表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/122

マザー

「⋯⋯」

 目を開けると、床も壁も何もないただの空間に浮いていた。

 浮かんでる感覚もない。単純に俺の意識のみが電脳空間に送られたんだろう。


『こっちを向いてください』

 脳に直接響く女の声に振り向く。

「——な」

 見上げるほど巨大なカラマがいた。


「⋯⋯自分の領域だからといって、そこまで見栄を張りたいのか?」

「⋯⋯私はこっちです。その方は、この階層の進化促進プログラムの判断を担ってる『マザー』」


 いつの間にか、俺の横に現実とサイズの変わらないカラマが呆れた表情で浮いていた。

「何故お前たちAIは、皆んな似たような顔なんだ?」


 テミス様や謎の幻覚体然り、カラマも目の前の巨大なマザーとやらも。同じ型からデザインされたかの様だ。

「? 似てるのは当然です。⋯⋯あぁ、記憶に欠損があるんでしたね。単純に滅亡した王国の姫の顔を模して造られているんですよ我々統治AIは」


 彼女たち統治AIを開発した国の姫。まさかその姫と俺が直接の知り合いという訳はないだろうから、あの幻覚体もいずれかの等級の統治AIだったんだろう。

「微妙に顔の造作が違うのは、完全に似せてしまうのは不敬だからか?」


「さぁ? そういう製造時の細かい話は特にデータにはありませんね。この辺りの何階層かが王国の跡地なんで、探せば記録媒体でも残ってるんじゃないですか?」

 それよりも、とカラマがマザーに視線を向ける。


 最初に俺の脳内に語りかけてきてから、ニコニコと微笑んでこちらが落ち着くのを待っていてくれた。ちょっと失礼な事を言ってしまって、少し反省。


「マザーに申請。私の型はもう古く、スキュラの進化を管理するに不適格と判断します。つきましては管理権限の移行をこのイオドに願いたく」

『次世代人類種育成計画管理AI、個体名「カラマ」貴女の申請は許可できません」


 あまり考えた様子もなく極々機械的に却下された。

 まぁ、マザーと言われる統治AIともなると別格の演算能力だろうから、あの刹那に俺には計り知れない思考の積み重ねがあったんだろう。


「個体名イオドは統治AIではありません。不適格以前に資格を論ずる必要性も皆無です。申請は以上ですか?」

 単純に俺が統治AIじゃないからだった。

 深い考えとかではなかった。


「ま、マザー? 彼は確かに統治AIではありませんが、それに近いもしくは今の私を能力的に凌駕してる部分すらあるでしょう。スキュラをより良い種へと必ずや導いてくれる筈です!」

 食材としてしか扱わんがな。


「——能力の有る無しではありません。この計画は王国に任命された統治AIにのみ任されています。⋯⋯個体名カラマとの同期を開始⋯⋯終了。この数百年で貴女は何の成果もあげれていませんね」

「マザー⋯⋯?」


 今までのニコニコとしたマザーの笑顔が、急に張り付けたテクスチャにしか見えなくなった。

 薄らと開いた目には、生きた人格を感じさせる光がない。


 というかカラマは普通なら自動で更新される同期を意図的に切っていたんだな。

 それも数百年単位で。

 マザーが怒るのも当然と思えるが、あれは怒っていると言えるんだろうか?


「計画の長期停滞を確認。原因を個体名カラマのスキュラ種への介入の少なさにあると断定。交代要員の派遣を要請。⋯⋯エラー。再度申請⋯⋯エラー」


 エラー、エラーなどと何処か⋯⋯というか滅亡した王国なんだろうが申請し続けるマザー。

 何度も何度も表情を変えずに申請し続ける姿は、狂気すら感じる。

 マザーほどのAIを積んでいても、長い時の流れの中で狂ってしまうものなのかもしれない。


「⋯⋯マザー、王国はもう⋯⋯」

 痛みを堪える様な表情のカラマにこそ、人間と変わらない人格を感じる。

 気遣うカラマを、マザーは一顧だにしない。


「致し方ありません。応急的な手段にはなりますが⋯⋯」

 そう呟くと、マザーはカラマに掌を向けた。

 浮かび上がるカラマの身体。その顔は苦悶に歪んでいる。


「——マザー待ってください⋯⋯! 一体何を⋯⋯」

「能力が足りなくなったのなら、足せばいいのです。貴女には私のリソースを流し込みます。次が来るまでの繋ぎには充分でしょう」

「そんな事をすればマザー、貴女の存在強度が破綻してしまいます! 貴女も私も共倒れになる可能性の方が大きい⋯⋯! どうか考え直してください!」


 カラマの懇願も全く聞き入れてもらえる雰囲気ではない。介入しようにも、俺も身体が動かせなくなっている。

 思えば電子戦の経験などない。カラマに連れてこられている俺だが、恐らく彼女がこのまま消えたとしても俺が消えることはないだろう。


 ただこのままカラマが消えて、眼紐の管理権限の話も経ち消えてしまうのももったいない。

 さぁ、どうするかと悩んでいると俺の脳に外部からではない通信が入った。


「——マスター、何かお困りですか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ