エンジュと探索
薬師の店に入る。
カウンターで書き物をしていた店主が、俺に気づいて顔を上げる。
「あぁ、君か。丸薬ならまだできてないよ」
「そうなのか。明日、エンジュと探索なんだが出来てたら持っていこうかと思ってたんだ」
まぁ、出来たら連絡するという話だったし完成してたらいいなと寄ってみたんだ。
「慣らしもなしでいきなり実戦投入はお勧めしないね。どんな守護者が出てくるか、能力は、性格はどんなか。エンジュ本人をここに呼んで試したほうがいい」
ふぅ、と頬杖をついて呆れたふうな店主。
確かに店主の猫は迂闊に手を出すべきではないと、俺の本能が警鐘を鳴らすレベルだった。あんなのがエンジュから出てきてほしくはないが。
「少し考えなしだったか。少しでもエンジュの安全を確保したくてな」
「気持ちはわかるがね。焦る事はないよ。君が共に行動するんだ、それだけでほぼ何も心配いらないと私は思うよ」
店主からの信頼は嬉しいが、少し過剰評価であると思う。現にあの女には手加減された上、勝ちを譲られたしな。
まぁ、あんなレベルの相手がそう何度も出てくるとは流石に思わないが。
「とにかく、完成したら呼ぶからそうしたらエンジュも連れておいで」
「あぁ、了解した」
これ以上用はないので家に帰る。完全に冷やかしになってしまった。今度何か採取したものでも持ってくるか。
◇
次の日。エンジュと初探索の朝だ。
獣挽きを装備してウルカの店に向かう。
久々に行動を共にするからか、獣挽きが機嫌良さげにサワサワと触手で俺を撫でている。愛い奴め。
ウルカの店の前に着くと、店前にはすでにエンジュが到着していた。
出会った時と同じ拾い手の装備だ。今回は俺が作成して短槍も装備していて準備万端の様子だ。
「イオド、おはよう! 今日は一緒に頑張ろうね!」
「あぁ。無理はしないようにな。道中、良さそうな対象がいたらエンジュに実戦を経験してもらいたいと考えてるから、そのつもりでな」
今までの拾い手の活動では逃げることに主眼を置いていたようだが、これからは逃げるだけではどうにもならない状況も出てくるだろう。
エンジュには俺が居ない状況でもどうにか出来るよう、色んな経験を積んで欲しい。
「う、結構急だね⋯⋯。まだ習い始めたばっかりだけど」
エンジュが自信なさげにウジウジしている。緊張しているようだな。表情だけでなく肩も強張ってあまりいい状態じゃないな。
「敵は君が上達するまで待ってはくれないぞ。初心者のうちだから気付けることもある。俺が横にいる。安心して戦うといい」
「そ、そうだよね! 時間がいっぱいある訳でもないし。イオドが居れば安心だしね!」
俺の存在をアピールする。少しはリラックスできたのか、エンジュの笑顔に柔らかさが戻る。
そうしていると店から鎧を身に纏ったウルカが出てきた。
「やぁ! 待たせたかな? お、君がイオドの相棒だね。私はウルカだ。女性用の防具を可愛くすることに身命を賭している」
胸に手を当て一礼するウルカ。とても紳士的だ。
「初めまして、エンジュです! 今日は無理を言ってすみませんでした! 迷惑は掛けないよう頑張ります!」
エンジュの直立不動の挨拶に、ウルカがお姐さんっぽく優しく微笑みかける。
「そんなに緊張しなくていいよ。イオドもそうだが私もそれなりに戦える。油断さえしなければいい⋯⋯というかいい槍だね遺物にしては時間の重みを感じないけど」
ウルカがしげしげとエンジュの背負う短槍を眺める。
「それは俺が作ったんだ。エラー個体の角を削り出して短槍にした」
俺が説明するとウルカが驚愕の表情で俺を見遣る。
「———あんたが作ったのかい!? ⋯⋯はぁ〜よく出来てるよ。装飾もいいけど穂先が凄いね。必ず貫くっていう作り手の意志が見えるようだよ。⋯⋯エンジュちゃん、大事にね」
そこまで褒められると少し誇らしくなるな。エンジュもどこか誇らしげだ。
「さて、自己紹介も済んだし、早速行こうかね」
「ルートはどんな感じなんだ?」
「よく拾い手が探索しに行ってるパイプとか配管ばかりの階層があるだろ? そこに恐らくあたししか見つけてない入り口があるのさ。まずはそこを目指すよ」
ウルカが言ってるのは恐らく俺がエンジュと初めて会った時に、村まで帰るために通った場所だな。
さっさと歩き出すウルカに俺とエンジュはついて行く。まずは村の外の転移装置。




