模擬戦
角の欠片を持ってテミス様の館に辿り着いた。
アームデバイスで到着した旨をシュマに伝える。
「着いたか。門を開けるから、館の裏まで来てくれ。隊長が会いたいらしい」
隊長、ミゼーアか。何故俺に会いたいのか見当もつかないが断る理由もない。
門をくぐり裏に回る。温室やら実験棟が並ぶ道を抜けていくと、大人数で行動できそうな運動場が広がっていた。
何人かが走ったり模擬戦をしたり自由に鍛えているのが窺える。
「イオド、こっちだ」
俺がキョロキョロしていると、横から聞きなれた声が。
シュマがミゼーアを伴って俺の元に歩いてくる。
「やぁ、イオド君。呼び出した形になって悪いね。あまりここから離れるわけにもいかなくてね」
申し訳なさそうにミゼーアが謝ってくる。
「俺は別に構わない。シュマに会う用もあったしな」
「エラー個体の角だね。君が取っておいてくれて助かるよ」
俺はポーチから角の欠片を取り出すと、シュマに渡す。
「ありがとな。これで研究が進む筈だ」
安心したような表情のシュマ。テミス様への忠誠心が高そうだし、分析が思うように進んでいないのが心配だったのだろう。
「それで、隊長殿は俺に何の用なんだ?」
ミゼーアの用が終わったらシュマに防具について詳しい人は見つかったか聞きたいのだ。
「ミゼーアでいいよ。君は隊員な訳ではないしね。⋯⋯君はエンジュと探索に行くつもりなのだろう? それを否定はしないが確かめたいのだよ」
優しげな雰囲気が、冷たく引き締まるのを感じる。
「何を確かめるんだ?」
そう問うたが、実際ほぼ何を確かめたいのかミゼーアの冷たい眼差しから答えは見えていた。
「君の実力さ。何があってもエンジュを守り切る。それだけの実力があるか私に見せて欲しい」
「エラー個体の討伐では足りないか?」
こんな事を言ってるが、少しワクワクしている己を自覚する。ミゼーアには悪いがうさを晴らしたい。辛酸を舐めることになった謎の女。幻覚体の動きを少しでも模倣出来るだろうか確かめたい。
「私のこの眼で確かめたい。構わないね」
「構わない。⋯⋯ここでやるのか?」
「あぁ。ここでいいだろう。そう気負わなくていいよ。そもそも君が強いのはわかってる。⋯⋯みっともないがね、少し嫉妬してるというのもあるんだ」
嫉妬だと? 何故だ。何の関係がある?
「ふふっ、わからないって顔だね。羨ましいのさエンジュに頼られてる君が」
「エンジュはミゼーアに心配掛けたくないようだったぞ。迷惑をかけたくないとも」
俺がそう言うと、ミゼーアは少し寂しげな笑みで返す。
「妹から掛けられる迷惑なんて迷惑のうちに入らないさ。何度もそう言ってるんだがね。あの子は気を遣いすぎるんだ。⋯⋯少し話しすぎたかな。ほらっ」
ミゼーアは運動場の端に並べてあった剣を放ってくる。
刃は潰されていて、訓練用だな。
「君の普段の得物は獣挽きだろう。訓練用とはいえ獣狩りの振るう剣、見せてくれ」
運動場の真ん中に二人して移動する。
ミゼーアの模擬戦が始まると分かると、それまで訓練していた者達がソワソワと此方を伺い出した。
館の方からも何人か急いで見に来ている。
「⋯⋯騒がしくなってきたな。さっさと終わらせるか」
流石にここまで大勢に見られながらは少し萎えてくる。剣も別に得意というわけではないし、あの女の技を使いたくても使えなさそうだ。油断は模擬戦とはいえミゼーアが相手だ。するわけないが、早くも気持ちが離れているのを自覚する。
「それじゃあ、行くよ!」
時間が跳んだような爆発的な踏み込み、ミゼーアが胴を薙ぐように剣を振るう。
凄まじい速度の剣撃だが、動きの起こりは見えた。
後はその剣の終点に俺の剣を置けばいい。
重い衝突の金属音。軋む剣同士が火花を飛ばしながら交差している。
「———まさかこうまで軽々と止められるとは。これは期待できるね」
瞠目したミゼーアだが、不敵に笑うと距離を離した。
ミゼーアの雰囲気が変わる。
「⋯⋯お楽しみはこれからというわけか」
思わず俺も笑みを作ってしまう。想像以上の剣の重さに、萎えかけていた気持ちが蘇る。




