シュマの義手
転移装置で村まで跳んだ。
時間的に皆寝静まってる。足音を立てないよう、だが急いで移動する。
「俺はこの村の医者を知らないんだが、薬師にでも診せに行くか?」
「そうだね⋯⋯、こういう場合はテミス様に診て貰うんだけど時間が微妙だね。傷も塞がってるし薬師さんのところに一旦行こうか」
前にエンジュもテミス様に診てもらっていたようだが、まさか村の住人全員をテミス様が診てるのか?
「⋯⋯テミス様が村人全員を診てるのか? 手が足りないように思うが」
「そうだよ。あ、どうやってるのか疑問に思ってるのね。最初にテミス様に会ったじゃない? 本体じゃないってのは聞いたでしょ」
確かに俺みたいな余所者に気軽に会っていいのかと聞いたら、本体じゃないと言っていたな。
「そう言ってたな」
「テミス様は村の中なら何体か並列して顕現できるのよ。昼間は色んなところにテミス様がいるわよ」
あの女が何体も村に⋯⋯。あまり考えたくないな。
「夜は診てくれないのか?」
「緊急時は診てくれるよ。あんまりないけどね、治癒促進剤が普及してるし」
治癒促進剤か。使ったことはなかったが、シュマの傷があっという間に塞がった効能には目を見張った。あれが普及してるならそうそうテミス様に診てもらう必要はないか。
「顔色も戻ってる。容体も安定してるが、万が一がある。薬師のもとに急ごう」
「そうだね。義手のことについても聞いておきたいし」
義手⋯⋯。フォトンブレードを使えるようになるという圧倒的なメリットはあるが、あれは極めて扱いが難しいと聞く。
ジャスペロダスに貰った記録媒体をコピーして渡すか。助けにはなるだろう。
◇
「店主どの、すまん開けてくれないか」
当然のように閉まっていた薬師の店のドアをそっと、だが聞こえるように叩く。
しばらく待ってると、中でゴソゴソと歩いてくる音が聞こえてくる。
「⋯⋯君たちか。こんな時間にどうしたんだい?」
夜中というのに普段と格好の変わらない、白衣の店主どのが顔を出した。若干声が低い。寝ていたんだな。ずっと起きているイメージだったがそんな筈はないよな。
「夜中にすまない。シュマの容体を診てやってほしいんだ。右腕を斬り飛ばされていて治癒促進剤を投与済み。本人の確認は取れていないが、望むならコレを義手にしてやってほしい」
「あぁ⋯⋯なるほどね。取り敢えず入りな。シュマはそこの机に。命に別状はなさそうだけど⋯⋯そうか腕を接合する前に治癒促進剤を使ってるのか。本人の腕は?」
店主どのに指示された、商品の陳列されていない作業台にシュマを下す。
「階層の崩落に巻き込まれて見つけられなかった。出血が酷くてな、使わざるを得なかった」
「落ちた時に腕が千切れた訳じゃなさそうだ。⋯⋯ふぅん? 珍しいな、この極めて高温で溶断された跡はまさかフォトンブレードか! 稼働する品が現存してるとはね。と言うことはその腕の元の持ち主が所有者か」
店主どのは渡した機械腕を持ち上げて繁々と眺める。
「フォトンブレードをじっくり見分したいところだが、まずはシュマを診ないとね」
チラッと獣挽きが抱えるフォトンブレードに目を遣る店主。サッと隠す獣挽き。
「そうして貰えると助かる。俺はシュマが本当に無事かどうか判断できない。緊急性はなさそうだが一応な」
「私は医者って訳じゃないけど、素人判断よりはマシだよ。⋯⋯さてどんな感じかな」
店主どのは小さな丸い装置を取り出すと、シュマの身体にかざした。細い光が何本も流れて走査して行く。
「⋯⋯内臓に損傷はなし。腕の傷も完全に塞がってるね。まぁ、そもそも腕が紛失してるみたいだし、再接合のことは考えなくていいんだけど。それで義手の話さ。シュマは衛兵だし本来なら朝になったらテミス様のとこで接いで貰えばいいんだけど、まず間違いなくその義手はすり替えられると思うよ」
「⋯⋯それは困る。シュマが命懸けで勝ち取った戦利品だぞ。テミス様はそんなセコい真似をするのか?」
いくらなんでもそれは引いてしまうな。
「正確に言うなら、研究所の連中かな。言葉巧みに騙くらかしてシュマが自ら所有権を放棄させる方向に話を持って行くと思うね。それぐらいフォトンブレードを扱える機械腕は希少だからね」
あれか、メギスがウンザリすると言ってた連中か。⋯⋯碌でもないな。そんな輩にシュマの戦利品を奪われるのは癪に触る。
「どうすればいい?」
「うちには流石に義手をつける設備はないけど、あの長命種のお嬢ちゃんならどうにかできるんじゃないかな。腕がない以外健康だから今すぐにでも持っていったらどうかな」
善は急げだ。夜遅くに対応してくれた薬師に礼を言い、俺とエンジュはシュマを担いでメギスの家に向かった。




