説明不足
「お、おいカラマ! 流石に説明が足らなすぎるぞ!? 俺は戦わないからな! これじゃ騙し討ちじゃないか!」
ジャスペロダスが憤りも露わに女に意見する。というかコイツはカラマというのか。ジャスペロダスの言う通り説明の足らない女だ。
「貴方は見ててくれて構いませんよ。契約にあった大型電源も自由に使って構いません。私の邪魔さえしなけれ、ばっ!」
純白の軌跡が俺目掛けて奔る。しゃがんで避ける。音速を超えた音がし、後ろにいた作業ドロイドが両断された。
「——管理権限の簒奪なぞ俺はしないぞ!? 役目が嫌ならジャスペロダスにでも譲れば良かったじゃないか!」
「おい! 俺を変に巻き込むな!!」
知ったことか。お前らこそ俺を巻き込むんじゃない! 眼紐の管理なぞしてる暇など俺にはない!
「彼もイレギュラーな存在ではありますが、所詮は下級ドロイド。権限移行には不適格です。言ったでしょう、貴方が来るのを待っていたと。他に生き残った統治AIは移動しません。もう貴方しかいないんですよ。天文学的な数字でしたが、不滅の貴方ならいつかここに訪れる日が来る。⋯⋯チャンスは逃しません」
簒奪して欲しいと言う割に、なかなか殺意のこもった鞭の連撃だ。
だがジャスペロダスの剣技の後では数段目劣りする。避けるのに獣挽きのサポートも必要はない。
「貴方が訝しがるのも理解できます。簒奪というなら攻撃などせず、システムが私は管理者として不適格だと認識させるまで貴方に攻撃させればいい」
しないがな。
俺はもう話に付き合うのも馬鹿馬鹿しく感じてきた。無理矢理にでも上の階層への扉を探すか?
「言っておきますが上の階層への扉は管理権限がないと開きませんし、壊せませんよ。超硬質体でできてますから。遠回りして帰る道もありますが、スキュラをけしかけます。怪我人を背負いながら戦えるならどうぞ。貴方にできるのは私といい感じに戦って管理者になることだけです」
管理者にならなければ扉は開かず、遠回りをすれば眼紐をけしかけられると。
シュマが万全なら迷いなく遠回りを選んだが、右腕を欠損し他にどんな損傷をしてるか定かでない意識の無い状態。
眼紐を掻い潜りながらはかなり厳しいと言わざるを得ないな。
カラマの鞭を避けながら思考する。
「⋯⋯戦闘に特化したタイプでは無いですが、こうもあっさり避けられるとムカつきますね」
考えてるんだから静かにして欲しい。
俺は敵だと思ったカラマの言うことを素直に受け入れるのが、何故か本能的に嫌だった。だが冷静に考えれば、彼女はプログラムがあるからここから動けないが、俺にはない。管理権限を移行された後でも自由に動ける可能性は高い。
仮に何か制限が発生したとしても、進化した獣挽きとメギスに解析して貰えばどうにかなる気がする。
「⋯⋯一つ聞きたい。具体的に眼紐の管理とは何をするんだ?」
「ふふ、ようやく諦めてくれましたか」
「違う。管理の具体例を聞かずに拒絶するのは俺にしてはおかしい気がしてな」
そんな暇はないというのは事実だが、何も聞かずに拒絶など俺らしくない。
「まぁ、いいでしょう。ただ正直言いまして、貴方が何かする必要はないです。こちらからスキュラに干渉するフェーズはもう過ぎたので、何かしらの外的要因で不意に全滅したりしないよう見張るくらいです」
「は? それだけか?」
「そうです」
そんな、ほぼすることがない役目とも言えないような役目なら、
「⋯⋯はじめから大してやる事はないと説明しろ。とんでも無い事に巻き込まれるんじゃないかと邪推してしまったじゃないか」
カラマは俺の言にあ、といった顔をした。
「弱みを握って無理矢理権限を移行させることしか頭にありませんでした」
「お前に足りないのは説明だけじゃないな。頭も足りてないし、人としての常識も足りない」
まぁ、お互い人ではないが。
それほどカラマは必死だったのだろう。終わりの見えない何の意味も見出せなくなった役目。
眼紐が進化を止めてからどれ程の月日が経ったのかは、この廃階層を見ても正確な年月はわからない。超硬質体は劣化しないからだ。大部分がありし日の状態を残している。
崩れているのは創造者が無理矢理造った箇所だ。
「貴方に人としての常識を説かれるとは想像もしてませんでした」
「⋯⋯取り敢えず、簒奪なぞではない真っ当な管理権限移行を試してみないか」
俺は眼紐の管理を受け入れる気になっていた。




