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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第八章 「戦場を焼き尽くした竜」

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第92話 誰がやった



「聞かれる前に、使ったことは言う」


 朝の共用部屋で、俺は千代がまとめた紙を見ながら言った。


 近くの地下入口を使ったこと。


 中で大型魔獣と戦ったこと。


 戦った跡と、食べなかった部分を残してきたこと。


 今後も使ってよいのか、条件を知りたいこと。


 今日は、それを入口の相談窓口へ話す。


「今度は、それが相談の前提じゃ」


「最初から怒られるかな」


「怒られぬと思っておったのか?」


「聞きに行くんだから、少しくらいは」


「少し怒られるとは思っておるのだな」


 怒られる理由は分かっている。


 利用規則を確認する前に、何度か地下へ入った。


 魔物とも戦った。


 昨日は、前より厳しい条件を決めたのに、地下へ大きな跡を残した。


 知らなかったと説明することはできる。


 知らなかったから、何をしてもいいとは思っていない。


「我も行けばよい」


 ナーヴァが口を挟んだ。


「行かない」


「我が説明すれば早い」


「早すぎるから置いていくんだよ」


「何がだ」


「誰が大型魔獣を倒したか聞かれて、お前が自分で答えたら、その後が長くなる」


「我が竜だと分かれば、説明など短く済むであろう」


「そこから別の説明が始まるんだよ」


 ナーヴァを街へ連れていくこと自体、まだ安全にできるとは思っていない。


 人の姿だけを見れば、すぐに竜だとは分からないかもしれない。


 でも、誰かに疑われた時、本人が隠すとも思えない。


「今日行くのは、俺、リゼ、千代、ヴィオラ」


 俺は話す範囲を決める。


 リゼは、二度の狩りの現場を知っている。


 千代は、地下へ入った時の記録を持つ。


 ヴィオラは、相手が何を疑っているかを見る。


「《淫獄》と《帰還石》のことは話さぬ」


 千代が確認する。


「ナーヴァの名前も、竜だってことも」


「倒した方法を聞かれたら?」


 リゼが尋ねる。


「話せないって言う」


「納得されぬぞ」


「分かってる。でも、嘘の倒し方を作るよりはいい」


 信用してもらえないかもしれない。


 それでも、信用してもらうために別の何かへ決めることはできない。


「今日こそ、規則を聞いて帰ってくる」


「また質問を増やして帰ってくる顔だね」


 ヴィオラが笑った。


「行く前から決めるなよ」


          ◇


 以前、相談窓口があると聞いた場所には、人の出入りが多かった。


 壁には何枚もの紙が並び、武器や荷物を持った人が、その前で足を止めている。


 受付らしい場所も一つではない。


 装備を見せている人。


 紙を受け取る人。


 何かを運び込む相談をしている人。


 魔法学校へ行った時より、俺たちだけ格好が違う気がした。


「ここ、何の場所?」


「探索者組合だよ」


 ヴィオラが、入口近くの表示を見ながら答える。


「相談窓口じゃなかった?」


「組合の中に、入口の相談を受ける窓口があるんじゃない?」


「最初から組合って教えてくれればよかったのに」


「私たちが名前を聞かなかったんだと思うよ」


 また、聞かなかったことが増えた。


 中へ入り、空いている受付で近くの地下入口について聞きたいと伝える。


 受付にいた男は、すぐに規則を説明し始めなかった。


「どの入口ですか?」


「名前は分からない」


「場所は?」


 俺は千代を見る。


 正確な位置をどこまで話すか、ここへ来る前に決めてある。


「街から、こっちの方向へ進んだ場所にある」


 おおよその方向と、歩いた距離を伝える。


 最低危険度と書かれた標識。


 植物に隠れかけた石組み。


 地下へ続く石段。


 その先にある、小さな前室。


「現在の接続先は分かりますか?」


「グール系がいるところ」


 受付の男が、こちらを見る目を変えた。


「……その入口を、最近利用しましたか?」


「使った」


「何回です?」


「調べるために入った時と、狩りに使った時がある。口で数えると分け方を間違えそうだから、記録を持ってきた」


 千代が紙を出す。


 入口の外まで行った日。


 前室だけを確認した日。


 奥の接続先まで進んだ日。


 狩りをした日。


 全部を同じ「利用」と数えていいのか分からなかったので、起きたことごとに分けてある。


 男は紙を受け取り、しばらく目を通した。


「直近で、大きな戦闘を行いましたか?」


 来た。


「大型魔獣なら倒した」


「やはりあなた方ですか!」


 声が大きくなった。


 近くの受付にいた人まで、こちらを見る。


「やっぱり怒られた」


「まだ何も説明されておらぬ」


「怒ってはいるだろ」


「怒っています」


 本人にはっきり言われた。


          ◇


「魔物を倒したら駄目だった?」


「魔物を倒したことだけを問題にしているのではありません」


 場所を移され、俺たちは受付の奥にある卓を囲んでいた。


 さっきの男も向かいに座っている。


「あの入口は現在、最低危険度です。資源価値も低い。ですが、低価値だから管理していないわけではありません」


 低価値。


 セリナから聞いた情報と同じだ。


「巡回時に、石床の大きな破砕と陥没が確認されました。焼けた跡もあります。大型魔獣の血痕と残骸も残っていた。しかも、一度の戦闘でできた痕跡だけではありません」


 前回と、昨日の分。


 見つかっていないだけかもしれない。


 リゼが昨日言った通りだった。


「俺たちは、誰にも会ってない」


「会わなかったから、問題がなかったことにはなりません」


 昨日、俺たちが話したことと同じことを言われた。


「あれだけの痕跡を見つけても、何が起きたのか申告がなかった。未確認の大型魔物が現れたのか。接続先に異常が起きたのか。強力な探索者が無申告で戦闘したのか。こちらは、何が地下にいるのか分からない状態で巡回することになったんですよ」


 俺たちは、人に会わなければ戻ると決めていた。


 巡回者を見かけたら、すぐ撤退する。


 それで誰も危険へ巻き込まないつもりだった。


 でも、俺たちが帰った後に、誰かが確認へ入ることまでは考えていなかった。


「危険な場所へ、入らせた?」


「何がいるか分からない以上、安全だったとは言えません」


「巡回した人は?」


「戻っています」


 そこで少しだけ息が抜けた。


「だから問題ない、ではありませんよ」


「分かってる」


 知らなかった。


 巡回する人がいることは知っていた。


 でも、俺たちが残した跡のせいで、その人たちの仕事と危険が増えることまでは知らなかった。


 知らなかったと言っても、入った人の危険は消えない。


「申し訳ない」


 リゼが頭を下げた。


「現場に人がいないことは確認した。だが、その後の巡回まで考えていなかった」


 千代も続けて頭を下げる。


 俺も下げた。


「悪い。規則を知らなかった。でも、知らなかったから問題ないとは思ってない」


 男は、すぐには答えなかった。


「……事情は、順番に確認します」


 怒ってはいる。


 でも、今すぐ追い出されるわけではないらしい。


          ◇


「そもそも、誰があの入口を管理してる?」


 聞きに来た質問へ戻る。


「最終的な管理主体は帝国です。日常の巡回、利用者への対応、依頼の受付、異常の確認は、探索者組合が代行しています」


「ここが管理してる?」


「日常的な対応は、そう考えて構いません」


「じゃあ、帝国の許可なく入った俺たちは違反?」


「入口の区分によります」


 また、一つではなかった。


「接続先の資源価値が中以上なら、帝国の許可が必要です。探索や採取で得た資源の一部も、帝国へ納めることになります。入口の管理も、今より厳しくなる」


「あそこは低いんだよな?」


「現在は低です。帝国の直接許可や、資源の一部納付を必須にしない運用です」


「なら、入ってもよかった?」


「入ったことだけを責めているのではありません」


 男が、俺の言葉を途中で止めた。


「何をしたかと、何を残したかです」


 自由に入れることと、何をしてもいいことは違う。


 ミネットなら、そう言う気がした。


「低価値でも、魔物が地上へ出ないか、接続先に異常がないかは確認します。利用者が大きな戦闘を行えば、周辺の魔物の動きが変わる場合もある。残骸が別の魔物を集めることもあります」


「接続先が変わって、中以上になったら?」


 千代が尋ねる。


「その時は、利用条件も変わります」


「同じ入口でも?」


「奥が同じとは限らないのでしょう?」


 それは知っている。


 およそ二か月後、接続先が変わる可能性がある。


 魔物だけでなく、規則まで変わるらしい。


「知らぬまま使い続ければ、そのうち本当に重大な違反になっておったかもしれぬな」


 千代が小さく言った。


「聞きに来た時期だけは、遅すぎなかったと思いたいね」


 ヴィオラの言葉に、男は何も返さなかった。


 早かったとも言われなかった。


          ◇


「現場に残した大型魔獣の部位について確認します」


 話が、昨日の食べ残しへ移った。


「骨、皮、角、爪、歯。ほかにもありましたか?」


「腱も、全部は食べてないって」


「誰が食べたのです?」


「一緒に行ったやつ」


「その方は、ここには?」


「今日は連れてきてない」


 ナーヴァの名前は言わない。


 人間とも言わない。


「残した物は、その場へ散らばったままですか?」


「倒した場所へ寄せた。通路には広げてない」


 リゼが答える。


「持ち帰らなかったのですか?」


「何に使えるか分からなかったし、安全かも分からなかった。危ない物を持ち帰る方がまずいと思った」


 どこへ持ち帰るのかまでは言わない。


 男は、今度はすぐに怒らなかった。


「未知の物を、無理に生活場所へ持ち帰らなかった判断は分かります」


「そこは合ってた?」


「その場合は、組合へ知らせてください」


「また、それか」


「持ち帰るか、放置するかの二つだけではありません」


 持ち帰らず、相談する。


 汚水の時には思いつかなかった選択肢だ。


 いや、今は汚水についても相談するために来ている。


「あの角と皮、捨てたんですか?」


「捨てたというか、置いてきた」


「状態が良ければ、扱える素材だった可能性があります」


「素材だったの?」


「何だと思っていたんです?」


「一緒に行ったやつの食べ残し」


 男が黙った。


「骨や爪、歯も、種類と状態によっては加工に使えます。角もそうです」


「売れた?」


「現物の状態も、魔獣の正確な種類も確認していません。汚染の有無も分からない。価値があると断定はできません」


「可能性はあった?」


「ありました」


 ナーヴァは、食べられる部分だけ食べた。


 俺たちは、それ以外を危ない物として置いてきた。


 外では、その食べ残しが素材になるかもしれない。


「資源を勝手に取ったことになる?」


「現在の区分では、採取資源の一部納付は必須ではありません。倒した魔獣を食べたことや、素材を持ち帰らなかったことだけで、帝国の資源を盗んだとは扱いません」


「よかった」


「ですが、異常な痕跡と、利用できるかもしれない残骸を残して、知らせなかったことは別です」


「よくなかった」


「一つ分かるたびに、安心するのが早いね」


 ヴィオラに言われた。


          ◇


「では、誰がやったのです?」


 男が言った。


「何を?」


「大型魔獣を倒した者です」


 そこへ戻るのか。


「現場の状態から、一体の大型魔獣を短時間で制圧したと考えています。石床を割り、地面を陥没させる力もある。焼けた跡も残っている。その方が誰で、どうやって倒したのか説明してください」


 リゼも、千代も、ヴィオラも俺を見る。


 ここへ来る前に決めた通りだ。


 最後に決めるのは俺。


 ナーヴァは、今は俺たちへ敵対していない。


 自分で決めた条件を守った。


 でも、竜だ。


 それを話した後、地下入口の利用だけで話が済むとは思えない。


「倒した方法と、倒したやつのことは、今は話せない」


「誰がやったかも分からない状態で、安全だと判断しろというのですか」


「安全だって決めてほしいわけじゃない」


「では、何を求めているのです?」


「分からないなら、分からないまま警戒してもらっていい」


 自分で言ってから、変な頼み方だと思った。


「全部信用してくれとは言えない。でも、地下に残ってる敵じゃない。今は俺たちへ敵対していない。次の狩りは、規則を確認するまで行かないって決めてる」


「人間ですか?」


 答えられない。


「それも、今は話せない」


「所属は?」


「ない。少なくとも、俺が話せるものは」


「あなた方との関係は?」


「一緒に暮らしてる」


「それで安全だと?」


「安全とは言ってない」


 ナーヴァが俺たちへ敵対していないことと、何も起こさないことは別だ。


 昨日、それを見たばかりだった。


「本人は条件を守った。俺たちが決めた条件が足りなかった」


「条件を守って、あの状態にしたのですか?」


「そうなる」


 男が額へ手を当てた。


「余計に困るんですけど」


「俺たちも困ってる」


「同じ側へ来ないでください」


 怒られた。


「今回の件については、少なくとも次にあの入口を使う前に相談してください。同じ規模の戦闘を行う可能性があるなら、それも先に知らせてほしい。予想せず大きな痕跡を残した場合も、まず組合へ連絡してください。誰がやったか話せないなら、これ以上の危険を管理側へ黙って増やさないでください」


「分かった」


「軽く返事をしない」


「本当に分かった。次に使う前に、ここへ来る。大きな魔獣を狩るなら先に話す。何か残したら申告する」


「不明な物を見つけた場合も、扱いが分からないまま持ち出したり捨てたりする前に、まず相談してください」


「持ち出さずに置いてきた」


「その場合も申告してください」


「何をしても申告が増えるな」


「何かをしたからです」


 それはそうだった。


          ◇


 誰が大型魔獣を倒したのかは、話さなかった。


 男も納得はしていない。


 それでも、今すぐ俺たちを捕まえたり、無理に聞き出したりはしなかった。


 少なくとも、次にあの地下入口へ入る前に相談する。


 同じような大きな戦闘をする可能性があるなら先に伝える。


 異常な跡や残骸が出たら、まず知らせる。


 分からない物は、扱いを決める前に相談する。


 今回の件について組合から求められた対応を、千代が書き留めていく。


「ほかに、現場で発生した物はありますか?」


 男が尋ねた。


「発生した物?」


「大型魔獣やグール系の血、体液が、装備や身体へ付着していませんか」


 リゼと顔を見合わせる。


「付いた」


「今回ですか?」


「今回は少しだけ。布で拭いた。前にグール系と戦った時は、装備に付いた」


「その装備は、どう処理しました?」


「水で洗った」


 男の顔から、さっきまでの怒りが少し消えた。


 代わりに、別の嫌な予感を見つけた顔になる。


「洗った水は?」


「まだ保管してる」


「……まだ?」


「捨て方が分からなかったから」


 今日一番、信じられないものを見るような目を向けられた。


 規則を聞きに来ただけだった。


 大型魔獣を誰が倒したのか聞かれた。


 置いてきた食べ残しが、素材かもしれないと教えられた。


 最後には、捨てずに持っている物の話になった。


 怒られる理由が、また一つ増えた気がした。

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