エンジュの槍
短槍を構え、ジリジリと距離を詰めるエンジュ。
対して機腕は右腕から火花を散らしながらも、余裕の顔で歩いてくる。
「いいのかい、イオド。動きがのろいとは言え、一撃はかなり重いよ。エンジュちゃんには荷が重いんじゃないかい?」
ウルカが心配そうに機腕と相対するエンジュを見詰める。それを横目に俺は細かい瓦礫を拾う。
「問題ない。危なくなれば俺が介入する。油断さえしなければあの程度の相手はエンジュでも戦える」
緊張で硬くはなっているが、油断なく慎重に短槍のレンジを見極めている。
「——はっ!」
ゆっくり向かってくる機腕が範囲に入ったと判断したのか、エンジュが突きを繰り出す。腰の入ったいい突きだ。が、
「⋯⋯少し遠いな」
恐怖で焦ったか、まだ機腕が対処できる間合いから突いてしまった。
腕で短槍を掬い上げるように距離を詰める機腕。そのまま機械の腕でエンジュを殴りつけようとする。
「きゃっ!」
「————っ!?」
エンジュの対処が遅れると踏んだ俺は、あらかじめ拾っておいた瓦礫を親指で弾いて機腕の腕に当てて攻撃を逸らす。
「エンジュ焦るな。回り込むように距離を取るんだ」
「ありがとうイオド!」
危なくなっても俺からの援助があると安心したのか、エンジュの肩の強張りが溶ける。
先程までより集中した顔で距離を測っている。
機腕の方は俺からの横槍が遠距離からでも入る事実に絶望したのか、あからさまに逃げ腰だ。
何ならいつ逃げるか様子を伺っている。
逃すつもりはない。貴重なエンジュの戦闘経験なんだ。
「⋯⋯獣挽き」
右手に持った獣挽きにちょっとした頼み。
詳細を言わずとも俺の意を汲んだ獣挽きは触手を高速で射出して、機腕の足の一本に巻きつきこの場からの逃走を許さない。
この戦闘が終わったら、機腕の素材でも食べさせてやるか。
「⋯⋯あんたのその剣は何でもありだね」
「頼もしい相棒さ」
ギリギリと触手に締め上げられ、逃走しようにもできない機腕はこの世の終わりのような顔でエンジュに向かって行く。
自身の生存の可能性はそこにしか無いかのように。
「⋯⋯ふっ!」
どうにかエンジュを倒そうと機腕が破れかぶれに拳を叩きつけているが、緊張も解け集中し出したエンジュは危なげなく避ける。
パワーはあるがスピードはない機腕の攻撃だ。
何度も避けたり捌いたりしている間に、じっくりとカウンターを狙う時間は十分にあった。
「———ここっ!」
機獣にも焦りはあるのだな。なかなか当たらない攻撃に業を煮やしたのか、あろう事か両手を組んで振り上げエンジュを叩き潰そうとする。
そんな見え見えの攻撃に当たってやるほど、エンジュは弱くない。
先程の失敗を踏まえ、しっかりと短槍の間合いを管理し機腕の急所が顕になる瞬間に合わせて渾身の一撃を突き込む。
「————っ!」
通常の生物なら心の臓が存在するだろう箇所。穂先が見えなくなるまで機腕の肉体に槍が沈み込む。
自身の胸に埋まる短槍を凝視し、侮っていた小娘に鮮やかにカウンターを貰い何が起きたか理解しきれていない顔の機腕。
「見なよ、イオド! エンジュちゃん勝ったよ! 大金星だね!」
横でウルカが大はしゃぎで跳ねている。
「あぁ、初めての戦闘にしては上出来だ⋯⋯⋯⋯ん、何だ?」
エンジュがダメ押しとばかりにグイッと捩じ込んだ瞬間、機腕の背中が光と共に爆散した。
「———えぇ!?」
最早、機腕の上半身と下半身を両断する勢いの爆発に当のエンジュも面食らっている。
当然、俺も驚いている。突いた相手の傷をより深くしようと色々加工したが、爆散するような機能は搭載していない。そんな技術は俺にはない。
「⋯⋯まさか力場か? 攻撃にも転用できる能力だったのか」
エンジュの短槍の素材はエラー個体の角のみだ。防御の為の力だとばかり思っていたが凄まじい能力だ。
「⋯⋯何なんだいあの槍は? いい槍だとは思っていたけど⋯⋯」
ウルカもあまりの事態に目を丸くしている。
まぁ、何だ。少し想定外の結末になってしまったが、エンジュに実践経験を積ませるという目的は達成できた。
問題は、機腕の血や臓物塗れになって呆然としているエンジュをどうするかだ。




