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エンジュに丸薬を

 シュマに報告してから数日が経った。

 その間俺は獣挽きと戯れたり、シュマとエンジュの訓練を見に行ったりして過ごした。

 あの機腕との実戦を経て、足りない部分が見えてきたのかこれまでよりも更に考えながら槍を振るっていた。


 ウルカからまだ連絡は無い。糸造りに集中しているのだろう。

「さて鍛錬でもするか」

 暇があれば幻覚体との戦闘を思い出しながら身体を動かしている。あの流麗な捌きには遠く及ばないが、なかなか良くなってきたと我ながら思う。


「⋯⋯ん? 薬師か」

 ゆらゆらと身体を揺すっていたらアームデバイスにメッセージが入った。

「お、丸薬が完成したのか」

 いつでもいいから、エンジュと一緒に来るようにとの事。


 早速エンジュに通信を入れる。

「あ、イオド! どうしたの?」

「あぁ、エンジュに試して貰いたいものがあってな。今暇か?」

「うん。今日は休みだってシュマが言ったからね。家で記録媒体見てた」


 あれからもエンジュは魂の転写装置の手がかりを探している。今は直接転写装置を探すのではなく、古い記録媒体が眠っていそうな階層はないか。まだ見つかってない経路はないのかと地図系の記録媒体も漁っているようだ。


「なら今から薬師の店に行こう」

「りょーかい! イオドの事だからまた何か凄いの見せてくれるのかな?」

「行けばわかる。実際に見ないことには信じてもらえないかもだからな」

 実際、俺は薬師に説明されても守護獣を見るまでは揶揄われてるのかと思ってしまった。


「では店で待ってる」

「はいはい。すぐ行くね!」

 エンジュはいつも元気だ。さてどんな守護獣が出てくるのやら。


 薬師の店に入る。まだエンジュは着いてないようだ。

 薬草の棚の補充をしていた店主が、ドアの鈴の音に気づいてこちらを向く。

「いらっしゃい、待ってたよ」

「貴重な丸薬の提供感謝している」

「気にしなくていいよ。今後は材料がなくなったら君に採りに行ってもらえるからね。むしろ助かってるよ。作るのは時間が掛かるだけで手間は少ないんだ」


 どんな守護獣が出るにせよ、全くの役立たずではないだろう。ミセタイダケを採りに行くぐらい何のこともない。⋯⋯と思ったのだが、

「一つ聞きたいんだが、ミセタイダケを採取する際は毎回幻覚体との戦闘があるのか?」

 毎回あの女と戦うのは流石に骨が折れる。


「私は毎回だったけど、君はもうないんじゃないかな」

「それは助かるが、理由は何だ?」

「君はもう実力を認められてるからね。ミセタイダケにとっても君と互角以上に戦える幻覚を作るのは骨だってことさ。その指輪が採取許可証みたいなものさ」

 まぁ、そう何度もあの女レベルの幻覚体を作り出せないか。


 店主と会話していると背後で扉の開く音と鈴の音。エンジュが来たようだ。

「⋯⋯ごめんくださーい。あ、イオド先に来てたんだね」

 珍しくおどおどした様子だ。


「やぁ、エンジュ。久しぶりだね。待ってたよ」

「お、お久しぶりです。今日はイオドに言われてきました」

 若干強張った表情のエンジュ。見るからに怪しい店主に嫌悪感でもあるのかと思えば、どちらかと言うと苦手意識か?


「ふふ、イオド君。エンジュはね子供の頃に苦い薬を私に飲まされたのがトラウマらしいんだ。⋯⋯寂しいな。私は仲良くしたいんだけどね」

 店主がどこか揶揄うようにエンジュの過去を吐露する。


「うぅ⋯⋯。しょうがないじゃないですか、死ぬほど苦かったんですから⋯⋯」

 思い出したのかうぇっと舌を出して苦そうな顔のエンジュに、店主は優しい声音で話す。

「まぁいいさ。今日呼んだのはね、エンジュ。君にイオド君からプレゼントがあるんだ。私との合作さ」

 俺は採取に行っただけだがな。


「プレゼント⋯⋯? もしかしてキノコ採りに行って大変だったって依頼のこと?」

「そう。イオド君に材料を採りに行ってもらったんだ。そして完成したのがこの丸薬さ」

 店主が掌大の四角いケースを開けると小さな丸薬が並んでいた。


「これは? すごく苦そう⋯⋯」

 大人になっても苦いのは苦手かエンジュ。

「説明するより見せた方が早いね。⋯⋯君はこれからこの世界の常識の殻を一枚破る体験をする」


 店主はエンジュの丸薬ケースを閉じると、己のケースを取り出し開き一粒摘む。そして妖艶な仕草でそれを飲み込む。

「おいで三日月猫チェシャーキャット。さぁ、エンジュ。これが世界のベールの裏側だよ」

 店主のフードの奥の笑みは、肩に乗る猫のニタニタ笑いと重なって見えた。

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