問答無用
「⋯⋯いきなり物騒だねぇ。あたしらも仲間に攻撃されて、はいそうですかって帰れないんだよ。理由くらい言ったらどうなんだい?」
ウルカから明確な怒気を孕んだ質問が飛ぶ。
「⋯⋯余所者に答える義理などない。速やかに立ち去れ!」
針山のような髪型の男が理不尽にも怒声を発すると、俺たちを囲むように五人の男女が瓦礫の上に現れる。
目の前の男と合わせて六人。布に機械部品を合わせたような服を見に纏い、機械弓で武装している。照準は俺たちに合わせられているようだ。
「⋯⋯獣挽き、二人を守れ」
俺は獣挽きを地面に突き刺し、命令する。触手を多数展開して守りの体勢に入ったのを見届けてから一歩前に出る。
「イオド⋯⋯」
不安そうなエンジュの声を背に、男を見上げる。
「——貴様! 勝手な行動はするな!! それに何だそれは気味の悪い⋯⋯」
「いやなに、帰る前に忘れ物を返そうと思ってな」
「忘れ物だと⋯⋯?」
俺は今まで感じたことがないほど、腑が煮えくりかえっていた。目の前で五月蝿く喚き散らす男にも、ギリギリになるまで襲撃に気づかなかった俺自身にも!
「——返すぞ」
エンジュに射かけられ、当たるすんでで止めた矢を男に向かって《《全力》》で投擲した。
音速を超えた衝撃波の音を撒き散らし、男の上半身が紅い霧になって消失した。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
誰も声も音も発さない静寂の時間が流れる。
上半身を失った下半身が、思い出したようにゆっくり前のめりに倒れ瓦礫の上から落ちる。
残っていた血と臓物が、哀れにも地面に耳障りな水音を響かせるのが合図だった。
「う、打て——!!」
こちらを包囲する集団の副官的存在か、射撃の合図を下す。
エンジュとウルカを狙う矢は獣挽きが難なく打ち払っている。
自身の首領の結末を見ていただろうに、愚かにも俺を射殺そうとした馬鹿は同じく血の霧になって貰った。これで残り四人。
「——くそっ! 何なんだあの化け物は!! 撤退だ! 退け退けぇ!!」
残った奴らが不利を悟ったか撤退し出す。
「⋯⋯ウルカ、ハンマー借りてもいいか?」
「⋯⋯構わないけど壊さないでおくれよ? それと一人くらいは残しておいて欲しいんだけど」
「善処しよう」
ウルカからハンマーを借りると、撤退する愚か者を追うため瓦礫を足場に飛び上がる。
滞空。まずは先頭を走る女。ハンマーを投擲。
「———ひっ!」
一瞬振り返った女の顔は絶望に引き攣っていたが、すぐにどんな顔だったか忘れる。興味もない。
「⋯⋯三人」
「———リーナ!! よくもぉ——!!!」
先程まで女だった血溜まりに、墓標のようにハンマーがめり込んでいる。
女と何か深い関係にでもあったのか、長髪の男が着地した俺に憤怒の表情で向かってくる。
「待て! 退け、俺たちじゃ無理だ!!」
副官らしき男が必死で呼びかけるも、男は腰から鉈の様なものを抜くと俺に斬りかかった。
「⋯⋯その程度の実力と武器でよく向かってくるもんだ」
俺は男の鉈を指で摘んで止める。
「——この化け物めぇ⋯⋯ごぶっ」
手刀で首を刈る。真っ先に女から狙ってくるような連中に化け物呼ばわりは心外だな。
「くっ……」
残りの二人が脱兎の如く走り出す。次のドームの入り口が近い。逃げ込まれたら面倒だな。
俺は首を刎ねた男から鉈を奪うと、逃げる二人のうち女の足目掛けて投擲した。先ほどのように最後に残った男が助けに戻るかと踏んでいたのだが。
「⋯⋯⋯⋯」
「———嫌っ! 置いてかないで!」
右足を断たれ倒れ込む女をチラッと見ると、男は減速もせず逃げていった。
追うべきか迷ったがこれ以上エンジュ達から離れたくない。まだ伏兵が隠れている可能性を捨てきれない。
残された女を回収して戻るかと近づくと、脚を斬り飛ばしたのは少しやり過ぎだったのか俺が近づく頃には出血多量で絶命していた。
「⋯⋯これでは何故襲われたかわからないな」
仕方がないので血溜まりに突き立つハンマーを回収し、一応持っていくかと女と首のない男の死体を引きずって触手に守られているエンジュ達の下へ歩き出す。




