イオド、防具を造る
「スケイルメイル? どういった防具なんだ?」
俺が問うと、ウルカが陳列棚から一つ防具を持って来た。
「これだよ。服に鱗のように金属や硬い素材を縫い付けていくんだ。これなら複雑な技術は要らないからね、アンタでも作れるさ」
ウルカが見せてくれたのは服に鱗のように硬質な白い素材が縫い付けられている、軽い装甲服だった。鱗がハート柄で可愛らしい。
「ほぉ、軽い。これなら縫い付ける鱗の量で重さも調節できるな」
「悪くねぇんじゃないか? 難しくなさそうだしよ」
スケイルメイルを眺めて、シュマも好感触を示している。
それにこの方式なら、一枚削り出しの鎧と違ってある程度力場を連続発動できる。同じ場所にピンポイントで攻撃を貰わなければだが。
服に縫い付ければいいだけだから、エンジュにボディサイズを聞かなくても、探索用の上衣を借りればいい。
「是非とも指導を願いたい! これはかなり理想に近い防具になる」
「喜んで貰えたようだね。こいつはねアタシが見つけた記録媒体に入ってた、まだ人間が星に住んでた頃の鎧なんだ。アタシが色々アレンジ加えて可愛くしてるけどね」
昔の人間は面白いことを考えるもんだ。
「では早速相棒から服を借りてくる」
俺が踵を返そうとするのをウルカが手を上げて静止する。
「まぁ、そう急ぐでないよ。使う素材をどうするか決めないといけないだろう?」
「うん? 素材ならこの角を使うつもりだが」
先ほど説明したはずだが、他の素材の方がいいという提案なのだろうか。
「鱗部分はそれでいい、というか最良だろうさ。問題は縫い付ける糸だよ。長く使いたいならより良質な糸を用意するのを勧めるがね」
糸か。確かに縫い付ける角の欠片がいかに丈夫だろうと、縫い留めてる糸が脆かったら意味がないな。
「むぅ、出来るだけ良質な素材で作ってやりたいが値段が高いのだろう?」
「そりゃ高いよ。アタシが見つけた素材でね、糸が切れるより先に装甲部分が壊れるくらい頑丈な糸なのさ」
装甲部より頑丈とはすごい糸だな。使ってやりたいが、値段を聞くととてもじゃないが払えない。
「⋯⋯ものは相談なんだけど、そのナイフを譲ってくれたらタダで糸を譲ってあげてもいいよ? アンタが使いたい時は好きに使っていい。元の持ち主だからね。悪い話じゃないと思うんだけど、どう?」
姉御のような雰囲気から少し砕けた感じで聞いてくる。
黒のナイフか。何だかんだお世話になった謎のナイフ。唯一と言っていい俺の装備。
「それで構わない。その代わり糸は最上のものをきちんと用意してくれ」
俺の過去に繋がる可能性のある装備だが、エンジュの安全にはかえられない。
「⋯⋯おい、イオド。流石にそれは価値と見合ってなくねぇか? よく知らねぇ俺でも分かるくらいには相当な業物だろ。よく考えた方がいいんじゃねぇのかよ」
シュマは俺の肩を引いてそう諌めてくれるが、二度と使えなくなるわけではないし必要な時は借りればいい。そんなことより良質な糸だ。
ウルカに改めて向き直ると、驚いた顔で俺を凝視していた。
「——即答とは驚いたね。そっちの兄ちゃんが言うようにそのナイフは全く糸とは価値が見合わないよ。何でそこまでするんだい? アンタほどの男がさ。聞いたよ。エラー個体を一人で討伐した化物ってアンタだろ?」
此方を図るような鋭い目で問うてくるウルカ。
「何故と問われてもな。俺にとってこのナイフの価値などどうでもいい。それでエンジュの安全が高まるなら安いものだ。⋯⋯強いて言うなら命を救われた恩がある」
いつ覚めるか分からない眠りから引き上げてもらったのだ。偶然だろうと恩くらいは感じてるさ。
「⋯⋯イオド」
何だか複雑そうな表情のシュマ。どういう感情の表れかわからないが、そんな悩むほどの価値を俺はこの黒のナイフには認めていない。精々よく切れるナイフだくらいのものだ。
「感動したよ⋯⋯! アンタにそこまでの漢気を見せられたら、応えなかったら女が廃るってものよ!! 試すような真似して悪いね。ナイフはたまに貸してくれればいいからさ。お詫びに糸はとっておきの物を提供するよ!」
「おぉ、ありがたい。遠慮せず借りに来ていいからな」
知らないうちに試されていたようだが、まぁいいか。無事素材が揃うなら些細なことだ。
「それで糸なんだけどね、今在庫がなくてさ。近いうちに採りに行こうかと思ってたんだけど一緒に行くかい? アタシ以外知らない秘密の場所なんだけど、アンタなら教えても構わないよ! まとまった量が欲しかったしね」
「ウルカが良いと言うなら俺も同行しよう。護衛兼荷物持ちくらいには役に立つはずだ」




