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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第七章 「最低危険度の地下」

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第75話 帰ってからの方が大変だった

 地下へ行かない朝は、もっと暇になると思っていた。


 探索の準備はない。


 装備を背負う必要もない。


 巡回者の時間を気にして、早く外へ出る必要もない。


 今日は全員、《淫獄》にいる。


 だから、久しぶりに何もない一日になる。


 そう思っていた。


「夜斗様、そちらの水は使わないでください」


 顔を洗おうとしたところで、ファステに止められた。


「こっち?」


「そちらは装備洗浄用に分けたものです」


「じゃあ、これは?」


「汚れた布を洗えるか確かめるためのものです」


「こっちの小さいのは?」


「縁の水です」


 並んだ容器を見回す。


 どれも水だ。


 見た目だけでは区別できない。


「俺が使っていい水、どれ?」


「今お持ちします」


「自分で取りに来たのに、仕事を増やしてない?」


「間違えて使われるよりはよいです」


 ファステは別の容器から、顔を洗う分だけ水を移した。


 以前なら、水がある場所から必要な量を取ればよかった。


 今は違う。


 飲む水。


 調理用。


 身体や普段の衣類を洗う水。


 地下へ持ち込んだ物を洗う水。


 縁の水。


 そして、すでに汚れた水。


 同じ水でも、用途によって全部分けられている。


「地下へ行ってないのに、朝から地下の影響を受けてるな」


「行った結果が残っているからです」


 ファステが答える。


 正しい。


 今日、地下へ行かないことと。


 昨日までに持ち帰った問題がなくなることは、別だった。


 ◇


 朝食後、土間の一角に全員が集まった。


 二度の地下進入で使った物が並んでいる。


 リゼの剣。


 手袋。


 靴。


 俺とヴィオラが着ていた服。


 帰路確認に使った縄。


 使用済みの布。


 汚れた水を入れた容器。


 一回目より二回目の方が汚れは少なかった。


 グールを斬り倒さずに戻ったからだ。


 それでも、隔離する物は確実に増えている。


「先に決めるぞ」


 千代が記録を開いた。


「今日、終わらせられること。終わらせられぬこと。分からぬため手をつけぬこと。この三つへ分ける」


「全部洗えば終わり、では駄目?」


 ヴィオラが尋ねる。


「洗った後の水を、どこへ捨てるつもりじゃ」


「増えるね」


「ゆえに、考えずに洗うな」


 洗えばきれいになる。


 そんな単純な話ではない。


 装備から落ちた汚れは、水へ移る。


 布から落とせば、また別の水へ移る。


 その水を捨てる場所がなければ、汚れの置き場所を変えただけだ。


「まず、身体に使う物からです」


 ファステが言った。


「昨日までに傷がないことは確認しました。ですが、手袋や衣類を再び使うなら、汚れと臭いを落とす必要があります」


「臭いだけなら、干せば消える?」


 俺が尋ねる。


「消えるかもしれません。ですが、危険なものまで消えたとは判断できません」


「匂いがしなければ安全、ではないか」


「はい」


 地下の臭いは薄くなっている。


 それでも、リゼの手袋を鼻へ近づけて確かめようとは思わなかった。


「手袋は、しばらく隔離でいい」


 リゼが言う。


「予備を使う」


「予備にも限りがあるぞ」


 千代が答えた。


「次に地下へ入らぬなら、今すぐ困りはせぬ。されど、外界で使う装備まで減らすわけにはいかん」


「洗えるか、街で聞く?」


 俺が言う。


「グールの体液が付いた装備の処理方法、なら聞けるかもしれない」


「なぜ知りたいのかを問われる可能性がありますわ」


 レイナが指摘する。


「地下へ入ったと正直に言う?」


「入口の利用規則が分からないまま入ってるから、それは避けたい」


「一般的な手入れ用品を探している形なら、聞けるかもね」


 ヴィオラが口を挟む。


「魔物を相手にする人向けの商品を見ながら、使い方を尋ねる。これなら地下へ入ったと話さなくても不自然ではない」


「それでどこまで分かる?」


「相手次第」


「その場で話を作りすぎるなよ」


「分かってるよ」


 次に街へ行く時の確認事項が増えた。


 魔物の体液が付いた装備へ使う洗浄用品。


 衣類や布の処理方法。


 汚水の処分。


 噛まれた場合の治療。


 傷がなくても体液へ触れた場合に危険があるのか。


「知らないこと、多すぎない?」


「今まで必要なかった知識じゃ」


 千代が言う。


「必要になったことで、不足が見えた。それだけじゃ」


「不足が見えすぎてる」


「見えぬままよりはよい」


 また正しいことを言われた。


 ◇


 リゼは剣の手入れを始めた。


 一回目の戦闘で付いた黒い汚れは落ちている。


 水分も拭き取った。


 それでも、刃の一部には薄い変色が残っていた。


「使える?」


 俺が尋ねる。


「ああ。今すぐ折れるような状態ではない」


「じゃあ大丈夫?」


「使えることと、問題がないことは別だ」


 リゼは刃を光へ向ける。


「このまま広がるのか。表面だけなのか。研げば落ちるのか。まだ分からん」


「補修用品を使う?」


「必要な分だけにする。原因が分からないのに全部使っても、無駄になるかもしれない」


 リゼは布へ少量だけ手入れ用品を取り、変色した部分を慎重に拭いた。


 その布も、使用後は隔離する。


「また一枚増えた」


 俺が言う。


「布のことか?」


「汚れ物」


「剣を放っておくよりはいい」


「分かってるけどさ」


 一つ処理するために、別の消耗品を使う。


 その消耗品も、処理が必要な物になる。


「武器の手入れって、普段からこんなに面倒なの?」


「普段の汚れなら、ここまで分けない」


「相手が分からないから?」


「ああ。グールがどういう生物か。体液に何が含まれるか。知識があれば、不要な警戒も減らせる」


「知らないから、全部危ない方へ考えるしかない」


「今はそれでいい」


 リゼは焦っていなかった。


 自分の武器が傷んでいるのに、使える物を全部使って直そうともしない。


 必要な分だけ。


 分からない物へ、分からないまま手を加えすぎない。


 地下で戦っている時より、今の方が彼女の慎重さがよく見えた。


 ◇


 少し離れた場所では、レイナがヴィオラの上着を広げていた。


 松明を振った時に火の粉が触れ、袖の一部が焦げている。


「ここだけなら補修できますわ」


 レイナが焦げた糸を丁寧に取り除く。


「布自体が弱くなっておりますから、そのまま縫い合わせるより、内側から別の布を当てた方がよいでしょう」


「目立つ?」


「同じ色の布はありません。多少は」


「じゃあ、変わった形にして」


「補修ですのよ?」


「どうせ目立つなら、最初からそういう模様に見えた方が面白いでしょ」


「あなたは何でも遊びへ変えますのね」


「嫌なことを嫌なまま残すよりいいよ」


 レイナの手が止まった。


 焦げた袖を見る。


「……それも、悪くはありませんわね」


 当て布の候補をいくつか並べる。


 できるだけ近い色。


 あえて違う色。


 補修跡を目立たせない形。


 模様のように見せる形。


「これ」


 ヴィオラが選んだのは、丸みのある当て布だった。


「コイン?」


「そう見える?」


「やりそうだと思った」


「なら正解」


「火傷しかけた跡を、賭け事の印にしないでくださいませ」


「無事だったからできるんだよ」


 レイナは呆れながらも、ヴィオラが選んだ形に布を切った。


 針へ糸を通す。


 細かな作業だ。


「手伝える?」


 俺が近づくと、レイナが針を持ったままこちらを見た。


「夜斗様が?」


「糸を持つくらいなら」


「では、こちらの布がずれないよう押さえてくださいませ」


「それでいいの?」


「指を縫わないよう、動かさないでください」


「急に怖いこと言うな」


 言われた場所を押さえる。


 レイナが布を縫いつけていく。


 ヴィオラは上着を脱いだまま、俺の向かいで作業を眺めていた。


 普段より薄いシャツ姿。


 レイナは袖を邪魔にならないようまとめ、髪も後ろへ寄せている。


 二人との距離が近い。


 少し前なら、それだけで強く反応したかもしれない。


 今も視線の置き場所には困る。


 けれど、似た状況はすでに何度かあった。


 何より今は、針が俺の指へ刺さらないことの方が重要だった。


「動かないでくださいませ」


「動いてない」


「今、ヴィオラの方を見ましたわ」


「話してたから」


「私は何も言ってないよ」


「じゃあ、何で見たんだろうな」


「私に聞かれても」


「二人とも、静かにしてくださいませ」


 怒られた。


 石の表示は出なかった。


 少し安心した。


 ◇


 ファステは、通常の生活に必要な水を計算していた。


 朝と夜の飲み水。


 調理。


 食器。


 縁。


 最低限の身体の清潔。


 そこへ、地下装備の洗浄が加わる。


「このままでは、同じ量を毎回使うことはできません」


 ファステが言った。


「外へ水を取りに行く回数を増やせば?」


「増やすことはできます。ですが、それも安全ではありません」


 リゼが答える。


「同じ水場へ何度も通えば痕跡が増える。運ぶ人間の負担も増す」


「恒久的な水設備が欲しくなるな」


「今はありません」


「分かってる」


 《淫獄》が家になっても、水が勝手に湧くようにはならなかった。


 外から運ぶ。


 使う。


 減る。


 汚れた水は、別に残る。


「飲む水を減らすのはなしだからな」


 俺が言うと、ファステがこちらを見る。


「ですが、夜斗様。現在の量では――」


「だから、洗浄方法を変えるか、外から運ぶ量を増やすか、街で使える物を探す。飲む分を我慢して合わせるのは違う」


「私が少し控えれば」


「ファステ一人が控えるのもなし」


「しかし」


「全員の問題だろ」


 地下へ入ったのは俺とリゼとヴィオラだ。


 後始末をしているのは六人。


 だからといって、留守番していたファステが自分の水を減らして埋め合わせる必要はない。


「俺も水を運ぶ」


 言うと、リゼが顔を上げた。


「お前が?」


「その反応、街の仕事を考えた時にもされた気がする」


「無理をするなと言っている」


「持てる量だけ持つよ。全員で回数を分ければいい」


「なら、私も行きますわ」


 レイナが言う。


「水運びの補助くらいはできます」


「妾は運んだ量と使用量を記録しよう」


 千代も続く。


「減り方が分からねば、どれだけ増やすべきかも決められぬ」


「私も行くよ」


 ヴィオラが手を上げた。


「働く気ある?」


「私の服を洗う水でもあるからね」


「地下に行った三人だけでやる話でもない」


 俺が言う。


「でも、行ってない三人へ押しつける話でもない。だから全員で分けよう」


 ファステは、まだ何か言いたそうだった。


 自分がやります。


 自分の分を減らします。


 その言葉が口から出かかっているように見える。


 けれど、彼女は一度息をついた。


「分かりました」


 そして、記録の横へ新しい欄を作る。


「では、皆様が無理なく運べる量を一度確認しましょう」


「うん」


「ただし、飲み水と洗浄用の水は、容器から分けます」


「分かりやすい印も要るな」


 リゼが言う。


「夜斗がまた顔を洗おうとする」


「一回間違えかけただけだろ」


「一回で十分危険です」


 ファステにまで言われた。


 ◇


 昼を過ぎても、後始末は終わらなかった。


 汚水の容器は二つ。


 使用済みの布も残っている。


 洗えるか判断できない手袋。


 完全には状態を確認できない靴。


 補修途中の上着。


 手入れの終わっていない剣。


 地下へ行っていないのに、一日の大半が地下に関係する作業で消えていく。


 ヴィオラが、増えた隔離物を見回した。


「今日も入っていたら、容器がもう一つ増えていた」


 俺も容器を見る。


「布も水も減る」


「私の服にも、当て布が増えたかも」


「そこは嬉しそうに言うな」


 レイナが縫い終えた上着を持ち上げる。


 袖の焦げ跡には、丸い当て布がきれいに縫いつけられていた。


「いかがですの?」


 ヴィオラが受け取る。


 袖を通し、腕を動かす。


「いいね」


「引きつりはありませんか?」


「大丈夫。前より気に入ったかも」


「補修した物を、以前より気に入るのですか?」


「自分で選んだ跡だからね」


 ヴィオラは丸い当て布を指でなぞる。


「壊れなかった物より、壊れかけて直した物の方が、何があったか覚えていられるでしょ」


「嫌な出来事ではありませんの?」


「三体に追われたのは嫌だったよ」


「なら、忘れたいとは思いませんの?」


「忘れたら、次も同じことをするかもしれない」


 ヴィオラは軽く笑った。


「無事に帰ったところまで一緒に覚えておけばいいんだよ」


 レイナが補修した袖。


 ヴィオラが自分で選んだ形。


 危険の痕跡を、ただ嫌な傷として残すのではなく、帰還した証拠として使い続ける。


「また石が出そうな顔をしてるね」


 ヴィオラが俺を見る。


「出てない」


「残念」


「お前が期待すると余計に出なさそう」


「慣れた?」


「その言い方やめろ」


 実際、普段と違う姿や近い距離だけでは、以前ほど簡単に石は出なくなっている。


 同じ刺激を繰り返せば、反応も薄くなる。


 でも、それで関係の価値まで薄くなったわけではない。


 ヴィオラが補修した袖を気に入ったこと。


 レイナがそれを形にしたこと。


 数字が出なくても、その時間は残る。


 ◇


 夕方。


 今日できる作業には、ひとまず区切りがついた。


 剣の手入れ。


 上着の補修。


 水の用途分け。


 隔離場所の整理。


 使った物の記録。


 終えられるものは終えた。


 だが、汚水と使用済みの布は残った。


 知識がないため、手をつけられない物だ。


「これ以上は、情報を得てからじゃな」


 千代が記録を閉じる。


「街で確認することが増えた」


「魔物用の洗浄用品」


 リゼが挙げる。


「汚れた布や水の処分方法」


 ファステが続く。


「体液へ触れた場合の危険性と、治療方法」


 レイナが言う。


「入口の利用規則もね」


 ヴィオラが最後に付け加えた。


「買い物と質問だけで一日終わりそうだな」


「一度に全部調べる必要はない」


 リゼが言う。


「優先するなら、汚水の処分と装備の洗浄だ」


「入口の規則を後回しにしていい?」


「今は入らないと決めた。すぐに規則を知る必要はない」


「でも、また入るなら先に確認」


「ああ」


 地下へ入るのを止めても、持ち帰った問題は残る。


 ただ、新しく増えるのを止められた。


 今ある問題を、一つずつ処理する時間を作れた。


「今日、何もしてない気がする」


 俺が言うと、千代がこちらを見る。


「これだけ働いてか?」


「地下へ行ってない。街にも行ってない。何か新しい物を見つけたわけでもない」


「だからといって、何もしておらぬことにはならぬ」


「でも、まだ汚水は残ってる」


「終わらぬ仕事があることと、今日の仕事が無意味であることも別じゃ」


 最近、似た考え方が増えた気がする。


 一度で正解を選ばなくていい。


 全部を一人でやらなくていい。


 その日のうちに終わらなくても、進めた分はなくならない。


「家へ戻す作業をしておるのじゃ」


 千代が言った。


「地下から持ち帰ったものを整理し、再び暮らせる形へ戻す。それも必要な仕事であろう」


 共用部屋を見る。


 普段の食器。


 六つの違うカップ。


 茶葉の保存容器。


 畳まれた布。


 管理されている食料。


 庭へ出る縁。


 そのすぐ手前に、地下から持ち帰った問題を隔離した土間がある。


 全部、今の家だった。


 きれいな部分だけが生活ではない。


 失敗や汚れを、ほかへ広げないよう処理することも含まれる。


 ◇


 夜の食事は、いつもより少し遅くなった。


 ファステ一人が調理を続けていたわけではない。


 水の整理に時間を取られた彼女を、全員で手伝った。


 リゼが火を管理する。


 レイナが食器を並べる。


 千代が使える食材の量を確認する。


 ヴィオラは、縁が調理場所へ近づかないようコインで気を引いている。


 俺は切った物を運んだ。


「料理できる?」


 ヴィオラが聞く。


「運ぶことならできる」


「胸を張ることではないな」


 リゼに言われた。


「何もできないよりいいだろ」


「今日はそれで十分です」


 ファステが笑う。


 作業のために髪をまとめたファステ。


 火の前で袖を締めたリゼ。


 布仕事のあとも針箱を近くへ置いているレイナ。


 記録を見ながら食料を分ける千代。


 丸い当て布の付いた上着を着直したヴィオラ。


 地下へ行った者と、行かなかった者。


 帰還を待った者。


 後始末をした者。


 全員が同じ食事を作るため、それぞれ違うことをしている。


 昨日の緊張とは違う。


 装備姿そのものも、作業中の近い距離も、もう完全に初めてではない。


 それでも、地下から生活へ戻ろうとする五人の姿と、そこへ自分も混ざっている状況が重なり、俺の性的な好みへ静かに、しかし強く刺さった。


『《淫獄石》を450個獲得しました』


『所持《淫獄石》:6,360』


「後始末で出た」


 ヴィオラが言う。


「その言い方やめてくれない?」


「地下へ行った時より、家事をしてる時の方が好き?」


「比較の仕方がおかしい」


「でも、戦っていた時には出なかったのでしょう?」


 レイナまで確認する。


「戦闘が好きなわけじゃないからな」


「では、今は何が?」


 千代が尋ねる。


 答えを考える。


 髪をまとめた姿。


 袖を締めた腕。


 いつもと違う作業。


 それもある。


 ただ、それだけではない。


「全員で、元の生活へ戻してるところ?」


「疑問形じゃな」


「自分でも全部は分からないんだよ」


 地下で起きたことを、地下へ行った三人だけの問題にしない。


 だからといって、留守番していた三人へ押しつけるわけでもない。


 全員が、できることを選んでいる。


 その関係が、五人それぞれの姿と一緒に刺さった。


「性癖クリティカル?」


「450でそれはない」


「基準が上がってるね」


「1,500を見たせいだろ」


 前なら、450個でもかなり大きかった。


 今でも十分に大きい。


 慣れてきたのは、刺激だけではなく数字の方かもしれない。


「石が増えたからといって、洗浄用品は出てこぬぞ」


 千代が現実へ戻す。


「分かってる」


「では、食べよ。冷める」


 六人で卓を囲む。


 縁は俺の足元。


 土間には、まだ処理できない物が残っている。


 今日一日を使っても、全部は終わらなかった。


 それでも、朝より整理された。


 できることと。


 できないことと。


 知識がないから触らないこと。


 それぞれを分けられた。


 だから今日、俺たちは地下へ行かなかった。


 その代わりに、地下から帰ってくるための続きをしていた。


 敵を倒した時より。


 前室へ逃げ込んだ時より。


 家へ戻ったあとにかかった時間の方が、ずっと長い。


 地下へ入るのは、一日で終わる。


 けれど、帰ってきたものを生活へ戻すには、それ以上の日数がかかる。


 これ以上増やさないと決めたことで、ようやく今ある問題へ向き合えるようになった。

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