見かけたら採っておくといいよ」
こういう管理された場所以外にも生えてるかも知れないのか。覚えておこう。
「さてゆっくり採取するのもいいけど、到着さ」
その区画は確かに死んでいた。枯れた薬草の残骸が寂しげに残っている。
「⋯⋯何か寂しい部屋だね」
他の区画が華やかだっただけに余計比べてしまう。
「充分この植物園は生きてる方さ。⋯⋯で、エンジュちゃんの守護獣の能力の確かめ方だけど、普通に走り回ったりなんだりしてもらって確かめるのともうちょっと実戦に即した方どっちがいい?」
店主がフードの奥で楽しそうにしてるのがわかる。実験材料を前にした研究者の雰囲気がする。
「実戦に即した方は何ですか? 機獣は来ないんですよね?」
エンジュが素直な目で疑問するが、俺は店主の言いたいことがわかる気がする。何なら俺もその方がいいと思う。
「機獣は来ないけど、機獣なんか目じゃ無いくらいの存在がこの場にいるじゃないか。⋯⋯ね、イオド君」




