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スキュラ

「⋯⋯お、お前は」

「取り敢えず、その兜を取ってもらえますか? 顔を見たいので」

 絶句する俺に構いなく顔を見たがる、いつかの幻覚体と瓜二つな女。


「お前は一体誰なんだ? 幻覚じゃなかったのか?」

「幻覚⋯⋯? 何のことかわかりませんが、まぁ、言いたいことはわかります。私は貴方の知る女性と酷似してるでしょうが別人ですよ。兜、取ってくれますか?」


「あ、あぁ。獣挽き、頼む」

 別人だと? なら何故俺のことを知っている? それにコイツは俺の知るあの女のことも知っている。

 幻覚として現れ、俺にわざと己を消させた謎の女。

 兜を取るようしつこいから獣挽きに格納してもらう。


「記録通りの人相。ビルに入った時点で貴方のことはほぼ分かってましたが、確かめたかったんですよ。ちゃんと本人なのか」

「以前、俺はお前とよく似た女の幻覚と戦った。俺を知ってる風だったが俺は知らない相手だった。俺とどう関係があるんだ。知っているなら教えてくれ」

 何故こんな場所にいるこの女が俺を知ってるかも気になるが、それよりもあの幻覚体の女の事を教えて欲しい。


「知らない⋯⋯? ん? 貴方は⋯⋯」

 目の前の女の両目が紅く光る。攻撃の予兆ではない。どうやら俺をスキャンしてるようだ。


「なるほど、記憶領域に軽微な損傷から治癒した跡が窺えますね。正規の手順を踏まない緊急起動でもしたのでしょう。記憶の欠損が生じてしまっている。⋯⋯困りましたね」

 困ってるのはこっちだ。

 全然こちらの疑問に答えてくれない。


「質問に答えて欲しいんだが⋯⋯」

「貴方が記憶を無くしているなら、私が貴方の質問に答える意味はないと判断します。それよりも頼み事があります」

 ジャスペロダスと違い、見た目は完全に人間なのに中身は機械のように合理性の塊だな。口調も硬いし。


「頼みと言われても、質問にも答えないお前の頼みなど俺に聞く義理はないぞ?」

 本当に調子の狂う女だ。見た目があの幻覚体を彷彿とさせるから余計に雰囲気に呑まれてしまう。


「貴方に拒否する選択はないと思いますよ? 後ろの二人はこの付近の階層に住まわれているのでしょう?」

「⋯⋯そうなら何だというんだ」


「貴方が偶然とはいえここに落ちてきてくれて助かりました。あのドロイドに探してもらっていたのですよ、役目を継いでくれる存在を」

 とことんこちらの質問には答えないな! コイツにとってもう俺が頼みを聞くのは当然の帰結なのだろう。


「ビルの中を進んでいく中で貴方は見たでしょう? 壁や天井に張り付いた金属の球体を」

 あれだけの数だ、見てないとは言えないな。嫌な予感がするから答えたくないが。


「⋯⋯⋯⋯」

「——あれは貴方たちが眼紐と呼ぶ機獣の卵です」

 答えようと答えまいとこの女は言いたい事を言う。もう諦めて話を聞くか。


「⋯⋯眼紐は卵で増えるのか? 機械の獣だろう。生産プラントがあるものと考えていたが」

「初期の個体は生産プラントできちんと造られていましたよ。だけどあのシリーズは知能が想定より高過ぎました。我々の隙を突いて過去の情報にアクセスし、己をより高度な生命体に進化させる道を選び出したのです」


 他の機獣とは何か違う気もしていたがそこまでか。思えば獣挽きの触手など眼紐の流用だろうし、高い知性も眼紐由来の素材を使ってる可能性がある。

「機獣が独自の進化を遂げて我々の管理を離れるとは想定していませんでした。金属のボディパーツをプラントなしで作れるとは思いませんからね。⋯⋯甘い想定でした。彼らは金属を生成する細菌に目を付けました。気づいた時には大量に自己増殖していたのです」


「それで、お願いとは何だ? 管理してるようだし殲滅して欲しいわけではないんだろ? 興味深い話だったが、長くなるならもう帰らせてくれ。仲間が負傷してるんだ」

 もう少し聞いてみたいと好奇心が疼いているが、シュマが心配だ。


「そう、管理です。殲滅なんてとんでもない。第二の人類種に進化する可能性を大いに持った『自律起動生体兵器・スキュラ』⋯⋯あなた方の言う眼紐を適切に管理、そして見届けていただきたいのです!」


 あぁ、面倒な話になってきた⋯⋯。

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