成長
「獣挽きか! どうやってここに? カラマの電脳空間の筈だが」
「忘れましたか? 私は今マスターと合一しているので、この空間にマスターが招かれた時について来たんです」
そういえばアーマーモードの時は触手で俺と接続していたな。ずっと黙っていたから俺だけこの空間に来たのかと思っていた。
「なるほどな。で、だ。急で悪いが、俺はカラマを助けてやりたいと思ってる。だがあの統治AIに空間の主導権を握られてるようだ。どうにかできないか?」
幾度となく、俺のピンチを救ってくれた獣挽きだ。もはや全幅の信頼をおいている。まぁ、ピンチになるなと言われるとそれまでなんだが。
「ふふ、マスターが私に気付かなかったように、あのマザーも私の存在を把握してないようです。⋯⋯セキュリティも正直穴だらけで、相当な年月アップデートされてなかったのでしょう。仕込みは万全です。この空間ではマスターの現実の身体に影響が出ないので、戦闘モードもフルに使い放題です! 派手に行きましょう!!」
ほう、いい事を聞いた。
ジャスペロダスとの戦いで少しフラストレーションが溜まっていたんだ。⋯⋯己の戦闘に関する技量の足りなさを実感した。
力に頼り切り、技術を疎かにしたツケが今回浮き彫りになり、獣挽きの成長がなければ叩っ斬られていただろう。
⋯⋯村に帰ったら、エンジュに戦術訓練プログラムがないか聞いてみるか。
「——カラマ! 助けがいるか?」
問い掛けに、一瞬カラマの目がコイツ何を言ってるんだと訝しんだ。マザーに主導権を握られ、動けない俺に言われて困惑したんだろう。
カラマを空中に磔にしているマザーも、最早俺の方を見もしない。
だが、カラマは俺の目を見て世迷言を言い出した訳ではないと理解してくれた。
「——助けて!!」
あの謎の幻覚体に酷似していて、最初は反発も覚えたカラマの救援要請は、今回は不思議とすんなり受け入れられた。
「戦闘モード全力起動。異星侵蝕・煌燬赫熔!!」
戦闘モード移行により変化するスキンスーツ。何度か手を動かし、具合を確かめる。電脳空間でも問題なく移行できたな。
今回は獣挽きのアーマーモードも加わり、まるで重装鎧を纏っているみたいだ。
「⋯⋯何故動けるのです? 貴方のこの空間で行動する権限は剥奪している筈ですが。それにその姿⋯⋯まさか暗月?」
確かテミス様も俺をそう呼んでいたな。暗月と。テミス様は素の俺を暗月と呼んだが、マザーは今まで気づいてなかったようだ。
暗月とは何なのか聞いてみたいが、教えられた情報で満足していい類のものではないと思ってしまっている。
「俺が暗月かどうかはどうでもいい。お前には聞かない。自分で探すとするさ。とりあえず、消されたくなければカラマの拘束を解け。統治AIだろうと俺が手心を加えるとは考えない事だ」
「⋯⋯⋯⋯」
統治AIの演算能力でも悩むものなんだな。
悩まなくとも答えなどでてるだろうに。幾ら優れた統治AIだろうと、マザーは実体を持たない下級存在。空間の支配権を無効化されては俺に勝てる見込みはない。
「——ウィルス除去プログラムを強制起動。私の存在維持のリソースを残し全てを暗月の排除のために投入」
ワラワラと、眼紐を模したであろうワクチンプログラムがマザーの後ろに多数顕現していく。
「⋯⋯最早まともな判断能力も残っていないか」
アップデートもされていないならそれもしょうがない。
能力の足りなくなったカラマを強引に改造しようと現状の何の解決にもならないというのが理解できないのが致命的だし、俺に対して数で押せばどうにかなると判断したのもいただけない。
目の前を埋め尽くす数の、触手を蠢かすワクチンプログラム。勝利を確信したのか、俺から視線を外し上へと上昇するマザー。乱戦に巻き込まれないようにか。
「カラマを巻き込みたくなかったから、俺としては好都合だな」
カラマに何かされないうちに、とっとと終わらせるか。
迫る眼紐を模した大群。
「——出力最大、『赫穿』!!!」
現実で抑えて撃っていた赫穿と違う、極太の極光が横薙ぎにワクチンプログラム共を焼き払っていく。
大量のデータの欠片がキラキラと光となって散る。不覚にも少し美しいと思ってしまった。
「——な」
「獣挽き」
マザーが行動を起こす前に腕を伸ばし、触手で拘束する。
「こんな拘束など無意味です! すぐに書き換えて⋯⋯弾かれる!?」
俺がこの空間で動けるようになった時点で気づくべきだったんだ。己より上位の存在がいることに。
「書き換えられるのはお前だ、マザー」
獣挽きの触手がマザーの額に侵入する。
僅かな痙攣と像のブレ。マザーだった存在はあっさりと消滅した。




