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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

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第178話 作り直せる

 《領域構築》を見つけたからといって、その場では使わなかった。


 もう夜だった。


 領域が揺れ、城になり、全員で中を歩いた後でもある。


 何が起きるか分からない能力を、疲れたまま試す理由はない。


 外門は閉じている。


 警報も鳴っていない。


 交代で城内の様子を確かめることだけ決め、俺たちは一度休んだ。


 翌朝。


 リゼの右手には、まだ少し痺れが残っていた。


 広がってはいない。


 熱も昨日より弱い。


 治ったとまでは言わず、今日も刃を持たないことになった。


「それで、作り直せるのか?」


 食事を終えると、リゼが尋ねた。


「たぶん」


「まだ、たぶんなの?」


 ヴィオラが言う。


「説明がないんだよ」


 《領域構築》を開く。


 視界へ、城全体を上から見たような図が浮かぶ。


 邸宅。


 外壁。


 二つの門。


 塔と階段と通路。


 昨日見たものが、線と面に分かれている。


 でも、何を押せば何が起きるのかは書かれていない。


 操作の名前もない。


「今、見えているのは?」


 千代が聞く。


「昨日と同じ。城の形」


「変える方法は?」


「分からない」


 図の中の、何も置かれていない部屋へ意識を向ける。


 新しくできた空の区画だ。


 ここに壁があれば。


 そう考える。


 部屋の中央へ、薄い線が重なった。


「……できそう」


「何が?」


「今、壁を置きたいって考えたら、図に壁みたいな線が出た」


「置くという項目が出たのか?」


「項目はない。そうしたいって考えたら、そういう形になった」


 説明されたわけではない。


 でも、ここへ壁を置きたいと思えば、その形が図へ重なる。


 線をずらしたいと思えば、少し動く。


 扉が欲しいと思えば、線の一部へ切れ目ができる。


 何となくできそうだった。


 何となくしか分からなかった。


     ◇


 最初に試す場所を決める。


 新しくできた空区画の一つ。


 誰も使っていない。


 家具も、物資もない。


「一度、中を確かめます」


 アヤメが先に入る。


 床、壁、天井、奥の隅を見る。


「人はいません。物もありません」


 アヤメが出た後、千代も確認する。


 最後に俺が中へ入り、何もないことを自分でも見た。


 全員で外へ出る。


「この部屋を、二つに分けてみる」


「なぜ二つなのじゃ?」


「元へ戻せなくても、空の部屋が二つになるだけだから」


「壁を増やすだけなら、外へ影響もしにくいな」


 リゼが言った。


 図の中へ、壁と扉の形を重ねる。


 この形で変えたい。


 そう思うと、短い表示が出た。


『変更中の区画へは立ち入れません』


 それだけだった。


「変更中は入れないって」


「どのくらいかかる?」


「書いてない」


「戻せるかは?」


「それも書いてない」


「本当に不親切だね」


 ヴィオラが空の部屋を見る。


「やめる?」


「いや。何もない場所で、小さい変更から試す」


 もう一度、全員が区画の外にいることを確認する。


 この形で作り直す。


 そう決めると、重ねた形が図へ沈んだ。


     ◇


 壁は、すぐには現れなかった。


 部屋の入口へ、薄い光の線が浮かぶ。


 その向こうで床が低く震え始めた。


 昨夜ほど大きくない。


 それでも、内側で何かが動いている音はする。


 部屋へ手を伸ばす。


 光の線へ触れる前に、指先が止まった。


 硬い壁ではない。


 見えない何かに、入ることだけを拒まれている。


「本当に入れない」


「そなたが入れぬのか?」


 ナーヴァが近づく。


「試さなくていい」


「なぜじゃ」


「俺より強く押したら、何が起きるか分からないから」


「壊すつもりはないぞ」


「今は入れないって分かれば十分」


 ナーヴァは不満そうだったが、光の前で止まった。


 少し待つ。


 まだ終わらない。


「警報が鳴ってから作るのは無理そうだな」


 リゼが言う。


「敵が来てから壁を出しても、完成する前に通られる」


「敵の周りへ壁を作ればよいのではないか?」


 ナーヴァが尋ねる。


「それも試す?」


「我を敵役にするでない」


「言い出したのはナーヴァだろ」


 今いる通路の区画へ意識を向ける。


 俺たちが立っている場所だ。


 ここに壁を作る形を思い浮かべる。


 図へ線は重ならなかった。


 代わりに、短い文字が出る。


『区画内に生体を確認しました』


「生きてるものがいる場所は、始められないみたいだ」


「ならば、敵を壁で挟むこともできぬな」


「たぶん」


「たぶん、か」


「実際の敵で試す気はないから」


 少なくとも、俺たちがいる場所には変更の形すら出なかった。


 生き物を外へ出して、空にしてから変える必要がある。


 戦っている最中に、敵の足元だけ消すこともできそうにない。


 便利ではある。


 戦闘中に何でも解決できる力ではなかった。


     ◇


 待っている間に、城内をもう少し確認する。


 ただし、変更中の部屋から離れすぎない。


 異常が起きれば止められるかもしれない。


 止め方は分からないが、誰もいないよりはいい。


 隣には、物資を置けそうな空区画がある。


 そのさらに隣は、昨日まで使っていた倉庫につながっていた。


 既存の倉庫を図の上で選ぶ。


 中にある箱までは、何が入っているか分からない。


 ただ、小さな印がいくつも残っている。


 部屋を広げる形を重ねようとすると、文字が出た。


『区画内の物品は移動されません』


「物は動かしてくれない」


「壁だけ動かしたら、箱は?」


 ヴィオラが尋ねる。


「そのままみたい」


「壁の場所に箱があったら?」


「分からない」


「なら、先に全部出した方がいいよ」


「うん」


 試さない。


 箱を壁へ埋めたり、壊したりしてから分かっても遅い。


 倉庫の変更は取り消す。


「何もない部屋から試してよかったです」


 ファステが言う。


「食料庫で始めていたら、確認のために全部を運び出す必要がありました」


「変更中に取り出せなくなる可能性もありますわね」


 レイナも光の境界を見る。


 使う場所を変えるなら、中身を先に動かす。


 移動先も決める。


 変更している間に必要にならないかも考える。


 壁を動かすだけでも、先にすることは多かった。


     ◇


 低い振動が止まった。


 入口の光も消える。


 すぐには入らない。


「終わった表示は?」


 リゼが尋ねる。


「ない」


「また何も言わぬのか」


 千代が扉の外から中を見る。


 昨日までは一つだった部屋の中央に、壁ができている。


 指定した位置に扉もあった。


 まず、細い棒を差し入れる。


 床に触れる。


 何も起きない。


 千代が先に入り、左右を見る。


 俺たちも続いた。


「本当に分かれた」


 ヴィオラが新しい壁を叩く。


「薄くない。普通の壁だね」


「普通かどうかは、壊してみなければ分からぬ」


「今は壊さないで」


 同じ広さだった部屋が、二つの細長い部屋に分かれている。


 図の上では十分に見えた。


 実際に入ると、狭い。


 ナーヴァが腕を広げる。


「我には狭い」


「今は人の姿だろ?」


「人の姿でも狭い」


 簡易担架を持ち込む。


 真っすぐ入ることはできる。


 でも、中で向きを変えられない。


「治療場所には使いにくいですわ」


 レイナが言う。


「物を置くなら?」


 ヴィオラが壁際を見る。


「棚を置いたら、人が通れなくなる」


 壁は、考えた位置へできた。


 だからこそ、考えた形が悪ければ、そのまま使いにくい場所になる。


「戻せるかな」


 図を見る。


 中央の壁をなくした形を思い浮かべると、元の一室に近い形が重なった。


「戻せそう」


「今すぐ戻す?」


「今日は残す。作った場所が時間で変わらないかも見たい」


 表示だけでは、本当に元へ戻せるか分からない。


 次に試す時まで、このまま観察する。


     ◇


 能力を使う前後で、《淫獄石》を確認した。


 所持数は、1,600個。


 減っていない。


「石は使わないみたい」


「無料なの?」


 ヴィオラが反応する。


「今回の壁一枚では減らなかった、まで」


「塔を増やしても同じかは分からぬか」


「うん。同時にいくつ変えられるかも分からない」


 時間がかかる。


 変更中は入れない。


 中身は動かない。


 それだけでも、好きなだけ使っていいとは言えなかった。


 次に、構造図の外側を見る。


 外壁の向こう。


 《万物迷宮》へ続く側へ、もう一本壁を増やす形を思い浮かべる。


 何も出ない。


 城壁を外へずらそうとしても、図は動かなかった。


「外には作れない」


「どこまでが外じゃ?」


「この図に出てる《淫獄》の外」


「《万物迷宮》を壁へ変えることも?」


「できないみたい」


 現地世界を取り込むこともできないだろう。


 今ある《淫獄》の中だけ。


「外側を勝手に城へ変えられたら、防衛ではなく侵略じゃ」


 千代が言う。


「オルカと同じことになるかもしれないな」


 欲しいから、自分の領域へする。


 それができないことに、少しだけ安心した。


     ◇


 構造図を動かしているうちに、邸宅の個室も選べることへ気づいた。


 リゼの部屋へ意識を向ける。


 隣の空間を少し取り込み、広くする形を思い浮かべることはできた。


「リゼ」


「何だ?」


「部屋、広げられそうだけど変える?」


「なぜ?」


「できるから」


「必要ない」


「分かった」


 重ねた形を消す。


「それだけか?」


「本人がいらないって言ったから」


「なら、それだけだな」


 ミネットの部屋も図にはある。


 でも、選ばない。


 本人は学校にいる。


 聞けないまま変える理由はなかった。


 ヴィオラが俺の顔を見る。


「私の部屋は?」


「変えたい?」


「今はいい。でも、勝手に狭くしないでね」


「しないよ」


「夜斗の近道のために、私の部屋を通路へしない?」


「しない」


 まだ考えていなかった。


 考えていなかったが、先に禁止された。


     ◇


 できることが分かり始めると、構造図を見るのが面白くなった。


 門から邸宅までを、もっと曲げる。


 見張り台を増やす。


 倉庫を小さく分ける。


 外門から入った者を迷わせる通路を作る。


 誰にも見つからず壁上へ出られる道。


 邸宅から浴室までの近道。


 自分の部屋から厨房へ直接行ける通路。


「最後の二つは防衛か?」


 ナーヴァに聞かれた。


「生活改善も拠点づくりだから」


「そなたが楽をしたいだけではないか?」


「毎日使う道が短いのは、皆にも便利だろ」


「厨房へ直接行きたい者は、そなたと我くらいじゃ」


「ナーヴァにも便利じゃん」


「ならば、風呂への道も我の部屋から近くせよ」


「いいね」


 新しい形を考える。


 頭の中へ浮かべるだけなら、いくらでもできた。


「夜斗」


 千代に呼ばれる。


「何?」


「今、我らの話を聞いておるか?」


「聞いてる」


「では、レイナは何と言った?」


「……治療場所」


「どのような?」


 答えられなかった。


「聞いておらぬではないか」


 構造図を閉じる。


「ごめん」


 レイナは怒っていなかった。


 ただ、もう一度説明してくれる。


「担架を曲げずに入れられて、入口で物資を運ぶ方とぶつからず、水と清潔な布を近くへ置ける場所が必要ですわ」


「壁を作ればいいだけじゃないんだな」


「負傷者を運ぶ者と、治療する者と、物を持ってくる者が動きますもの」


 俺には、部屋を作れる。


 その部屋を使う時に、誰がどこから来るのかまでは分からない。


     ◇


 全員の希望を、改めて聞く。


 千代は、敵を止める場所だけでなく、そこを捨てて戻る道と、次に止める場所が必要だと言った。


 リゼは、前線へ向かう者と負傷者を運ぶ者が同じ通路で正面からぶつからないようにしたい。


 アヤメは、外門側を見られる位置より先に、見つかった時に生活区域を見せず内門へ戻れる道を求めた。


 ファステは、毎日の食料や衣類を運ぶ道を、防衛時だけ使える細い通路へ押し込めないでほしいと言った。


 レイナは、担架と治療用品が別方向から同時に入れる場所。


 ヴィオラは、一人で運べる箱を分けて置き、必要な箱だけをすぐ取り出せる倉庫。


 ナーヴァは、人の姿でも急いで通れる幅と、味方や物資を焼かずに炎を使える場所。


 全部を同時に満たす形は、すぐには浮かばなかった。


「自由に作れるようになった」


 俺は言った。


「ならば、なぜ閉じた?」


 ナーヴァが尋ねる。


「皆が使う場所を、俺一人で勝手に決めたくないから」


「先ほどまで勝手に道を増やそうとしておったぞ」


「考えてただけ。実行してない」


「考えている間、話は聞いておらなんだ」


「それは反省してる」


 千代が小さく息を吐いた。


「では、何から決める?」


「門から」


 昨日、魔物が来た場所。


 今後も最初に敵とぶつかる場所。


 そこから生活区域へ入れないための形を、最初に作る。


「千代、手伝ってくれる?」


「我だけで決めるつもりはないぞ」


「うん。皆の話を聞く。千代には、戦う場所としてまとめてほしい」


「ならば手伝おう」


 作り直せる。


 その言葉だけなら、何でもできるように聞こえた。


 けれど、俺にできるのは場所の形を変えることだけだった。


 そこで誰が、どう生きて、どう戦い、どう帰るのか。


 それを一人で決める能力ではなかった。

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