時間
「凄い! 見た? あんな大きなドロイドを吹っ飛ばしたよ!」
呼び出したジャバウォックの活躍に、エンジュがはしゃいでいる。
ただ、あのドロイドが吹っ飛んだのは言ってみれば電脳が攻撃されたと判断した結果、人工筋肉が誤作動を起こしてあたかも殴られて吹っ飛んだような感じなわけだろ?
「⋯⋯ダメージはあるのか?」
これが生身の生物なら、幻覚で受けた傷が身体にフィードバックするのは理解できる。
だが相手は生体パーツもないような時代のフルメタルだ。傷がフィードバックする余地なんか無くないか?
「あ、立ち上がった。流石に一発じゃ仕留め切れないか⋯⋯。でも見て! ジャバウォックが殴ったところ陥没してるよ!」
「———どう言うことだ?」
煩わしそうにフォトンブレードで埃を散らして立ち上がったドロイドの胴体は、確かに陥没していた。
いや、ありえないだろ!? 幻覚だって言ってたろ。エンジュは無邪気にジャバウォックの戦果を報告してくるが、それが異常だって気づかないのか?
電脳からのフィードバックで装甲は陥没しない。神経が通ってないんだからな。だが目の前の現実は違う。俺は一体何を見せられてる? 訳もわからず思考を回してる間も戦闘は続いている。
エネルギーが充分に回復していないのか、発光の鈍いフォトンブレードでの薙ぎ払いをジャバウォックが腕でガードする。
チャージしてないフォトンブレードは鈍器に毛が生えた程度の性能だが、それでも戦闘ドロイドの強靭な人工筋肉から繰り出される剣撃をあっさり受け止めるのは意味がわからない。
ガードからの拳での連打。一撃は首無しほどではないが、素手だからか回転数が半端ねぇ。
相手の電脳はジャバウォックが本当に幻覚だとしたら、どんな存在だと判断してるんだ? まるでとんでもなく格上の相手を想定して戦っているように見えちまう。
「⋯⋯ちっ! ごちゃごちゃ考えるのは後だ」
あれが幻覚だろうとそうじゃない何かだろうと、今があの首無し野郎を倒すチャンスには違ぇねぇ!
幻覚野郎の攻撃は効いてはいるみたいだが、決定打になってねぇ。
「エンジュ、この槍は前に凄いのが出たって言ってたろ? 特別な操作はいるのか?」
「えっとね、とにかく思いっきり突いたら機獣に大穴が空いてた感じかな?」
阿保面しやがって、わかんねぇってことだろうが。だが、まぁ特別な操作はいらねぇみたいだな。
俺の電気槍を使うよりはマシ。あまりエンジュの言う『凄いの』は当てにせず、堅実に行くか。イオドが作った槍だ、作った本人も知らないエンジュを特定するような機能でもあるのかも知れないしな。
奴は一定以上の振動を頼りに索敵してる筈。
ジャバウォックとバチバチに殴り合ってる横を、そっと通り抜け背後に回る。
経年劣化でヒビ割れてた装甲が、ジャバウォックの連続攻撃でさらにヒビが広がり内部機構が僅かに露出してる箇所が出始めてる。
一撃入れたら即離れる。コイツは人間がまともに相手していい相手じゃねぇ。
「——シッ!」
離脱を見据えた速度重視の突き。
背中の亀裂から内部機構に突き立ったエンジュの槍は、思ってるよりしっかり首無しの鉄の身体に沈み込んだ。
「危ねぇ⋯⋯!?」
そして想定より余程早く首無しのフォトンブレードが俺に迫る。
何とか沈み込むように避けて、槍を抜いて退く。頭上を通り過ぎた重い風切り音に粘ついた脂汗が出てくるのを感じる。
⋯⋯今のは危なかった。完全に死がすぐそこまで迫ってた。
「⋯⋯⋯⋯」
俺へと向いた注意を、ジャバウォックが拳の連打で再び引き戻す。脅威度の高さで優先順位が切り替わるんだな。
「⋯⋯行き止まりじゃなけりゃさっさと逃げるんだがな」
それにこのままちんたら時間をかけ過ぎるのも良くない気がする。
今はエネルギー若しくは俺たちの敵としての脅威度が足りないから、フォトンブレードのチャージ攻撃をしてこないが、時間をかければなりふり構わずまたしてくる可能性はある。
何処かで仕掛ける必要がある。エンジュは絶対に逃す。出来れば俺も生きて逃げてぇ。
ただ五体満足で勝てる相手かは疑問が残る。
何度か隙を見て槍を突き込んでいるが、動きが鈍る様子が無ぇ。
首無しもちょろちょろ動く俺が煩わしいのか、注意を向けてくる頻度が増し始めてる。
「———ッ!」
ジャバウォックが俺への援護ではなく、首無しの注意が俺に向いた瞬間渾身の拳を胸部装甲に打ち込んだ。
ヒビが広がりコアらしき明滅する部品が僅かに覗く。
⋯⋯つーかコイツ、俺を囮に使ったよな。
幻覚に囮にされるのか⋯⋯。ま、まぁいい。これで光明が見えた。
囮にされた甲斐はあった。
あとはどのタイミングで狙うかだ。
「⋯⋯痛ッ」
後ろで何故かエンジュの苦悶の声。
「——どうした!?」
「⋯⋯ごめん、時間切れかも」
「はぁ? 一体何の⋯⋯」
時間切れだと疑問しようとした俺の目の前で、ジャバウォックが光の粒子になって消えていった。
「⋯⋯マジかよ」
「⋯⋯⋯」
ジャバウォックが消えたのを確認したのか、首無しがフォトンブレードを構える。
俺に向かって。




