獣挽きの活躍
機腕の血と臓物塗れになってしまったエンジュだが、どうしようかとわたわたする俺たちを他所に獣挽きがベロンベロンと触手で舐め取ってくれた。
「⋯⋯うぅ、まだ臭いは残ってる⋯⋯」
見た目上は大体綺麗になったエンジュだが、流石の獣挽きでも臭いまではどうにも出来ないようだった。当の獣挽きは機腕の素材を食べられて満足そうだ。
「まぁ、兎に角初勝利おめでとさん! 最後のカウンターはだいぶ良かったよ!」
「あぁ、よく集中してタイミングを測っていたな。恐怖の中でも槍が鈍らなかったのは上出来だ」
俺の横槍があるとは言え、機腕の巨体と直接相対したエンジュの恐怖は想像に余りある。何しろ初めてのまともな戦いなのだ。
「イオドの援護があったからね! 絶対に一撃はまともに入れてみせるって気合い入ったわ! 爆発するとは思わなかったけどね」
少し恨みがましいジト目を向けてくるエンジュ。
「それに関してはすまないと思ってる。まさか力場に攻撃能力もあるとは想定していなかった」
「冗談よ! あれのおかげで一撃で倒せたしね! ⋯⋯どことなく槍の光沢が鈍ってる気がするけど、爆発に力を使ったからかしらね?」
言われてみれば少し燻んだ気がするな。
「常温でリチャージするらしいから、光沢が戻ればまた爆発が使えると思うぞ」
「⋯⋯力場にこんな使い道があったなんてねぇ。この角で投げナイフなり矢とか作ったら遠距離からでも必殺の一撃を叩き込めそうだね」
ウルカの言うそれもありだと考えてしまうが、今のところ俺が持ってるだけしか角がない。ただ、帰ったら投げナイフは何本か作っておこう。
「まだ量産できるほど在庫がないがな。ただテミス様はエラー個体を意図的に作り出せるようになってはいるらしいから、角もそのうち流通し始めるかもな」
「そうなったら何本か欲しいもんだね。その時はあのナイフをしばらく貸しておくれよ!」
「無論、そういう約束だからな。好きなだけ借りてってくれ」
その後は一撃で戦闘が終わったとは言え、疲れがあるだろうエンジュをしばらく休憩させてから俺たちは次のドームまで歩みを進めた。
二つ目のドームも相変わらず瓦礫やら太い配管が地面にめり込んだりで視界が悪い。
十分に用心して先を急ぐ。
「さっきの機腕が一つ目のドームに来ていた原因がまだわからないからね、用心しといてくれよ」
ウルカが先程までより注意深く周りを警戒している。
「そんなに警戒すると言うことはかなり珍しいのか? 機腕が一つ目のドームにいるのは」
「珍しいというより初めてだね。あいつらは何でも食うけど、特に好んで灰蚕を食べるんだ。だから一個目のドームに用なんてない筈なんだ。それでもいたって事は⋯⋯」
「⋯⋯何かに追いやられて仕方なくあそこを狩場にしていた可能性か」
何か他に強力な機獣でも出現したか、ウルカが言っていた別の階層の人間が何かしているとも考えられる。
機獣なら俺が何とかすればいいが、人間は狡猾だ。特に悪意を持ってこちらを害そうとする者はまともな手段で向かってくるとは限らない。
十中八九、搦手で襲いかかってくるだろう。
「獣挽き⋯⋯」
触手でエンジュを敵の遠距離攻撃から守ってもらえないか聞こうとすると、ウルカと俺の会話を聞いていたのか眼玉を上に長く伸ばして自主的に索敵に勤め始めた。
「え⋯⋯、その子そんな器用な事も出来るのかい? すごいね、最早ただの武器じゃなくてしっかり探索の仲間じゃないかい!」
ウルカも頼もしそうにキョロキョロ眼玉を動かす獣挽きを褒めてくれる。
「ケモちゃんありがとね!」
エンジュなどあだ名をつけて撫でている。
獣挽きの新たな可能性に俺自身誇らしくなる。
それから暫く進み、もうすぐ三個目のドームの入り口かというところで獣挽きが慌てたように触手で俺を叩き始めた。
その瞬間強烈な殺気を感じた俺は、ウルカと俺の間を歩いていたエンジュの襟首を掴んで引き、それまでエンジュの頭部があった位置に飛来した矢を掴んだ。
「———え、あたし射られそうだったの?」
エンジュは正にヘッドショットされそうだった事実に顔を真っ青にしている。
獣挽きもエンジュを守るように触手を複数展開して警戒。
俺たちが警戒を強めたからか、はたまた獣挽きを警戒したのか地面に突き刺さる配管の上に男が姿を現した。
「⋯⋯お前たちを包囲させてもらった。そこから先に進むな。さもなくば殺す」




