お披露目
朝だ。エンジュとプルナに完成した品を渡さなければ。
軋む寝台から身体を起こせば、漂うはお隣からの美味そうな料理の香り。
「もう起きてるのか。早いな」
お隣のプルナはもう起床して朝餉を作ってる様子。丁度いいので早速昨日作成した包丁を持って渡しに行く。
「おはようプルナ。お詫びの包丁が完成したぞ」
「あら、おはようイオド——って! 剥き身で包丁を持ち歩くんじゃありません! びっくりしたでしょうが!」
鍋をかき回していたプルナが振り返ったら驚愕の表情の後、めちゃめちゃ怒られてしまった。
「⋯⋯すまない。考えがおよばなかった」
「武器を携行するのと違って包丁は生々し過ぎるからね。まぁ、ともかくありがとうね! ⋯⋯凄い肉厚だけどそこまで重くはないのね。丁度いい感じ」
何はともあれ喜んでもらえてよかった。狩り手達は武器を鞘に入れたりしていなかったし、俺の獣挽きも当然鞘などない。
必要ないかと思っていたが、生々しさがどうこうならマナーの問題だったみたいだな。覚えておこう。
「食材を叩いたりすると聞いたからな。切れ味と同じく、叩き割れるようその厚みにした」
とくにプルナは機獣の素材を調理したりもしてるし、粉砕力も大事だと思ったんだ。
「助かるよ。色んな調理の仕方とか試すからさ、こういう万能な包丁が欲しかったけど、やっぱり分厚くなると重いのよね。でもこの包丁なら丁度いい重さで扱いやすそうだわ! それにキノコの絵の装飾、可愛らしくていいわね!」
何となく入れた彫り物だが、褒められて悪い気はしない。
この後お礼にと朝餉を共に食した。大変美味だったが食べてる途中プルナが白目を剥いて動かなくなった。
急いでメギスを呼んで診てもらったが、軽い食当たりらしい。
問題ないらしいので、プルナを寝かせて俺は家に帰った。
◇
さて次はエンジュに槍を渡すか。
「⋯⋯シュマに槍を習いたい件をちゃんと伝えられただろうか」
アームデバイスで槍が出来たから持っていっていいか通信を送る。
しばし獣挽きと戯れたり、幻覚体の動きを思い出したりしていると返事が返ってきた。
どうも今シュマに槍を習っている最中らしい。後日にするか聞くとシュマも来いと言ってると返事が。
「行くか」
エンジュの家の近くのちょっとした広場に、身体を動かす二人がいた。
村の区画の中に唐突に現れる、村民の憩いの広場だ。大抵は子供達が遊んだりしているが、狩り手が多く住んでる区画では鍛錬に励む者も多い。
ここは後者のようだな。エンジュとシュマ以外にも武器を振るってる者が数名散見できる。
「あ、イオドこっちよ!」
俺が来るまでに身体を動かしていたからか、程よく上気した顔で俺を呼ぶエンジュ。手には練習用の槍が握られている。
一方でシュマは全く汗をかいている様子はない。それだけで基礎鍛錬量の違いが見受けられる。
「早速鍛錬に励んでるんだな。やる気があるのはいいことだ」
「拾い手の経験があるとは言え、いざという時に足手纏いは嫌だからね!」
そうだな。今後探索範囲を広げていけば、想定外の事態なんて当たり前のように起こるだろう。想定外を想定して訓練するのは大事だ。
「で、テメェが持ってるのが完成したこいつの槍か?」
シュマが興味深そうに聞いてくる。
「そうだ。昨日完成した。想像よりいい槍に仕上がった」
ソワソワしてるエンジュにて渡す。
「ありがとうイオド! わぁ、素敵な槍ね! 装飾が細かいし、凄く軽いのね!」
俺が施した蔓模様の彫り物をうっとりした表情でなぞるエンジュ。どうやら気に入ってもらえたようだ。
「⋯⋯確かに何の文句も出せねぇいい槍だ。穂先がエグいな⋯⋯。こんなのどこを刺されてもほぼ致命傷だろ」
シュマにはこの槍の凶悪さが一目で分かったようだ。
「少ない手数、理想は一撃だな。エンジュが戦う時間は短ければ短いほどいい。故にこの穂先だ。⋯⋯構えてみてどんな感じだ? 微調整ぐらいならできるぞ」
俺に言われて、エンジュはそれなりに堂の入った構えを見せる。重心の取り方が少し甘いが初日でこれならいい方だろう。
「⋯⋯長さとかは丁度いい感じね。私には悪いところは分からないわ」
「俺から見てもバランスは悪くないんじゃねぇか。後は使いながら調整すればいい」
今のところ悪いところは見当たらないか。
「折角来たんだ、テメェも付き合えよ。焚き付けたのはテメェだろ」
まぁ、他に用はないからな。俺もエンジュの指導に付き合うことにした。




