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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

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第171話 守る者が、足りない

 セリナを送り出した後、俺とリゼは壁門へ向かった。


「すぐ見に行くのか?」


「今、見ておきたい」


「セリナが戻るまでに?」


「それもある。でも、また誰かが外へ出てから考えることにはしたくない」


 セリナがいつ戻るかは分からない。


 ミネットも学校にいる。


 次に外へ出るのが誰かも、まだ決まっていない。


 それでも、ここを残したいと思うなら。


 誰も出ていかない日にだけ守れる場所では足りなかった。


     ◇


 壁門は閉じていた。


 近くには、石製の小型ゴーレムが立っている。


 何者かが通れば警報を鳴らし、通過した数を小石で残す個体だ。


 少し離れた位置には、人型ゴーレムもいる。


 今のところ、どちらにも壊れた様子はない。


 ただ、俺たちの物ではなかった。


「これ、エウリオのなんだよな」


「そうだな」


「ここに置いてくれてるけど、俺たちの設備になったわけじゃない」


「壊れれば、エウリオに持っていく必要がある。命令を変える場合も同じだ」


 俺たちが使うことを認められている。


 試験が終わった後も、置いていいと言われている。


 だからといって、好きに分解したり、別の仕事を増やしたりはできない。


 エウリオが返してほしいと言えば、その時は相談することになる。


「借りている物で守ってるんだな」


「借りられること自体は悪くない」


「うん。でも、これがあるから大丈夫って決めるのは違う気がする」


 人型ゴーレムの前を通り、壁門へ近づく。


 門の向こうは見えない。


 閉じている間も、その先には《万物迷宮》が続いている。


 何も来ない日が続いても、道そのものが消えたとは限らない。


「今、警報が鳴ったら?」


「私が見る」


「リゼがいなかったら?」


「ナーヴァか千代だな」


「三人ともいなかったら?」


 リゼが答えなかった。


 俺も、すぐには答えられなかった。


     ◇


 皆を呼び、壁門から邸宅までの通路へ集まってもらった。


 ミネットとセリナはいない。


 エウリオも、自分の家へ戻っている。


 残っている者で、今の状況を確かめる。


「もし、今ここで警報が鳴ったとして」


 石製ゴーレムを示す。


「リゼとナーヴァと千代がいなかったら、どうする?」


「なぜ我がおらぬのだ?」


 ナーヴァが聞いた。


「外へ狩りに行ってるかもしれないだろ」


「ならば帰ってくるまで待て」


「魔物も待ってくれる?」


「待たぬな」


 ナーヴァが腕を組んだ。


「今回は、その三人は答えを知っていても言わないでほしい」


「私もか?」


 リゼが尋ねる。


「うん。いない時の話だから」


 リゼ、ナーヴァ、千代が少し下がった。


 俺も完全に答える側から外れるべきか迷ったが、通常入口を開けられるのは俺だけだ。


 いないことにはできない。


「まず、皆様へお知らせします」


 ファステが言った。


「邸宅のお部屋にいらっしゃる方へ声をかけ、こちらへ――」


「待って」


 アヤメが止める。


「こちらへ集めるの?」


「危険をお知らせするために……。いいえ、門の近くへ集めてはいけませんね」


 ファステが自分で言い直す。


「では、安全な場所へお集まりいただきます」


「安全な場所はどこ?」


 今度はヴィオラが聞いた。


「邸宅の中?」


「壁門からは離れていますわ」


 レイナが答える。


「ですが、どのお部屋へ集まるかまでは決めておりませんわね」


「じゃあ、私が皆を呼ぶ。その間に、誰かが門を見る」


 ヴィオラが壁門を指した。


「誰が?」


 ファステに聞かれ、ヴィオラが俺を見る。


「俺?」


「夜斗が一番先に見に行きそう」


「行くと思う」


「負傷者が出た場合は、私が治療の準備をいたしますわ」


 レイナが続ける。


「道具を取りに戻る?」


「今は邸宅にございますもの」


「じゃあ、その間に負傷者がここへ来たら?」


「どなたかに運んでいただく必要がありますわ」


「誰が運ぶの?」


 答えが止まる。


 ファステは皆を起こしに行く。


 レイナは治療道具を取りに行く。


 ヴィオラが門を確認するなら、避難する者を案内できない。


 俺が壁門へ来れば、通常入口を開く必要が生じた時に、ここから離れなければならない。


 一人ずつなら、どれも間違った行動には思えない。


 でも、全員が同時に動くと、必要な場所から人がいなくなった。


「今、誰の指示で動いてた?」


 俺が聞く。


「それぞれが必要と思ったことを話していましたわ」


「指示する人も決めてなかったんだ」


 戦う前から、もう噛み合っていない。


     ◇


「夜なら、もっと遅れる」


 アヤメが言った。


 全員が起きている今でも、誰が警報を確かめ、誰を起こすか決まっていない。夜なら、聞き間違いと本物を分ける間にも遅れる。


 石製ゴーレムは、決められた条件に従って音を鳴らす。


 けれど、音を聞いた後に何をするかまでは決めてくれない。


 人型ゴーレムも、与えられた仕事の外までは助けてくれない。


「夜中なら、皆が寝ている部屋も違う」


 ヴィオラが言う。


「私が先に起きても、ファステがどこにいるか探してる間に遅れるかも」


「当番を決めますか?」


 ファステが尋ねた。


「毎晩、誰かが起きて見張るの?」


「それでは、警報を置いた意味が薄くなりますわね」


 レイナの言葉に、ファステが黙る。


 見張らなくても来たことが分かるように、警報を作った。


 その警報を聞くために、交代で眠らない者を置くのはおかしい。


「夜のことは、夜に試さないと分からないかもな」


 リゼが言った。


「でも、今夜いきなりやるのは嫌だよ」


「私も、先に起こし方を決めてからがいい」


 ヴィオラが答える。


 今日は、できていないことを確かめるだけにする。


 実際に夜中の警報を鳴らすのは、その後だ。


     ◇


「ナーヴァがずっとここにいてくれたら、止められる相手は増えると思う」


 俺が言うと、ナーヴァがこちらを見た。


「だから、ずっと門の前にいてくれって言われたら?」


「嫌じゃ」


「早いな」


「我は門ではない」


 迷いのない答えだった。


「戦えと言われれば、相手を見て決める。腹が減れば狩りにも行く。風呂にも入る。眠い時は寝る」


「うん」


「ここへ立ち続けるために住んでおるのではない」


「分かってる」


 ナーヴァは強い。


 だから頼りたくなる。


 でも、強いからという理由だけで、門の一部にしてはいけない。


 リゼにも外へ出る理由がある。


 千代にも、自分で選ぶ生活がある。


「ならば、もっと強い者を増やせばよいのではないか?」


 ナーヴァが言った。


 強い人を召喚すればいい。


 一瞬、そう考えた。


 《淫獄石》は足りない。


 今すぐ実行できることではない。


 けれど、足りていたとしても。


 呼ばれた人が、門の前へ立ち続けたいとは限らない。


 アヤメを選んだ時も、俺たちに必要な能力を持っていると思った。


 それでも、街へ行く仕事を強制していい理由にはならなかった。


 戦える人を呼び、その人に守らせる。


 それだけなら、人を一人増やすのではなく、防衛設備を買うのと変わらない。


「強い人が来ても、守ってくれるとは限らない」


「戦いたくない者かもしれぬということか」


「うん。戦えても、ずっと門番をしたいとは限らない」


「それはそうじゃな」


 ナーヴァはあっさり認めた。


「では、我が増えても解決せぬのか」


「ナーヴァが二人いたら、食費の問題が増えそう」


「我が二人おれば、獲物も二倍取れる」


「食べる量も二倍だろ」


「足りなければ、さらに取ればよい」


 防衛の話とは違う問題が始まりそうなので、そこで止めた。


     ◇


 壁門から邸宅へ戻る途中、アヤメは何度も足を止めた。


 通路の幅を見る。


 曲がり角から壁門が見えるか確かめる。


 床へ置かれている箱と壁の間を通る。


 治療道具の場所も、飲み水の保管場所も確認した。


「アヤメ」


「何?」


「防衛の弱いところを、調べてもらいたい」


 アヤメはもう調べ始めているように見えた。


 それでも、頼むなら条件を決める必要がある。


「依頼として。報酬は――」


「今回は要りません」


「いいの?」


「私もここで寝ています」


 アヤメは通路の先にある邸宅を見る。


「侵入されれば、私も困ります。自分が眠る場所の逃げ道を確認するのに、あなたから報酬を取るつもりはありません」


「助けた借りを返すためじゃなくて?」


「違います」


「俺の命令だからでもない?」


「あなたはまだ、私の主ではありません」


 はっきり言われた。


 でも、前より痛くはなかった。


「分かった。じゃあ、自分のために確認するアヤメと、同じ場所を使ってる俺たちで、一緒に考える」


「それなら構いません」


 アヤメは、今まで見つけた問題を挙げた。


 警報が鳴った後、最初に確認する者が決まっていない。


 迎撃へ向かう者と、避難する者が同じ通路を使う。


 負傷者をどこへ運ぶか決まっていない。


 治療道具や飲み水が一か所にまとまっている。


 夜中に誰が誰を起こすか決まっていない。


 強い者が到着するまで、戦えない者が時間を稼ぐ方法もない。


 そして。


「夜斗が動けなくなった場合、外へ出る入口を誰も開けられません」


「それは……そうだな」


 通常入口を扱えるのは俺だけだ。


 避難先として外を使うなら、俺が倒れた時点で使えなくなる。


「すぐに変えられる?」


 ヴィオラが尋ねた。


「分かりません」


 アヤメは即答した。


「変えられないものもあります。ですから、できないことを前提に別の方法を用意する必要があります」


「でも、私たちは戦えないよ」


「戦えない者を、門へ立たせる必要はありません」


 アヤメがヴィオラを見る。


「警報を伝える。門から離れる。負傷者を運ぶ。治療道具を分けておく。逃げ道を塞がない。戦えなくても、決められることはあります」


 リゼが頷いた。


「戦う者を増やすだけが、防衛じゃない」


「うん」


 全員を戦闘員にする必要はない。


 ファステに武器を持たせることが答えではない。


 レイナに門前へ立ってもらう必要もない。


 ヴィオラが魔物を倒せなくても、できることはある。


 俺にも、入口を開く以外に決めるべきことがある。


     ◇


「では、何から決める?」


 千代が尋ねた。


 警報を聞いた後の順番。


 避難する場所。


 治療道具を分ける場所。


 夜間の起こし方。


 決めなければならないことは多い。


 でも、その前に一つ聞きたかった。


「皆が、何を守りたいのか聞きたい」


 ファステが俺を見る。


「《淫獄》を、ではなく?」


「《淫獄》の中でも、違うと思う」


 邸宅を守りたいのか。


 菜園を守りたいのか。


 浴室や、自分の部屋や、持ち物なのか。


 ここにいる誰かなのか。


 今はいないミネットやセリナが、帰ってこられる場所なのか。


 何を守りたいかが違えば、逃がしたくない物も、最初に助けたい者も変わる。


「守るものを決めてから、守り方を決める?」


 ヴィオラが聞いた。


「全部を同じようには守れないと思うから」


 誰かがいないだけで守れなくなるなら。


 ここは、帰る場所としてまだ弱い。


 足りないのは、戦える者だけではなかった。


 戦えない時に、誰が何をするのか。


 それを決めたことが、まだ一度もなかった。

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