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待ち伏せ

「小さい機獣と言ったが、どんな機獣なんだ? 名前はあるのか?」

 先を歩き周囲への警戒を怠らないウルカの背に問う。

 鎧師の筈だが、そつの無いクリアリングや隙なく歩む佇まいが戦士のようだ。


「人間くらいの大きさの猿みたいな機獣が出るね。基本単独行動でパワーはあるけどあまり速くない。ここいらでしか見ないから正式な名前は無いと思うね。あたしは勝手に『機腕』って呼んでる」

 単独で速くないと。それならエンジュの実戦相手として丁度いいかもな。ダメそうならある程度痛めつけてからでもいいし。まぁ、まずは俺が相手をして戦力の分析をするか。


「そいつが出てきたら俺に戦わせてくれ。どの程度か確かめたい」

「いいよ。そこまで数はいないから、今回出てくるか分からないけどね」


                  ◇


 一つ目のドームを縦断し始めていくらか、今は中心に至ろうかというところ。

「⋯⋯そう言えば、今回は糸の材料を採りにきてるが具体的には何を採るんだ?」

「ん? あぁ、言ってなかったね。狙ってるのは『灰蚕の繭』さ。その繭を紡いだ糸がまぁ強靭でね。初めて使って以来ずっと使ってる」


 説明されても、俺は蚕を知らない。まぁ、行ってみれば分かるかと追求するのをやめたがエンジュが興味深そうにしていた。

「灰蚕って、地球時代に高級な糸を採るために飼われていた蚕の子孫みたいな感じですか?」


 エンジュの質問に姉御な笑みで答えるウルカ。

「よく知ってるね。そうだよ。あたしも最初は何か知らなかったけどね。調べたら大昔の蚕っていうのによく似ててさ。繭の色が灰色だったからあたしが勝手に灰蚕って呼んでるのさ」


 ウルカの説明を食い入るように聞いているエンジュ。だいぶ打ち解けてきたようだ。

 だが少し話に気を取られすぎているな。話すウルカの方は話しつつも周囲の警戒は怠っていない。

 エンジュも拾い手としての経験はあるだろうが、比較的安全な範囲での活動が多かったのだろう。


 気配からすると数メートル先、瓦礫の集まりが密集し始めた場所。死角が多い故に《《奴》》の狩場になってるのだろうか。それにしても一体何を普段は狩ってるんだ? 他に機獣は見当たらないし、ウルカ以外にも探索に来る者も居るらしいので獲物は人間かもしれないな。


「⋯⋯ウルカ」

「⋯⋯わかってる。珍しいね。一個目のドームでもう出会うなんて。いつもなら二個目のドームに何体かいるかなくらいなんだけどね」


 はぐれ個体、そもそも単独行動だからはぐれでもないか。それでも通常出会わない場所に出現してるなら、次のドームに何か起きてる可能性が高いな。


「え、どうしたの急に。何かいるの?」

 俺とウルカの会話にエンジュが戸惑っている。次はシュマと共に気の張り方を教えて行くとするか。知っていた事だが油断が多い。


「恐らくさっきウルカが言っていた猿の機獣だ。物陰に隠れてこちらを伏撃しようと待ち構えてる。⋯⋯では今回は俺が行く」


 この場に二人を残し、機腕がひそむ瓦礫まで歩いて行く。

 奴の隠れている場所までもう少しといったところで、上から襲いかかってきた。

「おぉ、知恵が働くな」


 単純に待ち伏せだけでなく、音もなく瓦礫を上り意表を突いてくるとは面白い機獣もいるものだ。

 機械で構成された腕を叩きつけてくるのを、避けずに腕を上げて受け止める。どれほどのパワーか確かめたい。


 俺の腕と機腕の一撃が衝突する重厚な音が響く。

「⋯⋯エンジュが戦うには少し荷が重いか?」

 パワーはそこそこ。俺の腕に打ちつけた機腕の腕が損傷して火花を上げているのを見ると、耐久性は大してないのかもしれない。

 機械なのは腕のみで、その他の部位は人間サイズの猿だな。


「————っ!!!」

 損傷した腕を驚愕の眼差しで見遣る機腕。のそのそ後退するが、ウルカの言う通り動きは遅い。伏撃を防がれ損傷までした機腕が怯えた目を向けてくる。

「⋯⋯一撃に気を付けさえすればエンジュでもいけそうか。過保護は良くないしな」


 俺がそばに居れば万が一も無いだろう。

「エンジュ、ちょっと来てくれ」

「わ、わかった!」


 俺に呼ばれたエンジュが緊張の面持ちで駆け寄ってくる。

「これからこいつと戦ってもらう。初めての実戦で緊張するだろうが、俺がついてる。安心して戦うんだ」


 いきなりの実戦だが、エンジュにとっていい経験になる筈だ。嫌がるかと思ったが意外にもエンジュはやる気に満ちた顔を俺に向けてくる。

「⋯⋯うん。わたしが付いて来たいって言ったんだし、ちょっと怖いけどイオドがいるしね。頑張る!」


 俺謹製の短槍を構えるエンジュ。

 恐怖からか少し腰が高いが、まぁ及第点か。

「———」

 相対するのが俺から少女に変わったのが分かったのか、機腕の表情が侮りに歪む。


「——行くよ!」

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