↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
179/190

第179話 千代と作る城

 門から作る。


 そう決めたものの、《領域構築》の図を見られるのは俺だけだった。


「そこを右へ」


「どのくらい?」


「敵が一人ずつしか通れぬ程度じゃ」


「ナーヴァも通れないくらい?」


「我を基準にするでない」


 ナーヴァが不満そうに言った。


「でも、皆が見えないものを見ながら話すのは無理だな」


 《領域構築》を閉じる。


 俺が見えている形を説明しても、右や左、広い、狭いだけでは同じものを想像できない。


 それに昨日、想像したとおりに壁ができても、使いやすいとは限らないと分かったばかりだ。


「書けばよい」


 千代が言った。


「城を?」


「全部を正確に描く必要はない。門と壁と道が、どのようにつながっておるか分かればよい」


 食堂から大きめの紙を持ってくる。


 机一つでは狭かったので、二つ並べた。


 炭を細く削り、俺が見えている城門区画を書き写していく。


 外門。


 その内側の曲がった通路。


 内門。


 壁上へ上がる階段と、空の詰所。


 新しくできた区画のうち、まだ何に使うか決めていない部屋。


「そこまで長いか?」


 リゼが紙を見る。


「図だと、これくらいに見える」


「実際に歩いて確かめよう」


 紙だけでは足りない。


 俺たちは城門区画へ移動した。


     ◇


 外門から内門まで、何歩あるかを数える。


 一人ずつ歩くと少しずつ違った。


 だから、正しい長さを決めるのではなく、誰が何を持って通れるかを確かめることにした。


 ヴィオラが一人で運べる物資箱を抱える。


 ファステとナーヴァが簡易担架を持つ。


 千代が木剣を使い、曲がった場所でどこまで振れるかを見る。


 リゼは右手を使わず、その動きを見ながら必要な間隔を指した。


「ここでは、槍なら壁へ当たる」


「剣なら?」


「振り回さなければ使える。ただ、後ろに別の者がいる時は危ない」


「我が炎なら当たらぬぞ」


「壁ごと焼く気か?」


「焼かぬようにする場所を作るのであろう」


「今日は位置だけ決めよう。実際に吐くのは、そこができてから」


 ナーヴァは口を尖らせた。


「我なら今でもできる」


「今できるかじゃなくて、どこなら皆を焼かずに使えるかを確かめたいんだよ」


「ならば、広くせよ」


「それも書いておく」


 千代が持ってきた小さな板へ、歩数と必要な幅を書いていく。


 数字だけでは分かりにくいところには、担架、箱、剣、ナーヴァと短く添えた。


「なぜ我だけ名前なのじゃ」


「ほかに書きようがないから」


「竜でよい」


「今は人の姿で通る幅を測ってるだろ」


 ナーヴァ本人と書き直すと、余計に不満そうな顔をされた。


     ◇


 食堂へ戻り、確認した幅を紙へ足していく。


「こういうのは?」


 俺は外門と内門の間へ、細い通路を何本も書いた。


「入ってきた敵が迷う。行き止まりも作って、壁の向こうから攻撃する」


「却下じゃ」


 千代がすぐに言った。


「早くない?」


「では聞くが、外門側へ出た者は、どの道から戻る?」


「来た道を戻ればいい」


「敵がその道へ入ってきたら?」


「別の道」


「その別の道を、夜に負傷者を担いで迷わず選べるのか?」


 紙の迷路を見る。


 作った俺でも、一度目で正しい道を選べる気がしなかった。


「印を付ける」


「煙で見えぬ時は?」


「壁の形を変える」


「担架を持ったまま触って分かる形にするなら、一案ではある。だが、毎日の荷物まで迷路へ通すつもりか?」


 食料。


 水。


 修理道具。


 城門側へ運ぶものは、襲撃時だけに限らない。


 敵が進みにくいことだけを考えると、俺たちまで進みにくくなる。


 昨日作った狭い部屋と同じだった。


「敵が進みにくいだけでは足りぬ」


 千代が、迷路の上へ一本の線を引く。


 外門側から、内門側へ戻る線だった。


「味方が戻りやすくなければ、防衛線ではなく罠じゃ」


「じゃあ、迷わせるんじゃなくて、遅らせる?」


「そうじゃ。どこで止め、どこを捨て、どこへ戻るかを先に決める」


「捨てるの?」


「門は壊れる」


 千代は外門を指した。


「昨日も傷んだ。今より強くしても、決して壊れぬとは言えぬ」


「壊れない門を作れないかな」


「壊れぬと思って作れば、壊れた時に全てが終わる」


 外門が破られた時。


 門の近くにいる者は、内側へ退く。


 門内通路で敵を遅らせる。


 それでも止められなければ、内門を閉じる。


 さらに内側で、次の防衛線を作る。


「三つに分けるのか」


「外を見る場所。敵を止める場所。そこを失った後に守る場所じゃ」


 千代の指が、紙の上を順番に進んだ。


 外門だけを厚くするより、負けることを先に考えている。


 でも、負けるのは全部ではない。


 一つを捨てて、次へ戻るためだった。


     ◇


 道を分ける。


 戦う者が前へ向かう道。


 負傷者を内側へ運ぶ道。


 日常の物資を運ぶ道。


 完全に別々にはできない。


 城の広さにも限りがある。


 それでも、曲がり角で正面からぶつからないように入口をずらすことはできた。


「担架はこちらから真っすぐ入れたいですわ」


 レイナが、応急処置に使う予定の空区画を指す。


「その隣へ、水と布を置ける場所があれば」


「大きな倉庫を一つ?」


「大きいと、私一人では全部運べないよ」


 ヴィオラが言った。


「箱を小さくして、何か所かに置こう。ここが使えなくても、別の箱を取れるように」


「日常で使う物まで、遠い場所へ置かないでくださいませ」


 ファステも紙へ指を置く。


「襲撃がない日の方が多いのです。厨房から必要な物を運ぶたびに、門の近くを回ることになっては困ります」


 防衛のための道が、毎日の邪魔になる。


 そうなれば、使われなくなる。


 使われない道は、いざという時にも使えない。


 紙へ線を引いては消す。


 消しては、実際の通路をもう一度歩く。


 食堂と城門区画を何度も往復するうちに、最初の迷路はほとんど残らなくなった。


     ◇


「ここなら、外門の前まで見られます」


 アヤメが示したのは、壁の内側へ細く張り出した位置だった。


 外門を開けなくても、隙間から外を見られる。


 敵の数や動きを確かめるにはいい。


「戻る道は?」


 俺が聞く。


「同じ道を戻ります」


「外門を越えられたら?」


「こちらへ回り込まれる前に退きます」


「間に合わなかったら?」


 アヤメが紙を見る。


 観察する場所は、よく見える。


 その分、外門に近い。


 外から敵が入れば、内門へ戻る道とぶつかる。


「もっと見えるように、高くすることはできると思う」


「その場合、降りる時間が増えます」


「じゃあ、見える範囲は減ってもいい」


 観察位置を少し内側へ下げる。


「観察できることより、戻れることを先にする」


「取れない情報が増えます」


「取れない情報より、アヤメが戻る方がいい」


 アヤメはすぐには答えなかった。


 紙の上の観察位置と、内門を見比べる。


「では、ここから短い退避路を」


 アヤメが自分で線を引いた。


 内門側へ戻る最短の道。


 ただし、その道を敵に塞がれた時は使えない。


「もう一つ要ります」


「どこへ?」


「こちら側へ回り、第二防衛線の後ろへ出ます。ただし、生活区域と通常入口は見通せないように曲げてください」


 二本目の道を作る。


 出口は、負傷者を運ぶ道と重ねない。


 救援へ向かう者とも正面からぶつからない位置へずらす。


「内門が閉じた後、外側へ残ったら?」


 リゼが尋ねる。


「内門を開け直さなくても、一人ずつ戻れる入口が必要です」


「敵も入らない?」


 ヴィオラが聞く。


「開け放した道にはしません。内側から確認し、通すか決められる形が必要です」


 アヤメの案を、俺が《領域構築》の図へ重ねてみる。


 形は出る。


 領域の中へ収まっている。


「作れそう」


「観察位置も?」


「うん。でも、先に戻る道から作る」


 アヤメが俺を見る。


「なぜですか」


「観察する場所だけ先にできたら、使いたくなるだろ」


「使うかは私が決めます」


「だから、使うって決めた時に戻れるようにしておきたい」


 アヤメは紙へ視線を戻した。


「……二本目の出口を、もう少し内側へ」


「分かった」


 それ以上は何も言わなかった。


     ◇


 石製の小さなゴーレムを置く場所も紙へ書いた。


 外門の異常を確かめやすい位置。


 黒い人型ゴーレムが、内門を塞がずに待てる位置。


「ここへ動かすの?」


 ヴィオラが尋ねる。


「まだ動かさない」


「場所は作るのに?」


「エウリオの物だから。警報を手伝ってもらえるか、ここで待ってもらえるかは、エウリオに聞いてから」


「断られたら空くね」


「その時は別の使い方を考える」


 置ける場所を用意することと、置いていいことは別だった。


 壊れたところを勝手に直すこともしない。


 命令も変えない。


 今決めるのは、置くなら邪魔にならない場所だけだ。


     ◇


 紙は、線と書き込みで黒くなっていた。


 消した跡も多い。


 俺は《領域構築》を開き、紙の案を一つずつ図へ重ねていく。


「外門を抜かれたら、ここで止める」


「そこではない」


 千代が俺の隣へ寄った。


 紙の上へ腕を伸ばす。


「ここじゃ」


 肩が触れそうな距離で、迷いなく一本の線を指した。


「そこは、さっき捨てるって言ってなかった?」


「捨てるからこそ、止める時間を決める。最後まで守ろうとすれば、退く者が遅れる」


「じゃあ、ここにいる人が戻ったら閉じる?」


「違う。戻り始める前に次を開けておく。閉じる者だけを最後に残すな」


 千代の横顔は、紙から動かない。


 いつもより声が低い。


 外門が壊れた時のことを話しているのに、迷いがなかった。


 誰を前へ出すかではなく、どう戻すかを先に決めている。


 俺が思いついた形へ、千代が戦える理由と、捨てられる場所と、帰れる道を与えていく。


 近い。


 そう意識した途端、髪の流れや、紙へ伸ばした指や、真剣な目まで急に目に入った。


 普段と違う千代だった。


 いや、違うんじゃない。


 俺が今まで、こういう顔を長く見る機会がなかっただけだ。


『《淫獄石》を900個獲得しました』


『所持《淫獄石》:2,500』


「……夜斗」


「はい」


「今、話を聞いておったか?」


「聞いてた」


「ならば、今の間は何じゃ」


 通知は千代には見えない。


 でも、俺の目が止まったことは見えていたらしい。


「石が増えた」


「なぜじゃ」


 ごまかしても、次に同じことが起きれば分かる。


「真剣に城を考えてる千代が、いつもと違って見えた」


「それで九百か?」


「あと、近かった」


 千代が、自分と俺の間を見る。


 一歩離れた。


「ごめん」


「何を謝っておる」


「近い方がいいとか、続けてほしいとかは言わない」


「当然じゃ」


 千代は紙を持ち、自分の立ち位置からでも届く場所へ引き寄せた。


 それから、また線を指す。


「我が続けると決めた。おぬしは今度こそ話を聞け」


「うん」


 近くにいる理由を、石のために増やさない。


 千代が離れても、設計する内容は変わらなかった。


     ◇


 できた案を、最初から全員へ読み返す。


 外門。


 曲がった門内通路。


 内門と、その奥の第二防衛線。


 前へ向かう道と、負傷者を戻す道。


 普段の物資を運ぶ道。


 応急処置に使う区画と、その近くへ分けて置く小さな物資箱。


 リゼと千代が、門を開けずに攻撃するための予定位置。


 ヴィオラが遮るための仕掛けを扱う位置。


 ナーヴァが炎を通せそうな場所。


 アヤメが外を見られる位置と、そこから戻る二本の道。


 ゴーレムを置くなら使える空間。


「炎の道は、もっと真っすぐじゃ」


 ナーヴァが言った。


「曲がっていたら駄目?」


「威力が落ちる。途中へ熱も残る」


「じゃあ、射線は真っすぐ。ただし、人が通る道とは壁で分ける」


「壁が熱へ耐えるかも確かめよ」


「それは作ってからだな」


 リゼは、壁際の攻撃位置を一つ減らした。


「ここへ人を置くと、退く者を塞ぐ」


 レイナは、応急処置区画の入口を少し広げた。


 ファステは日常の搬入路から厨房まで、箱を持って歩けるかをもう一度確かめると言った。


 ヴィオラは、遮断設備を一人で動かせなければ意味がないと付け足した。


 紙の形を直す。


 《領域構築》の図も直す。


 俺と千代だけで作った案ではなくなっていく。


 その方がよかった。


     ◇


「全部を同時に変えるのはやめよう」


 最後に俺は言った。


「変更中は入れない。城門区画をまとめて変えたら、その間に敵が来ても使えなくなる」


「今使える門は残すべきじゃな」


 千代がうなずく。


「一つ作って、入れるようになったら確かめる。それから次」


 最初は、現在の門と仮設柵を大きく動かさずに済む場所を選ぶ。


 城門区画の空いている側。


 負傷者を運ぶ道と、アヤメの第二退避路の一部になる場所だ。


 中に誰もいないことを確認する。


 置いてあった箱を出す。


 仮設柵は今の防衛線へ残す。


 リゼと千代は、変更中も門側を警戒できる位置にいる。


 ナーヴァも、まだ炎を試さず待つ。


 俺は《領域構築》を開いた。


 皆で作った線を、構造図へ重ねる。


 搬送路の幅。


 曲がり角。


 退避路の出口。


 生活区域を直接見せない壁。


 この形で、皆が戻れる城にする。


 そう決めると、変更案が図へ沈んだ。


 空いた区画の境界へ、淡い光が浮かぶ。


 床の下から、低い振動が伝わってきた。


 まだ、城門は完成していない。


 警報も、見張りも、迎撃するための仕掛けもない。


 けれど、最初の道は作り始めた。


 千代と作ったのは、敵を逃がさない城ではなかった。


 戦う者も、負傷した者も、見張りに出た者も。


 皆が内側へ戻るための城だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。