灰蚕の繭
咽せ返るような血と臓物の匂いが漂うドーム内を、繭の生産施設を探して歩く。
久々の戦闘モードは少し疲れるな。加減などできる訳もなく、人間だったモノの四肢や頭部があちこちに転がっている。
急ぎだったから仕方ないとはいえ、こんなスプラッタな場所にエンジュは連れて来れない。とっとと繭を採取してしまおう。
「⋯⋯ん、あれか?」
ウルカの言う通りに入り口から右に進むと、誰が作ったのか何が作ったのか剥き出しの生産施設らしき場所があった。
向かってみるとドームの天井から何本もの管がぶら下がって、施設の恐らく蚕を飼育している箱のような物に繋がっている。箱はズラッと円状に並んでおり、ほぼ全てが生きて稼働してるようだ。
「あいつらと戦った感じからすると、ここに来て欲しくなかったのかもな」
この施設がある場所を遮るように戦っていた。全て蹂躙したが。
それほどの素材だということか。
機腕を追い立てたのもコイツらだろうな。灰蚕の繭が好物とウルカが言っていたし。
血やら溢れでた何かで無惨に汚れているが、あいつらの服はもしかしたら灰蚕の繭で作られているのかもしれない。
「ウルカは初めて見たらしい。こういう生きた生産施設を探して放浪している民の一部だったのかもな」
あれだけの攻撃性を見せたのだ。なかなか生きた生産施設は見つからないのだろう。
「⋯⋯さてさっさと採取してしまおう」
アームデバイスにエンジュ達から連絡は無い。問題があればメッセージが来る筈だから何もなかったのだろう。
施設内の通路には蚕の世話をするためか、キャタピラに乗った箱に作業アームのついたロボットが徘徊している。
俺が近づいても特に気にしないようで、完全に灰蚕の世話係に徹するロボなのだろう。
灰蚕が入っているだろう箱の蓋を開けると、確かに灰色の繭が何個もぎっしり詰まっていた。
一つ一つマス目に区切られ、繭が互いに接さないような造りになっている。
「〜〜・・*・゜゜・*:.。..。.:.。. .。.:*・゜゜・*」
俺が灰蚕の入った蓋を開けたのを見たロボがチカチカとランプを光らせて近寄ってくるが、俺を排除しようとしている訳ではないみたいだ。
作業アームをわたわた動かして訴える様は早く閉めろと言いたげだ。
「⋯⋯悪いが持っていけるだけ持って行かせてもらう」
少し心苦しいがエンジュの鎧を仕上げるために必要な素材なんだ。許せ!
「——〜ー」
俺がウルカに借りた携帯背負子を展開して灰蚕の繭を入れ始めると、この箱は己の管轄から離れたと判断したのかピポピポ言いながら離れて行った。
「⋯⋯かなり数はあるようだから詰められるだけ詰めてしまおう」
展開した背負子はかなりの容量がある。とにかくたっぷり詰め込んだ俺は先ほどの世話ロボの頭をポンと労う。
本来のここを管理する者がすでに遥か昔に滅び去ってるだろうことは容易に察することができる。
もう世話をする必要などないだろうに、プログラムに従って動き続ける彼らに最低限の敬意を。
「⋯⋯盗人猛々しいとはこのことだな」
◇
ドームから出る前に返り血などを拭わなければいけない。何がったかバレてしまうからな。
適当に汚れてない奴らの服を見繕って簡易的にタオルとして使う。
「取り敢えず大丈夫か⋯⋯」
血で汚れた布を捨てる。あいつらの死体ごと何らかの浄化機構が全部綺麗に片付けてくれるだろう。
ドームを出てエンジュ達を探す。少し首を巡らせば獣挽きの触手がまだ展開しているのが見えた。
高く伸びている眼玉に手を振ると、触手を引っ込めた。
「あ、イオド早かったね! 逃げた人が待ち伏せとかしてなかったんだ?」
エンジュの言葉に少しドキッとするが、返り血は綺麗にしてきたし問題はない。
「あぁ。逃げたんだろうな。灰蚕の繭もかなりあってな。採れるだけ採ってきた」
「おぉ、大分あったみたいだねぇ! あたしが前来た時は時期から外れてたのかそんなになかったんだけどね」
変な奴らに襲われもしたが、運は悪くなかったようだな。
「これだけあれば十分か?」
「十分も十分。護衛としても役立ってくれたし報酬は色つけとくよ!」
背負子の中の繭の量を見てウハウハなウルカ。
「それじゃ、ようは済んだし帰るかね!」
そう言って歩き出すウルカ。俺は奴らの持っていた機械弓と服を剥ぎ取って持って帰る。




