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対面

「⋯⋯先に言っておくが、中でこれから目に入るものは何であれ壊すんじゃないぞ」

 入り口を過ぎてすぐ、ジャスペロダスが振り返って言う。

 見えてる範囲では、まだ石材か金属かも判断つかない材質の廃墟でしかない。壁を少し生物味のある配管が這い回ってるのが気になるくらいか。


「注意すると言う事は、何か見たら壊したくなる何かがあるという事か? 普通は自身のテリトリーでない建物にある物を勝手に壊さないが」

「少なくとも言わなければ、お前さんは壊すかもな」


 このドロイドにとって俺はそんな認識か。

『⋯⋯マスター。ビルの外からは分かりませんでしたけど、中に入ったら複数の熱源の存在が感知できました。今さら襲いかかっては来ないでしょうけどお気をつけて』

「了解した」


「ん? イオド誰と話してたの?」

 俺がアーマーモードで合一した獣挽きの忠告に、リアル音声でした返事を訝しがったエンジュが反応した。


「あぁ、まだエンジュには言ってなかったか。つい先日獣挽きが自身をホログラムで出力出来るようになってな。会話も交わせるんだ。今は俺の装甲に変形してるがちょっと通信していたんだ」

「え! 凄いね! え〜私もお話ししたい! 男の子? 女の子?」


 えらい勢いで喰いついてきた。

「今はホログラムが出せないから見せられないが、見た目は女の子だったぞ」

「へぇ〜、獣挽きちゃんは女の子だったんだ! 帰ったらちゃんと紹介してね!」

「⋯⋯何だか気恥ずかしいですね」

 獣挽きも照れるんだな。


 エンジュに会話できるようになった獣挽きを、帰ったら紹介する約束などしながらジャスペロダスの後ろをついていくと、通路の突き当たりに廃墟に似つかわしくない厳重な金属扉があるのが見えてきた。


 ジャスペロダスが扉の横のセキュリティ装置に顔を晒すと、認証のためのレーザーが顔を走査する。すぐに開錠の金属音が通路に響いた。


「⋯⋯頼むから変な気は起こさんでくれよ。一応お前さんを信用はしてるが、ここから先は本来なら来客を想定してる場所じゃないんだ。⋯⋯本当なんだってこんな面倒な⋯⋯」

 ぶちぶち文句を垂れながら再度注意を促す。余程俺が壊しそうなものがあるのだろうな。


 重厚な金属扉を開けた先は人が一人歩けるスペース以外は、びっしり金属の光沢を放つ何か丸い人間の頭ほどの大きさのものに埋め尽くされていた。

 壁にも天井にも張り付いている。


「うわぁ⋯⋯。凄い数、っていうか卵みたいに見えるけど⋯⋯?」

 見た目はエンジュの言うように何かの卵に見えるが、殻が金属でできてる卵なんてあるのか?


「行くぞ。触るなよ」

 なかなかに異様な光景だが、面倒なのかジャスペロダスは説明せず歩みを通路の奥まで続ける。


「これは何かの卵なのか?」

「俺に聞くなよ。面倒な説明をさせるな」

 戦ってる時のほうがまだ愛嬌があったというか、戦闘以外の雑務は本当に面倒なのかもしくは、説明すると俺が壊しかねない何かなのか。


 ジャスペロダスに導かれるまま、通路の奥にあったエレベーターに乗る。

 このような過去の遺物にまだ電源が通ってるのが驚きだ。

 無言で、操作盤の増えていく数字を眺める時間が流れる事しばし、チンッという気の抜けるベルの音で目的階に着いたのを知らせてくれた。


 到着したのは、広いワンフロアの壁を無理矢理取っ払ったのか、建材が散乱する柱が等間隔で並ぶ部屋だった。

 忙しそうに戦闘用ではないドロイドが何体か、何かを大事そうに運んでいる。

 部屋の中央に場違いな程優美な装飾の、白い天蓋付きの寝台が一つ置かれていて、夥しい数の管がそこから伸びていた。


「もうわかってると思うが、その寝台に寝ているのが俺の雇い主みたいなものだ。⋯⋯何か契約を交わしたわけじゃないがね。彼女が用があるのはイオド、お前さんだけだ。そいつは俺が預かるからお前さんだけで話せ」


 シュマにはジャスペロダスも敬意を持っていたようだし、素直に預ける。担ぎながら話すのも何だか間が抜けるしな。

 寝台に向けて歩き出そうとすると、

「おい、流石に鎧になってても武器は置いてけよ。今さらお前さんたちをどうこうする気はねぇよ」


 あぁ、もはや獣挽きを武器と認識してなかったから忘れてた。

「だそうだ、獣挽き。アーマーモードを解除するんだ」

 俺も武器を持ったまま相手の重要人物に会うのは違うと思うから、特に忌避感なく獣挽きを置いて行こうとした。


『⋯⋯拒否します』

「なぜ脱がない? そいつ話せたよな、なんて言ってるんだ?」

「あー⋯⋯、拒否すると」

「はぁっ!? 今さら何言ってる! 脱がなきゃ流石に会わせねぇぞ!」

『⋯⋯この戦闘ドロイドの剣技は異常です。戦闘モードではないマスターには危険過ぎます。私を脱がなければ会わないと言うなら会う必要はないと判断します』


 いや、勝手に判断されてもな。

 今の獣挽きの言葉をそのまま伝えても面倒なことになる気がする。

 どうしたものかと悩んでいると、寝台の方からシーツの擦れる音が聞こえた。


「⋯⋯私はそのままで構いませんよ。話したいことがあります。きてください」

 凛とした鈴のような声で許可が出た。

 ジャスペロダスに目配せすると、全部諦めたような雰囲気。首で行くよう指示される。


寝台に近づき、天蓋から垂れるベールを捲った瞬間俺は思考がフリーズした。

「私の姿を見て、そのような反応をするということは貴方は本当にあのイオドなんですね」


 幻覚体のあの女が、寝台に上半身だけ起こしていた。

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