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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

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第180話 門を開けずに、迎え撃つ

 城門は、一日では完成しなかった。


 一つの区画を作る。


 境界が消えたら、全員で歩く。


 担架を運び、箱を抱え、ナーヴァにも急いで通ってもらう。


 使いにくければ、中の物を出し、誰もいないことを確かめてから作り直す。


 それを何度も繰り返した。


 紙の上では十分に広かった曲がり角で、担架の端が壁へ当たった。


 扉は開いた。でも、開いた扉がヴィオラの持つ箱を押し戻した。


 アヤメの第二退避路は短くできた。でも、出口が応急処置区画へ近すぎて、負傷者を運ぶ人とぶつかることが分かった。


 直す。


 また歩く。


 外門。


 そこから曲がって続く迎撃通路。


 内門。


 壁の上を通る道と、外門の周囲を確認するための塔。


 詰所と、分けて物を置ける小さな部屋。


 担架を応急処置区画まで運ぶ道。


 アヤメが戻るための二本の道。


 生活している場所と通常入口を、外門から直接見せないための壁。


 形だけなら、《領域構築》で作れた。


 だが、縄も鐘も治療用品も、勝手には増えない。


 飲み水も、清潔な布も、攻撃に使う物も、自分たちで運ぶ必要があった。


 そして、二か所だけ空いた場所が残った。


 石製の小型ゴーレムを置く場所。


 黒い人型ゴーレムを待たせる場所。


 どちらも、俺たちだけでは決められない。


「エウリオ、来ないね」


 ヴィオラが、空いた場所を見ながら言った。


「呼ぶ方法がないからな」


 近くにいることと、来てほしいと伝えられることは別だ。


 一瞬、アヤメへ伝言を頼むことも考えた。


 でも、同じ顔で二度も街へ入っている。


 ゴーレムの調整を早めるためだけに、もう一度危険を増やす理由にはならなかった。


「来るまでは、空けておこう」


 できない部分だけを残し、ほかを進めた。


     ◇


 エウリオが第二接続地点から来たのは、それから数日後だった。


 淡い色の人型ゴーレムが先に現れ、その後ろから本人が歩いてくる。


 新しく増えた外壁を見上げても、驚いた声は出さなかった。


「何を増やしたの?」


「城門」


「見れば、それくらいは分かるよ」


「じゃあ聞かなくてもよかっただろ」


「どこまで僕の仕事が増えたのか、見ただけでは分からないからね」


 来て最初に確認することが、それらしい。


「今日は何しに来たの?」


「置いた個体の状態を見るため」


「点検?」


「壊れてから全部直す方が面倒だろう?」


 定期的に来る約束をしたわけではない。


 これからも毎回来てくれるとも言っていない。


 今回は、自分の物を確認するために来ただけらしい。


 エウリオは黒い人型ゴーレムの腕を見た。


 表面に残る傷へ指を沿わせ、腕を曲げさせる。


「動くけれど、このまま重いものを押さえ続ければ悪くなるね」


「勝手に直してない」


「それでいいよ。中までどう作ったか分からないものを、外から埋めれば余計に面倒になる」


「直せる?」


「持ち帰れば」


「それと、頼みたいことがある」


 俺たちは、新しい城門を案内した。


 外門を破られた後の迎撃通路。


 その奥にある内門。


 人型ゴーレムには、内門の手前で待ってほしい。


 外門の外へは追わせない。


 《万物迷宮》の奥へも追わせない。


 生活している場所を勝手に歩かせない。


「迎撃通路へ入って、内門を越えようとするものだけを止めてほしい」


「人間も?」


「敵かどうかは、俺たちが決める」


「なら、君たちが止めると決めた対象だけ?」


 千代が首を横へ振った。


「それでは、命令する者が動けぬ時に止まる。外門が破られ、迎撃通路を進み、内門へ触れたものを止める。そこまでを条件にした方がよい」


「来訪者が、外門を破って入った場合も止まる?」


「外門を破った者を、そのまま生活場所へ通すつもりはない」


 リゼが答えた。


 エウリオは少し考えた後、人型ゴーレムを見る。


「条件は作れる。ただし、今回だけだよ」


「今回だけ?」


「この先、城門を変えるたびに僕が調整するとは約束しない。遠くから命令を変えることもできない。壊れた時に毎回無料で直すとも言わない。追加でもう一体作る話もしない」


「分かった」


「所有者も僕のまま」


「うん。分解しない。別の仕事にも使わない。誰かへ渡さない」


「なら、腕を直してから設定する」


 黒い人型ゴーレムは、その日、エウリオと一緒に第二接続地点の向こうへ消えた。


 戻ってきたのは、さらに数日後だった。


 腕の傷は塞がっている。


 エウリオが曲げ伸ばしさせ、重い石を一度だけ支えさせた。


 それから迎撃通路と内門の位置を確認し、決めた手順を設定する。


 黒い人型ゴーレムは、内門の脇へ立った。


 顔も向きも、以前とほとんど変わらない。


 でも、待っている条件だけが変わっていた。


     ◇


 石製の小型ゴーレムにも、新しい仕事を頼んだ。


 外門へ強い衝撃が加わった時は、低い音を続けて鳴らす。


 外門が開いた時と閉じた時は、高い音を一度ずつ。


 迎撃通路を何かが通れば、短い音を三度。


 内門へ何かが触れれば、重い金属音を一度。


 鳴らした後は、仕掛けを戻す。


 迎撃通路を通った回数は、小石で残す。


「誰が通ったかは残る?」


 ファステが確認する。


「残さないよ」


「声や会話は?」


「記録しない」


「持っていた物も?」


「それも残さない」


「人間と魔物は?」


「区別しない」


 エウリオの答えは変わらない。


「外門を叩いた音でも、助けを求めている人かもしれませんわ」


 レイナが言った。


「外門が開いた音でも、私たちが確認のために開いた場合があります」


 アヤメが続ける。


「音が違っても、意味まで決まったわけではないんだな」


「音は、起きたことの一部を知らせるだけだよ」


 エウリオが小型ゴーレムの前から立ち上がった。


「敵かどうかを決める仕事まで増やさないでほしい」


「頼まないよ」


 全部を任せられないから、役に立たないわけではない。


 何を確かめればいいかが分かる。


 それだけでも、何も分からないまま全員が門へ走るよりよかった。


 四種類の音を一つずつ試す。


 石製ゴーレムは仕掛けを戻し、通過用の器へ小石を入れた。


「これで終わり?」


「今回の僕の仕事はね」


「防衛を手伝っていかない?」


「嫌だよ」


 迷いがない。


「調整は終わった。住む気はないよ」


 エウリオは淡い人型ゴーレムを連れ、その日のうちに帰っていった。


     ◇


 次は、俺たちの試験だった。


 千代は、壁へ細く開けた狭間から外を確認する。


 門の外へ置いた印へ、刀の切っ先が届く位置を確かめた。


 リゼも隣の狭間へ立ったが、剣は持たない。


 右手の痺れは、まだ残っている。


 見える範囲と、死角だけを確認した。


 ヴィオラが縄を引く。


 上で留めていた障害物が外門前の道へ落ちた。


「一人でも落とせる」


「戻せる?」


「今すぐは無理」


 落とすのは早い。


 元へ戻すには、皆で持ち上げる必要があった。


 アヤメは観察位置から外門前を見て、第一退避路を戻る。


 続いて、途中を使えないことにして第二退避路へ回った。


「どちらも戻れます」


「外は全部見える?」


「いいえ」


 アヤメは、残った死角を紙へ印した。


 上の開口部からは、軽い木片を落としてみた。


 真下に誰もいないことを、声をかけ合って確認してからだ。


 自動で落ちる仕掛けにはしない。


 落とすかどうかも、下に誰もいないかも、人が決める。


 最後に残ったのが、ナーヴァの炎だった。


「弱くしてね」


「分かっておる」


「最初は、本当に弱く」


「分かっておると言ったであろう」


 ナーヴァが射線の入口へ立つ。


 成人の姿のまま、足の位置を変えた。


 肩を引き、顔をわずかに上げる。


 普段のような気軽さはない。


 出口と、途中の壁と、外に置いた濡れた土の塊を見比べている。


「皆、離れよ」


 短い炎が放たれた。


 真っすぐ石の道を抜け、外の土へ当たる。


「届いた!」


 ヴィオラが声を上げる。


「まだ近づくな」


 千代が止めた。


 射線の途中へ手を近づける。


 触れなくても、熱が分かった。


 隣の通路まで壁が熱くなっている。


「このまま続ければ、ここを通る者が火傷する」


「炎は届いたぞ」


「届いても、この熱では味方が通れないよ」


 俺は《領域構築》を開いた。


 壁を少し厚くする。


 熱が生活側へ抜けにくいよう、射線の周りへ空間を増やす。


 出口の向きもわずかに変えた。


 変更が終わり、石が冷えるまで待った。


 二度目。


 ナーヴァは、さっきより長く立ち位置を確かめた。


 片足を引く。


 腰を落とす。


 炎を吐く直前、胸を大きく開くように息を吸った。


 赤い髪が、先に流れ込む空気で揺れた。


 炎が走る。


 石の射線を抜け、濡れた土の塊を黒く焼いた。


 今度は隣の通路へ熱が漏れてこない。


 連続で使える回数も、もっと強い炎へ耐えられるかも分からない。


 それでも、今使った強さなら届いた。


 ナーヴァが射線の先を見る。


 真剣だった顔が緩んだ。


「門を開けずとも、我の炎は届くぞ」


 ものすごく嬉しそうだった。


 さっきまでの鋭い横顔。


 炎を通すために何度も変えた姿勢。


 力を抑えながら、身体全体で扱っていた動き。


 成人した女性の姿で圧倒的な炎を操っていたのに、成功した途端、褒められるのを待つように笑っている。


 その落差を。


 俺は、性的に意識した。


『《淫獄石》を400個獲得しました』


『所持《淫獄石》:2,900』


 通知は出た。


 でも、そこで立ち止まらない。


 射線の周囲に火が残っていないことを先に確認する。


 出口の土以外が燃えていないことも、観察位置からアヤメに見てもらった。


「夜斗」


 ナーヴァが俺を見る。


「今、増えたであろう」


「増えた」


「我の炎でか?」


「炎が届いたからじゃない」


「では、何じゃ」


「真剣に炎を扱ってたナーヴァが、いつもと違って見えた。あと、成功してすごく嬉しそうだったから」


「当然であろう。上手くいったのじゃぞ」


 否定しない。


 もう一度やってほしいとも言わなかった。


 試験は、確認できた強さまでで終わりにした。


     ◇


「完成した?」


 ヴィオラが聞いた。


 俺は城門を見る。


 音は鳴った。


 狭間から外を確認できた。


 遮断設備も落とせた。


 二本の退避路も通れた。


 炎も届いた。


「使えるようにはなった。でも、完成ではない」


 狭間には死角がある。


 遮断設備は、一度使えばすぐには戻せない。


 炎は、試した強さまでしか安全とは言えない。


 ゴーレムは決めた条件しか扱わない。


 警報は、来たものが敵か味方かを教えない。


 それでも、門を開ける以外の選択肢は増えた。


 そう確認した翌朝。


 低い音が、続けて鳴った。


     ◇


 一度。


 二度。


 三度目が鳴る前に、俺は立ち上がっていた。


「外門へ強い衝撃!」


 外門が開いた音ではない。


 迎撃通路を通った音でもない。


 内門へ触れた音でもない。


 何かが、外から門へぶつかっている。


 でも、それだけでは敵と決まらない。


 俺は壁門側へ走らず、通常入口を確認した。


 閉じている。


 能力表示にも、入口や領域の異常は出ていない。


「今いる者を確認します!」


 ファステの声が飛ぶ。


 ミネットと縁は学校。


 セリナは旅の途中。


 エウリオは自分の場所へ帰っている。


 最初からいない者を探さない。


 レイナは応急処置区画へ向かう。


 ヴィオラは遮断設備の縄を確認する。


 千代とナーヴァは、決めた迎撃位置へ進む。


 リゼは剣を持たず、内門側から全体を見る。


 俺も前へ走らない。


 誰がどこへ入ったかを確認する。


 外門へ、また衝撃があった。


 低い音が鳴る。


 アヤメが観察位置へ続く道の前で止まった。


 俺を振り返る。


「私への命令はありますか」


 一瞬、返事が遅れた。


 聞き間違いではない。


 アヤメは俺を見たまま、次を待っている。


 なぜ命令と呼んだのか。


 今、聞くことではなかった。


「敵を見て、皆に知らせて、それから必ず戻ってきて」


「承知しました」


 アヤメが観察位置へ入る。


 低い音が、もう一度鳴った。


 外門はまだ閉じている。


 迎撃通路の音もない。


 しばらくして、アヤメの声が伝声用の細い穴から届いた。


「見える範囲に四体。すべて小型です。灰色。二体が門へ爪を立てています。一体は蝶番側。もう一体は後ろを動いています」


「ほかには?」


「足音はあります。姿は見えません。正確な総数は分かりません」


「人は?」


「見えません。呼びかけもありません。門を叩いているのではなく、爪と牙で壊そうとしています」


 助けを求めている人間ではない。


 少なくとも、今見えているものは、門を壊して入ろうとしている。


「戻って!」


 返事の代わりに、観察位置から足音が離れた。


 第一退避路の扉が開く。


 アヤメが内門側へ戻ってきた。


「戻りました」


「うん」


 報告できたことより先に、その姿を確認した。


     ◇


「迎撃する」


 千代が狭間へ立つ。


 外門へ張りついた魔物の前脚が、細い隙間から見えた。


 千代の刀が狭間を通る。


 斬り払うのではない。


 狭い場所から、見えている部分だけを突く。


 刃が脚の付け根へ入った。


 魔物が門から離れる。


「右へ動いた!」


 アヤメが別の観察孔から伝える。


「ヴィオラ、今じゃ!」


 千代の声で、ヴィオラが縄を引いた。


 外門前へ障害物が落ちる。


 直接押し潰す位置ではない。


 魔物が門へ近づける道を、ナーヴァの射線側へ狭める位置だ。


「入ったぞ!」


 ナーヴァが息を吸う。


「千代!」


「こちらは退いた!」


 炎が石の道を走った。


 門は閉じたまま。


 その外で、灰色の影が赤く照らされる。


 短い悲鳴が重なった。


 炎は一度で止まる。


「まだ動いています。左へ二!」


 アヤメの声。


「上から落とす!」


 ヴィオラとファステが、上部の開口へ運んでいた木片を押した。


 その前に、千代が下を確認する。


「味方はおらぬ。落とせ!」


 重い音がした。


 一体の動きが止まる。


 もう一体が外門へ飛びついた。


 低い警報が鳴る。


 千代の刀が、再び狭間から突き出された。


 今度は炎を使わない。


 首の横へ刃が入る。


 灰色の身体が外門の前へ崩れた。


 残った足音が遠ざかる。


「追う?」


 ヴィオラが聞く。


「追わぬ」


 千代がすぐに答えた。


「見える範囲から離れています」


 アヤメも言う。


 外門は開けない。


 逃げたものを倒すことより、ここへ入れないことを優先する。


 迎撃通路を通った音は、最後まで鳴らなかった。


 内門へ触れた音もない。


 内門の脇に立つ黒い人型ゴーレムは、一度も動かなかった。


 仕事がなかったからだ。


 外門は破られなかった。


 リゼが剣を持たなくても。


 誰も外へ出なくても。


 俺たちの攻撃は、門の向こうまで届いた。


     ◇


 すぐには開けなかった。


 警報の記録を見る。


 迎撃通路の器に、小石は増えていない。


 観察孔から、動く影がないことを確かめる。


 音を聞く。


 時間を置く。


 それでも、新しい衝撃はなかった。


「開けるなら、短くだ」


 リゼが言った。


「戦うためじゃない。死骸と設備を確認するためだけ」


「我も行くぞ」


「外へは出ないで。門の内側から届く範囲だけ」


「むう」


 閉める者を決める。


 内門側にも人を残す。


 外門を、少しだけ開いた。


 焦げた死骸が二体。


 障害物の下に一体。


 門のすぐ前には、千代が倒した個体がある。


 ほかのものより形が残っていた。


 長柄の道具を使い、門の内側へ引く。


 素手では触れない。


 専用の布へ載せ、ほかの死骸や道具と混ぜない。


 食べられるとは決めない。


 毒がないとも決めない。


 素材になるとも決めない。


 ただ、前に拾った肉より新しい。


 種類を混ぜず、一体のまま隔離できた。


 ナーヴァが布の上を覗き込む。


「今度は焦げておらぬぞ」


「それは食べられるって意味じゃないからね」


「まだ何も言っておらぬ」


「顔に出てる」


 外門を閉じる。


 警報の仕掛けを戻す。


 落とした障害物は、すぐには元へ戻らない。


 炎の射線には煤が残った。


 千代の使った狭間にも、黒い血がついている。


 使った物を洗い、補充し、点検する仕事は残った。


 城が全部を終わらせてくれたわけではない。


「でも、守れたよね」


 ヴィオラが言った。


「うん」


 今度は、そう答えられた。


 音を聞いた。


 外を見た。


 敵だと確かめた。


 攻撃すると決めた。


 そして、全員が内側へ戻った。


 アヤメは第一退避路の出口を見ていた。


「アヤメ?」


「何でもありません」


 そう答えてから、ほんの少し間を置く。


「……必ず戻ってきて」


 俺が言った言葉を、確かめるように小さく繰り返した。


 意味は聞かなかった。


 今は、戻ってきたことだけでよかった。


 迎え撃つために、外門を開けることはなかった。


 誰も、戦うために門の外へ出なかった。


 見て、知らせて、撃って、戻った。


 皆で作った城は、初めて俺たちを内側に残したまま敵を退けた。


 城が勝手に守ったわけではない。


 音を聞き、外を見て、撃つと決めたのは俺たちだった。


 そして、安全を確かめた後に一度だけ開いた門から。


 今度は焦げていない一体だけを、ほかの死骸と分けて持ち帰った。

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