↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
175/190

第175話 門を叩くもの



 訓練の翌日、俺たちは見つかった問題を書き直していた。


 担架と物資を別の道へ分ける方法。


 邸宅玄関へ全員を集めず、所在だけを確認する方法。


 仮設柵を、逆方向から来た者同士がぶつからずに通る方法。


 考えることは増えた。


 けれど、柵の位置をまた変える前に。


 石製ゴーレムの警報が鳴った。


 高く短い鐘ではない。


 訓練の音とは違う。


「本物だ」


 俺が立ち上がる。


 続いて、遠くで重い音がした。


 壁門へ何かがぶつかっている。


 一度。


 二度。


 三度目は、少し低い位置から響いた。


 同じものが繰り返している音ではない。


 別々の場所から、何かが門を叩いていた。


     ◇


 俺は壁門へ走らなかった。


 先に通常入口を見る。


 閉じている。


 領域や入口に関する異常表示はない。


 石が増えた通知も出ていない。


 今、確認する必要があるものだけを見る。


「通常入口は閉じてる!」


 通路へ声を出す。


「確認しました!」


 ファステの返事が聞こえた。


 ファステは住民の所在を確かめる。


 ミネットと縁は学校。


 セリナは旅の途中。


 エウリオは自分の家にいる。


 最初からここにいない者を、行方不明として探さない。


 レイナは共用区画の家具を動かし、治療場所を空ける。


 ヴィオラは、一人で運べる物資箱を持った。


 リゼ、ナーヴァ、千代は壁門側へ向かう。


 アヤメも外套を羽織り、短い刃物と布を持った。


「行くの?」


「私が確認へ行くと決めました」


「戻る場所は?」


「最初の仮設柵の内側」


「奥まで追わない?」


「壁門の外へは出ません」


 前に決めたことを確認し、アヤメが先へ進む。


 全員が同じ通路へ一度に入らない。


 訓練で詰まった場所を思い出し、順番をずらす。


 まだ完全には直していない。


 それでも、訓練をする前よりは動けていた。


     ◇


 壁門へぶつかる音が続く。


 近づくほど、一つの音ではないと分かった。


 上の方で、硬いものが壁を引っかく。


 下では、何かが噛みついているような細かい振動が続く。


 蝶番の近くへ、重い身体が何度も当たる。


「一体ではないな」


 リゼが言った。


「何体じゃ?」


 千代が尋ねる。


「見えない」


 門は閉じている。


 警報が鳴ったことは分かる。


 でも、警報は数も種類も教えない。


「静かに」


 アヤメが門の近くで片膝をついた。


 耳を澄ませる。


 門の下部で走る足音。


 壁を擦る音。


 重い体当たり。


「少なくとも六」


「見えておらぬのに分かるのか?」


「足音と、門を叩く位置が重なっています」


 アヤメは門の左側を見る。


「下に複数。蝶番側に一つ重い音。上か壁際にも二つ以上。離れて動く足音もあります」


「六体で決まり?」


「正確な数とは言っていません」


 音から推定しただけだ。


 外に六体しかいないと決めることはできない。


 その時、蝶番の近くで木と金属がきしんだ。


「下がれ!」


 リゼが叫ぶ。


     ◇


 壁門の端が、内側へ少し歪んだ。


 細い隙間ができる。


 灰色の前脚が差し込まれた。


 鉤のような爪が床を引っかく。


 リゼが刃を振るった。


 前脚が落ちる。


 外側から短い鳴き声が上がった。


 すぐ、別の頭が同じ隙間へ押し込まれる。


 小さい。


 以前見た灰色の魔物に似ている。


 ただし、同じ個体ではない。


 頭を無理にねじ込み、肩まで入る。


 門の隙間がさらに広がった。


「来るぞ」


 リゼが一歩下がる。


 魔物が内側へ転がり込んだ。


 すぐに起き上がり、邸宅の方へ走ろうとする。


 最初の仮設柵へぶつかった。


 柵が揺れる。


 魔物は正面から押し、通れないと分かると横へ向いた。


 曲がる。


 その数秒で、千代が間合いへ入った。


 刃が灰色の首へ入る。


 魔物が倒れた。


「役に立った」


 ヴィオラの声が後ろからする。


「まだ見るな!」


 リゼが言う。


 次の個体が隙間へ身体を押し込んでいた。


 門の外からの体当たりも止まらない。


 仮設柵は敵を倒していない。


 完全に止めてもいない。


 でも、千代が来る時間を作った。


 廊下の奥から重い足音が響く。


 ナーヴァと人型ゴーレムが到着した。


     ◇


「焼けば早い」


 ナーヴァが口元へ炎を集める。


「私たちまで焼くな」


 リゼが言った。


 門の隙間の正面には、リゼと千代がいる。


 少し後ろには木製の仮設柵。


 布を入れた物資箱も近い。


 外へ向けて広く炎を吐けば、敵だけを焼けない。


「だから今は焼けぬ」


 ナーヴァは炎を飲み込んだ。


 隙間へ顔を近づけるのではなく、少し横へ立つ。


 リゼと千代が離れた瞬間を待つ。


「今じゃ」


 千代が声を出した。


 ナーヴァが短く炎を吐く。


 細い炎が、開いた隙間へ入った。


 外から複数の鳴き声が上がる。


 体当たりが一度止まった。


 だが、門全体を焼いたわけではない。


 少し離れた場所から、また爪が壁を引っかき始める。


「もっと広く焼ければ終わる」


「今は無理だ」


「分かっておる」


 ナーヴァは不満そうだったが、次の機会を待った。


 強い炎があっても、通す場所がなければ使えない。


     ◇


 隙間へ、今度は少し大きな個体が入ってきた。


 四足で、背が低い。


 肩と頭に短い針が並んでいる。


 顎の後ろには、左右へ膨らんだ部分があった。


 牙と口元に、濁った液体が付いている。


「触れるな!」


 アヤメが叫んだ。


 魔物がリゼへ飛びつく。


 リゼは牙を避けた。


 刃を横から入れる。


 魔物の前脚が跳ねた。


 針の一本が、リゼの腕を浅くかすめる。


 外套の袖が切れた。


 皮膚に細い傷ができる。


 リゼはそのまま魔物を蹴り、仮設柵へ押しつけた。


 人型ゴーレムが首を固定する。


 千代がとどめを刺した。


「傷を見せて」


 アヤメが近づく。


「浅い」


「深さだけで決めないで」


 リゼの指が、わずかに震えていた。


「熱いか、冷たいか、痺れるか」


「傷の周りが熱い。指先が少し痺れる」


「握れる?」


 リゼが手を握る。


 完全には閉じなかった。


「下がって」


「まだ戦える」


「戦えることと、今戻るべきことは別だ」


 俺は通常入口側から声を出した。


 前へは行かない。


 でも、報告は聞こえている。


「握れない手で戦って、次も浅い傷で済むとは限らない」


 リゼが俺を見る。


 反論しようとして、痺れた手をもう一度握った。


「……分かった」


 レイナが治療場所から迎えに来る。


「傷を口で吸わないでください」


 アヤメが言った。


「しない」


「水で流して。使った布と、触れた装備はほかと分けて」


「毒なのか?」


 千代が尋ねる。


 アヤメは倒れた魔物を見る。


「牙と針に液体が付いています。顎の後ろの膨らみも、毒を作る器官に見えます」


「見えるだけ?」


「知っている毒に似ています。似ているだけで、同じとは決めません」


 アヤメは素手で死骸へ触れなかった。


 液体の色。


 リゼの傷の熱。


 痺れと握力の低下。


 牙と針。


 見えたものから、危険を推定している。


 どんな毒でも分かる能力ではない。


「同じ形の個体が、外にいるか確かめます」


 アヤメが門の隙間へ向かった。


     ◇


 リゼは治療場所へ下がった。


 前線には千代、ナーヴァ、人型ゴーレムが残る。


 ヴィオラは仮設柵へ結んだ縄を握った。


 次の小型個体が隙間から入り、柵を回ろうとする。


「今?」


「待て」


 千代が敵の位置を見る。


 魔物が柵の端へ身体を寄せた。


「引け!」


 ヴィオラが縄を引く。


 壊れかけていた柵が横へ倒れた。


 魔物の前脚へぶつかる。


 完全には押さえられない。


 それでも姿勢が崩れた。


 千代が斬る。


 人型ゴーレムが別の一体を壁へ押さえつける。


 ナーヴァは二人とゴーレムの位置を確認し、空いた隙間へ短く炎を放った。


 リゼがいなくても、前線は崩れなかった。


「右の壁際に一体!」


 治療場所からリゼの声が飛ぶ。


 直接戦わず、聞こえた音と見える範囲から敵の動きを伝えている。


「次は下から来る。門の右側が浮いている!」


 千代が位置を変える。


 リゼは刃を持たなくても、戦線から消えたわけではなかった。


     ◇


 アヤメは門の隙間近くに残っていた。


 外側を直接のぞき込まず、床へ落ちる液体と、隙間へ近づく魔物の口元を見る。


「膨らみがある個体は、ほかにもいる?」


 俺が尋ねる。


「一体、似た影が見えました。もう一体は不明」


 門へ重い体当たりが来た。


 壁門が揺れる。


 アヤメのすぐ横で、木片が落ちた。


「下がって!」


「まだ数が――」


 アヤメはその場へ残る。


 次の衝撃で隙間が広がった。


 灰色の牙が見える。


「アヤメ、戻れ」


「毒持ちが何体いるか確認できれば、前の三人へ――」


「もう十分だ」


 アヤメがこちらを見る。


「情報より、アヤメが戻る方が大事だ。戻れ」


 お願いではなかった。


 アヤメが一瞬、動きを止める。


 次の瞬間には身を翻し、最初の仮設柵の内側まで退いていた。


 自分でも、動いてから気づいたように足元を見る。


「アヤメ!」


「戻りました」


 短い返事だった。


 なぜすぐ従ったのか。


 俺にも、アヤメにも分からない。


 今はそれでよかった。


 命令を聞かせたことより、アヤメが戻ってきたことの方が大事だった。


     ◇


 門の隙間から、最後の中型個体が入った。


 千代が正面を避ける。


 ナーヴァが横から短く炎を浴びせる。


 灰色の毛が燃え、魔物が仮設柵へ突っ込んだ。


 柵の一本が折れる。


 それでも、直進は止まった。


 人型ゴーレムが身体を押さえる。


 千代の刃が首へ入った。


 魔物が床へ崩れる。


 門の外では、まだ足音がしていた。


 ナーヴァが隙間へ向けて炎を見せる。


 今度は吐かない。


 近づけば焼かれると分かったのか、爪の音が止まった。


 足音が遠ざかる。


 一つ。


 もう一つ。


 最後まで残っていた重い足音も、やがて聞こえなくなった。


「追うか?」


 千代が尋ねる。


「追わない」


 俺は答えた。


 生活区域へ入れないことが目的だ。


 逃げた敵を全部倒すことではない。


     ◇


 音が消えても、すぐ壁門は開けなかった。


 全員の所在を確認する。


 重傷者はいない。


 リゼの腕には熱と痺れが残っているが、症状は広がっていない。


 レイナが経過を見ている。


 仮設柵は一本が折れ、もう一つも大きくずれていた。


 壁門の蝶番付近は歪んでいる。


 端の隙間も、襲撃前より広い。


 水と清潔な布を使った。


 壁門近くへ置いた布の一部には、魔物の体液が付いている。


 ナーヴァの炎が近くを通った箱も、そのまま使ってよいか確認が必要だ。


 人型ゴーレムの腕には、深くはないが傷がある。


 俺たちだけで直してよいものではない。


「生活区域へは来てない」


 ヴィオラが言った。


「通常入口も無事」


「守れた?」


「うん。今回は守れた」


 作った柵は役に立った。


 決めた手順も、全部ではないが動いた。


 リゼが下がっても、前線は続いた。


 訓練は無駄ではなかった。


     ◇


 内側へ侵入した魔物の死骸は、そのまま残っていた。


 《淫獄》へ吸収されない。


「素手で触らないで」


 アヤメが言う。


 毒を持つと思われる個体を、離れた位置から示した。


「牙、針、顎の後ろの膨らみを潰さないでください。ほかの死骸と重ねない。触れた道具と布も分けます」


「外の死骸は?」


「今は取りに行かない方がいい」


 壁門を大きく開けば、逃げた魔物が戻ってくる可能性がある。


 外に何体残っているかも分からない。


 内側へ入った個体だけを、生活区域から離れた場所へ移す。


 種類ごとに重ならないよう置く。


 毒持ちと思われる個体は、さらに離した。


「食えるか?」


 ナーヴァが尋ねた。


「今は決めません」


 アヤメが答える。


「焦げたものは、悪くない臭いがするぞ」


「うまそうでも、今は食うな」


 俺が言う。


「まだ食うとは言っておらぬ」


「顔に出てる」


「そなたも人のことを言えぬであろう」


「今は食欲の話だから」


 戦闘後に少しだけ力が抜けた。


 でも、死骸を食べるとも、素材に使うとも決めない。


 分けて置き、触れたものを混ぜず、後で調べる。


     ◇


 壊れた柵を壁際へ寄せる。


 壁門の傷を、触れない範囲から確認する。


「同じ数が、明日また来れば?」


 千代が尋ねた。


 答える前に、周囲を見た。


 折れた木材。


 減った水。


 使えなくなった布。


 傷んだ壁門。


 修理を頼む必要がある人型ゴーレム。


 毒傷を負ったリゼ。


 今日と同じようには動けない。


「もう一度なら、守れるかもしれない」


「二度、三度なら?」


「分からない」


 一度の襲撃で、これだけ消耗した。


 直す前に次が来れば、使えるものはさらに減る。


 門を叩くものは、退けた。


 俺たちが作ったものも、確かに役に立った。


 けれど、一度守れたことと、守り続けられることは別だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。