↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
173/189

第173話 作れるものから作る



 翌朝、俺は《淫獄》の機能を確認した。


 何か新しいものが増えていないか。


 壁門の内側を曲げる機能。


 負傷者を安全な場所へ運ぶ機能。


 敵だけを止める柵。


 俺以外にも通常入口を開ける権限。


 どれも表示されていなかった。


「増えたか?」


 隣にいたリゼが尋ねる。


「何も」


「そうか」


「皆で守りたいものを話したから、少しくらい変わるかと思った」


「話すたびに都合よく変わるなら、もう城になってるだろ」


「城までは求めてないよ」


「なら、何を待ってる?」


 新しい機能が増えること。


 必要なものが、いつの間にか用意されること。


 でも、次に魔物が来るまで待ってくれるとは限らない。


「待つの、やめる」


 俺は表示を閉じた。


     ◇


「今ある物で、何が作れる?」


 食堂の卓へ、使えそうな物を書き出した。


 余っている木材。


 空の棚。


 丈夫な縄。


 布。


 水桶。


 空き箱。


 工具。


「これも使えるかな」


 俺は食堂の端にある椅子を持ち上げた。


「そちらは毎日使用しております」


 ファステに止められた。


「でも、何脚かあるよね」


「皆様がお食事をされるための物です」


「一脚くらいなら」


「夜斗様がお使いになっている椅子からでしたら」


「じゃあ、やめる」


 椅子を戻した。


「防衛に必要でも駄目?」


 ヴィオラが尋ねる。


「使うこと自体が駄目なのではありません。普段お使いになる物を、確認せず別の用途へ回してはいけないと思います」


「じゃあ、私の部屋の箱も使わないでね」


「何が入ってるの?」


「私の物」


「具体的には?」


「私の物は、私の物でいいでしょ」


「うん。使わない」


 共同で使っている物。


 余っている物。


 持ち主が使ってよいと言った物。


 防衛のためでも、その区別はなくならない。


 使える物をもう一度選び直した。


     ◇


 最初に作ったのは、木の柵だった。


 壁門の内側へ置く。


 床や壁へ固定はしない。


 必要がなければ動かせるように、木材を組み、倒れにくい幅を取る。


「こんなものか?」


 リゼが揺らして確かめる。


「もう少し重くした方がよいな」


 千代が反対側を押した。


「重くすると、私たちが動かせなくならない?」


 ヴィオラが言う。


「敵が簡単に動かせても意味がない」


「私が動かせなくても困るよ」


 完全に止めるための壁ではない。


 大型の魔物が真っすぐ進めないようにする。


 走ってきた相手が、一度足を止めるようにする。


 誰かが壁門へ来るまでの時間を少し増やす。


「これでどう?」


 柵を二つ、少しずらして置いた。


 間を曲がれば通れる。


 俺が試す。


 一つ目を避ける。


 横へ動く。


 二つ目の端で身体を回す。


 壁門側から邸宅側へ抜けた。


「通れた」


「夜斗が通れるなら、細すぎない?」


「どういう意味?」


「敵も通れる」


「敵を絶対に止める物じゃないから」


 今度はヴィオラが通る。


 俺より速い。


 次にファステ。


 服を引っかけないよう、少し慎重に曲がる。


 レイナも続いた。


「皆、通れるね」


「我は通れぬ」


 後ろからナーヴァの声がした。


「今、人の姿だろ?」


「狭い」


 ナーヴァは一つ目の柵を避けた。


 二つ目との間で足を止める。


 身体は通る。


 でも、曲がるために大きく速度を落としていた。


「通れてるよ」


「急いでおる時に面倒じゃ」


「敵も面倒になる」


「我まで面倒になる」


 ナーヴァが柵へ手をかける。


「これを動かした方が早い」


「動かしたら敵も真っすぐ来るよ」


「では、燃やす」


「木だから燃えるね」


 敵より先に、ナーヴァが障害物を壊しそうだった。


「人を運んでいた場合は、さらに通りにくいです」


 アヤメが言った。


「ナーヴァが誰かを抱えてる時?」


「人だけとは限りません。物資、負傷者、武器。両手が塞がっていれば、身体の向きを変えるにも時間がかかります」


 ナーヴァ一人が通れるだけでは足りない。


 柵の位置を少し広げた。


 敵も通りやすくなる。


 でも、こちらが使えない道を作っても仕方がない。


     ◇


 ファステとレイナは、使える物資を分け始めた。


 水。


 清潔な布。


 傷を洗う道具。


 縄。


 小さな工具。


 全部を壁門の近くへ置けば、すぐ使える。


 壁門を越えられれば、まとめて失う。


 全部を邸宅へ戻せば、必要になるたび取りに来なければならない。


「こちらと、邸宅寄り。それから治療に使う場所の近くへ分けますわ」


 レイナが空き箱を三つ並べた。


「同じ物を全部に入れる?」


「最低限は」


「どれが何の箱か、暗くても分かるようにしたいですね」


 ファステが布を持ってくる。


 色の違う布。


 端を一度だけ結んだもの。


 二度結んだもの。


 太い布と細い布。


「文字だけではいけないの?」


「汚れや水で読みにくくなる可能性があります」


 ファステが答える。


「以前、レイナ様と相談して決めた方法を使えます。色と結び方が違えば、暗い場所でも手で確認できます」


「全部覚えられるかな」


「最初から増やしすぎなければよいと思いますわ」


 レイナが箱の中身を分ける。


 壁門寄りの箱には、水と布を多めにした。


 邸宅寄りには、予備の工具と縄。


 治療場所へ運ぶ箱には、傷を洗う物と清潔な布。


「できましたわ」


「運んでみる」


 ヴィオラが壁門寄りの箱を持ち上げようとした。


 箱が少し浮き、すぐ床へ戻る。


「重い」


「水を入れすぎましたわね」


「二人なら運べるよ」


「一人しかいない時に使えません」


 アヤメが言った。


「分けたのに、一人で運べないね」


「さらに分けましょう」


 レイナが水を別の容器へ移した。


 置き場所が増える。


 覚える物も増える。


 一つを解決すると、次に決めることが出てきた。


     ◇


 負傷者を置く場所も必要だった。


「厨房はいかがでしょう?」


 ファステが尋ねる。


「水は近いですけれど、食事の準備ができなくなりますわ」


 レイナが答える。


「血や汚れも入りますね」


「では、個室を一つ空けますか?」


「誰の部屋にする?」


 俺が聞くと、答えが止まった。


 防衛のためだからといって、誰かの部屋を勝手に治療場所にはできない。


 空いている部屋もあるが、入口が狭く、負傷者を運び込みにくい。


 菜園の近くは土や外気が入りやすい。


 壁門の近くは危険すぎる。


 最終的に、邸宅内の共用区画の一部を、警報時だけ空けることにした。


「普段は使っていい?」


 ヴィオラが尋ねる。


「はい。警報が鳴った際に、こちらの家具を動かします」


「動かす人も必要だね」


「それも決めなければなりませんわ」


 負傷者を運ぶため、丈夫な布と棒も使った。


 布の両端へ棒を通し、外れないように結ぶ。


「試す?」


「誰で?」


 皆が俺を見た。


「俺?」


「夜斗様が一番お怪我をされていません」


「皆も怪我してないよね?」


「それに、入口を扱う夜斗が倒れた場合も想定できますわ」


 レイナの理由に納得してしまった。


 靴を脱ぎ、簡易担架へ横になる。


 視界が低い。


「持ち上げますわ」


 頭側をリゼ。


 足側をナーヴァが持った。


「その二人なら俺ごと投げられそう」


「投げぬ」


「早く運ぶなら投げてもよいのではないか?」


「よくない」


 身体が浮く。


 揺れは少ない。


 二人が柵の間へ向かう。


 最初の角を曲がった。


 二つ目で、担架の棒が柵へ当たる。


「止まれ」


 リゼが足を止めた。


「通れない?」


「夜斗だけなら通る。担架の長さが邪魔だ」


「俺を置いていく?」


「設備の方を直しますわ」


 レイナが迷わず答えた。


 俺は一度下ろされた。


 柵の位置をまた変える。


 ナーヴァが通れるように広げた場所を、今度は担架が曲がれるように調整した。


 敵を遅らせる形が、少しずつ緩くなる。


 それでも、負傷者を運べないよりはいい。


     ◇


 次に、警報が鳴った直後の役割を決めた。


 最初に音を聞いた者は、自分だけで壁門を見に行かない。


 近くにいる者へ伝える。


 ファステは住民の所在を確認し、決めた場所へ案内する。


 レイナは治療場所を空け、必要な箱を確認する。


 ヴィオラは伝達と、一人で運べる物資を動かす。


 戦える者は、壁門側の状況を確認する。


「アヤメは?」


「私が確認へ行くと決めた場合は、侵入経路と数を見ます」


「一人で向こうまで行く?」


「必要なら」


「どこまで?」


「状況によります」


「戻る場所は?」


 アヤメが俺を見る。


「まだ決まっていません」


「じゃあ、先に決めたい。奥まで追わない。戻る場所を決めてから出る」


「依頼ですか?」


「今の手順として」


「私が確認へ行くと決めた場合も?」


「止められるかは分からない。でも、どこまで行くか誰にも分からないままにはしたくない」


 アヤメは少し考えた。


「暫定なら、それで構いません」


「夜斗は?」


 ヴィオラが聞く。


「通常入口を閉じる。閉じてたら、壁門を見る」


「待って」


 リゼが止めた。


「俺は門まで行かない方がいい?」


「少なくとも、最初から前へ出る必要はない」


「でも、状況は見たい」


「誰かから聞け。夜斗が倒れれば、外へ出る入口を誰も扱えない」


 戦えないから、後ろへいるのではない。


 俺にしかできないことが残っているから、最初から危険な場所へ行かない。


「じゃあ、通常入口と、皆がどこにいるかを確認する」


「入口が閉じていても、その場を離れないの?」


「必要になるまでは」


 壁門が気になって、前へ行きたくなると思う。


 でも、俺が見に行くことと、全体が守りやすくなることは別だった。


 今決めた役割は、ずっと続ける仕事ではない。


 いる者と、起きたことに合わせて変える。


 それでも、警報を聞いた全員が同時に壁門へ集まるよりはよかった。


     ◇


 石製の小型ゴーレムは、壁門近くで待機していた。


「柵の位置に合わせて、少し動かした方がいいかな」


「勝手に?」


 アヤメが聞いた。


「置く場所くらいなら」


「位置を変えても同じ条件で働くと確認したの?」


「してない」


「人の持ち物へ、必要だからという理由だけで仕事を増やすの?」


 ゴーレムはエウリオの物だ。


 俺たちが利用することを認められていても、自由に扱えるわけではない。


 アヤメも、情報収集に向いているから選んだ。


 必要だったからといって、仕事を受け続ける義務にはならなかった。


「やめておく」


 石製ゴーレムには触れない。


 今までどおりの場所で、今までどおりの役割を続けてもらう。


 新しい設備へ合わせる必要が出た時は、エウリオへ相談する。


     ◇


 夕方までに、壁門の内側は朝と違う姿になった。


 移動できる柵。


 分けて置いた物資。


 警報時に空ける治療場所。


 簡易担架。


 最初に何をするかだけを決めた暫定手順。


「できた?」


 ヴィオラが聞く。


「まだ」


 答えたのは千代だった。


「作ったではないか」


「作っただけじゃ」


 実際に全員で歩く。


 柵は敵だけでなく、避難する俺たちも遅らせる。


 担架は通れるようになったが、二人で運ぶ間、別の仕事ができない。


 分けた水は運びやすくなった代わりに、置き場所を覚える必要がある。


 壁門寄りの布は、ナーヴァが炎を使えば燃えるかもしれない。


 色布は明るい今なら見分けられる。


 夜の暗さで同じように使えるかは分からない。


 役割も、誰か一人が不在になれば空く。


「昨日より悪くなってない?」


 俺が聞くと、千代が柵を押して位置を確かめた。


「作らねば、どこが悪いかも分からぬ」


「悪いところは分かった」


「ならば、朝より進んでおる」


 完成したわけではない。


 安全になったとも言えない。


 ただ、頭の中だけにあった防衛を、実際に試せる形にはできた。


「次は、夜に動くの?」


 ヴィオラが嫌そうに尋ねる。


「いきなり今夜はやらないよ」


「本当に?」


「先に日を決める。途中で危ないと思ったら止める」


「警報も鳴らす?」


「実際に聞こえるか確かめたい」


 昼間に、全員が起きた状態で通れただけでは足りない。


 眠っている時に音を聞き、決めた場所へ動けるのか。


 暗い中で箱を見つけられるのか。


 柵へぶつからず、負傷者を運べるのか。


 実際の襲撃は、皆が準備できた時間に来てくれるとは限らない。


 だから、失敗しても止められる時に試す。


 作れるものから作った。


 けれど、作っただけでは守れることにならない。


 次に確かめるのは、設備ではなかった。


 その設備を使って、俺たちが本当に動けるかどうかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。