ウルカの直感
「拾い手たちはリスクを冒す気がないからね、だから色々見落とすのさ」
転移装置で跳んだ先、縦横無尽に配管が走り得体の知れない液体が割れた配管から滲み出ている階層に降り立つと、ウルカが腰のウォーハンマーを抜きながら話す。片手で扱うタイプだが、ハンマー部分が大きめで扱いにくそうだ。
「まぁ、あたしみたいに元々荒事に自信のない人がなるしね」
ウルカは道順がもう頭に入ってるのか、確認することなくズンズン突き進んでいく。
たまに崩れた瓦礫があるとハンマーで豪快に弾き飛ばしている。
「もう若くないとか、身体が不自由とかなら分かるけどね。立派に動けるようなら武器の一つや二つ扱えるようにならないとね」
しばらく曲がったり登ったり歩いてると、行き止まりに着いた。
「⋯⋯行き止まりだが?」
隠し扉でもあるのかと配管の隙間を覗いてみるが材質不明の壁が見えるのみだ。
「まぁまぁ、下がって。⋯⋯この壁の配管の一部をよく見てみな」
「一部⋯⋯?」
よく見ると壁の配管の何箇所か少し色が違うのが分かる。
「なんか色が濃かったり薄かったりする」
「そう、あたしはね別の拾い手と探索してた時に偶然ここを見つけてね。その時の拾い手は気づかなかったけど、あたしは何かあるだろと直感してね。何度も通って《《開け方》》がわかったのさ」
そう言うとウルカはおもむろにハンマーを振りかぶると、色が段々と濃くなる順番に配管の一部を叩いて行く。
色の濃さで配管の材質が僅かに違うのか、音の高低が変わり音楽でも奏でているようだ。
最後の一振りを叩き込むと、先ほどまで配管塗れの行き止まりが左右に分かれて開いた。
「急ぎな。すぐ閉じちまうからね」
ウルカがサッと入るのに俺とエンジュも慌てて続く。
ウルカの言う通り俺たちが入って間も無く、扉は閉じてしまった。
「閉じるとただの行き止まりにしか見えないな」
「⋯⋯ウルカさんは、さっきの壁を叩くのって怖くはなかったんですか?」
突然エンジュがよく分からない事をウルカに質問していた。
「ん? 何が怖いんだ? 壁を叩いていただけじゃないか」
「まぁ、あんたほどの強者には分からない話さ。エンジュちゃんはこう聞いてるんだ。———何故わざわざ機獣を呼び寄せるような行いをしたのか。そんなリスクを冒すほどのことだったのかってね」
あぁ、この階層は機獣は出ないとは言っても絶対では無いはずだったな。
「そうだね。怖かったし、一度小さいけど機獣が来たこともあったよ。こいつで叩き潰してやったけどね」
ウルカがハンマーを愛しそうに掲げる。愛用だろうそれは数えきれない傷がはしり、何度も歪みを直した形跡が窺えた。
「だけどねあたしは何も考えなしで壁を叩いた訳じゃない。そもこの狭い通路にデカい機獣は入れない。来るならあたしでも対処できる奴だと踏んでた。それにあたしの直感が告げてたのさ。——この先にお宝があるってね。頼りになる武器もあったしね。だから見落とさなかった」
ウルカが歩み始める。
質問の答えは得れたのか、エンジュの表情からは分からない。それでも短槍をギュッと握り直しウルカに続く後ろ姿は、いつもと違って見えた
隠し扉の先しばらくは入る前の配管だらけの階層と変わらない通路だったが、突き当たりは短い階段で降りると広大な空間がドーム状に広がっていた。
無造作に林立した金属の塔やら崩れた人の胴より太い配管が障害物として鎮座している。
「⋯⋯見通しは良く無いな」
「こっから先はこんな感じのドームが通路で繋がって存在してる。あたしらが用があるのは三つ先まで進んだ先のドームだ。そこに目当てのブツがある。⋯⋯そんでもってここからは小さいとは言え機獣も出るし、別の入り口があるのかうちらの村の者じゃ無いのもたまに居る。用心するんだね」
「⋯⋯機獣も出るんだね」
エンジュが緊張したように肩が強張る。
「大丈夫、あたしがソロで採取に来たりしてるくらいだからヤバい機獣は居ないよ。油断さえしなければ何とかなる。用心すべきは機獣より人間かな。前に騙し討ちされた事がある。こいつで切り抜けたけどね」
ウルカが愛用のハンマーをさすりながら言う。
「了解だ。十分注意しよう」
担いでいた獣挽きを右手に携える。
これだけ広いんだ。もう問題なく振れる。
俺たちは用心しながら次のドームへと足を進めた。




