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シュマの奮闘

 ジャバウォックが消え、エンジュは後ろで真っ青な顔で壁を支えに辛うじて立っている。

 あの変な丸薬は身体に相当負担がかかるんだろう。考えてみれば当然か。機械相手にダメージのフィードバックを起こすようなイかれた性能だ。


「⋯⋯待ってね、今もう一個飲むから⋯⋯それで勝てると思うよ」

 エンジュがポーチから再び丸薬を取り出そうとするのを止める。

「よせ! どう見たって連続で飲んでいい代物じゃないだろ! ——俺が仕留める。お前の変な幻覚が頑張ったからな、何とかなる。 弱点っぽいパーツが露出してるからな」

「⋯⋯でも」

「でもじゃねぇ、飲むんじゃねぇぞ。テメェに槍を教えたのは俺だぞ。——信じろ」


 今一度、エンジュの槍の重心、握りの太さ、間合いを確認する。

 ここからは俺一人だ。ほんの僅かでもミスをすれば二人とも死ぬ。相手は伝説に謳われるフォトンブレード持ちだ。


「⋯⋯律儀に待ってくれるたぁ、ドロイドにしちゃ騎士道精神に溢れてるじゃねぇか」

「⋯⋯⋯⋯」


 まぁ、単純に急に敵性存在が消えたから走査系でも走らせてるんだろうけどな。俺とエンジュに比べたら、脅威度はジャバウォックのが圧倒的に上だし。

「⋯⋯うぉっ!」


 ドロイドが構えたのが見えたと思ったら、凄い速度で踏み込み斬りを放ってきた。

 やっぱり図体の割に行動の起こりが速い! 古代の軍用モーターと人工筋肉の質と出力が、俺の知ってるソレとは段違いだ。


「随分贅沢なパーツが使われてるなぁ、おい!」

 フォトンブレードを持ってる時点で特別性なんだろう。

 油断したつもりはないが、速い。カウンターが間に合わなかった。少しずつでも削っていかないと、持久戦はこっちが圧倒的に不利だ。

「⋯⋯やってやるよ、こんな所で死ぬ気は毛頭無いんでなぁ!」


                   ◇

「——ふっ!」

「⋯⋯⋯⋯」

 戦闘が始まってからどれだけ経った? 何度も斬撃を避けて、何度か掠り、噛み合えば槍を叩き込みもした。一本、治癒促進剤も使っちまった。何ならもう一本使いたいが、連続使用の負荷は負いたくない。


 体感的には何時間も戦っている気がしてるが、俺がそんなに長時間戦えるわけもない。特にこんなヤバいドロイド相手にな。若干ゾーンに入ってる気がする。いつもより調子がいい。


 上からの叩きつけを引きつけて、ギリギリ避ける。装甲の隙間をチクチクと苛めてやった結果、避けるのも無理な攻撃速度は出せなくなったみたいだ。

 地味だがこのままチクチクと槍で突いていけば行けるんじゃないか?

 フォトンブレードの充電も終わらなそうだ。相手にとってこの状況はピンチだろうに、それでもチャージ攻撃を使わないのは使えないと判断していいと思えちまう。


 だが、何故か俺の頭の中で警鐘が鳴り止まない。違和感がある。

 俺が幼少の頃から憧れ続けた伝説の戦闘ドロイドが、経年劣化もあれば先の戦闘で負った外装のヒビ割れを突かれ、俺に仕留められそうになってる現実。


 勿論負けるために戦ってるわけじゃねぇ。そろそろ胸の亀裂、恐らくコアパーツを狙ってもいいんじゃないかと思ってるんだが、いいのか? ⋯⋯いや、悩むな。長期戦は不利だと判断しただろ! これでいい! このまま決める!


「——沈みやがれ!!」

 相手が上に剣を振り上げるタイミングに合わせて前進する。ヒットアンドアウェイじゃない、決めにいく一撃。


 タイミングは我ながらバッチリ。全力で槍を突き込む!

 

 違和感。


 ⋯⋯タイミングがバッチリだったとはいえ、剣を振り下ろすのが遅すぎないか? ゾーン状態の加速した思考。広がった視野。捉える上段のフォトンブレードの煌めき。


「——しまった!?」

 実際に声に出たかは定かじゃねぇ。とんでもねぇ大ポカ。

 光の粒子を剣に纏わせるのがフォトンブレード。遠距離攻撃はない。だが限定的とはいえ一時的に刃の射程を伸ばせる機構が存在する。


「——ぐぁっ!!!」

 チャージした光の粒子を一気に飛ばす『フォトンバースト』正式な機能ではなく裏技扱いだと、小さく記述があったのを右腕の肘から先を斬り飛ばされながら思い出す。


「シュマ——」

 あぁ、痛ぇ。それに熱い。ヤバい状況だ。だけどその割にやけにゆっくりだ。

 顔の角度的にエンジュの驚いた顔なんて見えてないはずが、この場が俯瞰で見えてる感覚がする。


 トドメと、光の消えたフォトンブレードだったもので俺を押し潰そうとしてるドロイド。

 血を撒き散らしながら回転して地面に落ちようとしてる、さっき迄肘から先にくっ付いていた腕。


 状況は最悪。残った左手に槍。

「⋯⋯ははっ」

 案外、その時なんて呆気なく訪れるもんだ。娯楽の少ない村に、何か未練があるかと思えばそんなに無いが、別に人生に悲観してた訳でもねぇ。


 こんな世界だ。まともに爺になって死ぬとは思ってなかったがよ。

 まぁ、一目憧れの武器を見れて満足か。

「⋯⋯ただよ、一人で行くのは寂しいからよぉ⋯⋯、テメェも一緒に行こうぜ!!!」


 左腕にありったけの力を込め、飛び上がるように突き込む。

 ⋯⋯どうあっても上から叩き潰される。せめてエンジュが逃げる時間くらいは稼げないかと窮鼠の一撃。


「————ッ!!!?」

 突然の下から床を突き破って、赫い奔流がドロイドを貫く。

 ⋯⋯この光は、あの野郎の⋯⋯。


「———うぉぉぉっっ!!!」

 満身創痍のドロイドの胸のコアに、エンジュの槍を叩き込む。

 型も何も無い、原始的で粗野な一撃。槍が熱い。何も無い、忘我の一刺し。

 

 目を焼かんばかりの白光がフロアに溢れた。

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