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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

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第153話 首謀者は、俺らしい

 エウリオを食堂へ通した。


 淡い色の人型ゴーレムは、扉の横で止まる。


 座るよう勧めても、エウリオはすぐには椅子へ向かわなかった。


「先に確認するけど、全員へ話していいの?」


「そのために来たよ」


「エウリオの家や《無為宮》に関係する話は?」


「今のところ、知られていないと思う」


「思う?」


「知られていないことを、完全に確認する方法はないだろう?」


「それもそうか」


 エウリオが椅子へ座る。


 背もたれへ身体を預けると、もう立つつもりはなさそうだった。


「それで、街の面倒な話って?」


「君が、ダンジョンを消したことになりかけている」


「……俺が?」


「正確には、消失へ関わった疑いが最も強い人物だね」


「全然違う」


「君がそう言うことと、領主側がどう考えるかは別だよ」


 ミネットが記録帳を開く。


「領主側から、正式な通達が出たのですか?」


「出たよ。僕はそれを見てきた」


「持ってる?」


 エウリオが淡色の人型ゴーレムを見る。


 人形は背負っていた箱を開き、折り畳まれた紙を一枚取り出した。


「僕が毎回持つのは面倒だからね」


「紙一枚くらい持てるだろ」


「持てても、持ちたいとは限らないよ」


「それ、俺たちが教えた言い方じゃない?」


「便利だから使っている」


 人形が紙を卓へ置く。


 現地世界の文字で書かれている。


 読むことはできた。


 上部には領主の名義と印。


 その下に、地下入口消失に関する情報の提供と、関係者の確保を求める文言が並んでいた。


 俺の名前もある。


「本当に書いてある」


「偽物の可能性は?」


 リゼが紙へ顔を近づける。


「掲示されていたものを書き写しただけだよ。印まで本物かどうか、僕は調べていない」


「元の紙を持ってくればよかったんじゃない?」


「掲示物を剥がす方が面倒になる」


 エウリオは当然のように答えた。


「複数の場所へ、同じ内容が出ていた。街の出入口と、組合に近い掲示場所。それから役所の前だね」


「なら、領主側が出した可能性は高いか」


 リゼが読み進める。


「夜斗を発見した場合、領主館へ同行を求める……拒否した場合は?」


「拘束してよいとは、そこには書かれていない」


 エウリオが言う。


「でも、別の指示が衛兵へ出ている可能性はある」


「同行者も事情を聞く対象ですか」


 ファステが紙を見る。


「僕が聞いた範囲ではね」


「聞いたって、誰に?」


「向こうから話してきた人たち」


「エウリオが?」


 ヴィオラが驚く。


「話しかけられることもあるんだね」


「あるよ。だから看板を出している」


「看板を出したら、むしろ客が来るでしょ」


「値段を伝えれば、大半は帰る」


 いつものエウリオだ。


 それでも、今日は聞いた話をまとめ、紙まで用意してここへ来た。


 本人にとって、放っておく方が後で面倒になる話なのだろう。


「どうして、俺が疑われてる?」


「順番に話した方が、一度で済みそうだね」


 エウリオが目を閉じる。


「最初に、街の近くにあったダンジョンへ異変が起きた」


「うん」


「従来の入口を管理していた探索者組合は、内部へ君の異空間が挟まったと報告した」


「《淫獄》って名前まで?」


「名前は、僕が見た通達には書かれていなかった。個人が保有する異空間、または固有スキルによる領域とされている」


 名称までは広がっていないらしい。


 少しだけ安心した。


「その後、従来の入口が消えた」


「門前空間が奪われて、固定前室門もなくなったから」


「それを外から見た人間には確認できない」


「でも、組合には説明した」


「説明だけでは証明にならないね」


 反論できなかった。


 俺たちは報告組を回収するため、第二接続地点を使った。


 けれど、その場所は明かさなかった。


 その後も《淫獄》から現地世界へ出られる経路として秘匿している。


「入口が消失した後、君たちは別の場所から戻った」


 エウリオが指を一つ立てる。


「その場所を、組合へ教えていない」


 二本目。


「地下へ入る道は失われたのに、君たちは今も異空間を維持している」


 三本目。


「領主側から見ると、どうなると思う?」


「俺がダンジョンの入口を奪って、自分たちだけ使える道を残したように見える?」


「そう考える人間が出ても、不思議ではないね」


「俺たちだって、今はダンジョンへ自由に入れない」


 壁門の向こうは、すでに《万物迷宮》だ。


 開くことはできる。


 けれど、魔物も侵食も残っている。


 安全な探索経路とは呼べない。


「それを確認するために、入口を見せろと言われている」


「見せたら、第二接続地点の場所が知られる」


「そうだね」


「そこから兵を入れる気か?」


 リゼが尋ねる。


「そこまでは書かれていないよ。ただ、未公開の入口は領主側の調査対象とする、とある」


「調査する者と人数は?」


「書かれていない」


「武器を持ち込むかは?」


「書かれていない」


「調査後、入口をどう扱うかは?」


「それもない」


 リゼの表情が険しくなる。


「見せられない」


「待て」


 千代が止めた。


「隠すことだけを先に決めれば、向こうの疑いを強める」


「だからといって見せるのか?」


「見せるとは言っておらぬ。向こうが何を欲しておるかを分ける必要がある」


「入口ではないの?」


 ヴィオラが聞く。


「入口そのものだけとは限らぬ」


 千代が紙を見る。


「地下から得ていた物。探索者が落とす金。運搬、加工、宿、食事。入口一つが止まれば、困る者は多い」


「うん」


 探索者組合の周囲には、地下から戻った者を待つ店があった。


 装備を直す者。


 素材を買う者。


 宿や食事を用意する者。


 俺たちは利用する側でしかなかったが、そこを生活の中心にしている人もいる。


「ダンジョンから得られる資源と収入が止まった」


 エウリオが言う。


「領主側としては、原因を示す必要がある。復旧できるなら復旧したい。未知の入口があるなら管理したい」


「それで俺?」


「分かりやすいからね」


「ひどくない?」


「君の領域が実際に途中へ挟まったのは事実だろう?」


「俺がやったわけじゃない」


「領主は、そこを確認したいと言っている」


「領主館で?」


「少なくとも通達には、君を見つけたら領主館へ同行させろと書いてある」


「行ったら帰れる?」


「知らない」


 短い返事だった。


「話を聞くだけかもしれない。入口の場所を話すまで帰さないかもしれない。君を拘束する方が面倒だと判断するかもしれない」


「予想できない?」


「領主本人を知らないからね」


 エウリオは紙から目を離す。


「僕が分かるのは、街へ普通に入れば、声をかけられる可能性が高いことだけだよ」


「私たちもですか?」


 ファステが尋ねる。


「夜斗と行動していた者も、事情を知る可能性があると見られている」


「名前まで知られてる?」


 ヴィオラが自分を指した。


「通達へ全員の名前は出ていない。姿の情報も正確とは言いにくい」


「じゃあ、私だけなら入れるかもしれない?」


「かもしれないね」


「試すのは駄目だ」


 リゼが即座に言った。


「まだ試すって言ってないよ」


「今、入れるかもしれないと考えただろ」


「ちょっとだけ」


「その少しで捕まったらどうする」


「逃げる」


「逃げた時点で疑いが増える」


「じゃあ、変装?」


「今ここで方法を増やすな」


 ヴィオラが口を閉じる。


 完全には諦めていない顔だった。


「探索者組合は、何て言ってる?」


 俺は尋ねた。


 異変を最初に伝えた。


 固定前室門を通ってきた巡回者もいる。


 ボス級の魔物に襲われた時、報告組を街へ送った。


 俺たちが何をしたか知っている者はいるはずだ。


「組合は、君たちが異変を報告したことを認めている」


 エウリオが答える。


「巡回者と護衛を助けたこと。《淫獄》側で魔物を防いだこと。従来の入口が消える前に、危険を知らせていたこと。その記録は残っている」


「なら、俺が首謀者じゃないって――」


「証明にはならない」


 言葉を遮られた。


「自分で起こした異変を、自分で報告した可能性も作れる。人を助けたことと、別の目的がなかったことは同じではない」


「何でも疑えるじゃん」


「疑おうと思えばね」


「組合は俺を疑ってる?」


「組合全体の考えを、僕に聞かないでほしい」


 エウリオが少しだけ嫌そうな顔をする。


「僕が確認できたのは、領主側へ君たちの行動記録が出されたこと。それと、組合の掲示には君を犯人と断定する言葉がなかったことだけだよ」


「領主へ反対してくれているわけではない?」


「そこまでは知らない」


「領主と組合は別組織です」


 ミネットが言う。


「組合が夜斗さんを犯人と断定していなくても、領主の命令へ逆らえるとは限りません」


「そういうことだね」


 エウリオがうなずいた。


「領主側は、無実なら入口を開示できるはずだと考えているらしい」


「開示しないなら犯人?」


「協力を拒む場合、敵対行為と判断する可能性がある。通達にはそう書かれている」


 もう一度、紙を見る。


 本当に書かれていた。


 入口の安全性も。


 そこが俺たちに残った唯一の現地世界との接点であることも。


 門前空間を奪われた直後だということも。


 領主側は知らない。


 知らないまま、見せろと言っている。


「渡さない」


 気づけば、口にしていた。


「夜斗」


「見せるだけで終わるか分からない」


 第二接続地点の周囲へ兵を置かれたら。


 自由に開閉できなくなったら。


 そこから《淫獄》へ入ろうとされたら。


 固定前室門のように、今度も入口そのものが何かと融合したら。


 現地世界とつながる道は、本当になくなるかもしれない。


「俺は、第二接続地点を渡したくない」


「ならば渡さねばよい」


 ナーヴァが言う。


「欲しがる者が来るなら、我が焼く」


「すぐ焼かない」


「奪いに来るのであろう?」


「まだ話を聞こうとしてるだけかもしれない」


「では、話を聞いてから焼く」


「焼くところへ戻らないで」


「面倒な相手だな」


 ナーヴァが紙を睨む。


「領主という者を倒せば終わるのか?」


「終わらぬ」


 千代が答えた。


「上に立つ者が消えれば、次に立とうとする者が出る。兵も領民も消えぬ。むしろ話は増えるぞ」


「ならば街ごと――」


「それ以上は駄目」


「まだ言っておらぬ」


「言いかけてた」


 ナーヴァは不満そうに腕を組んだ。


「街へ行くのは、しばらく止めよう」


 俺は皆を見る。


「少なくとも、誰がどこまで俺たちの顔を知ってるか分かるまでは」


「賛成だ」


 リゼがすぐに答える。


「物資は?」


 ファステが尋ねた。


「今ある分を確認する。すぐに必要な物があっても、俺たちが直接買いに行くのは危ない」


「菜園で育てているものは、まだ食料の代わりになりません」


 ミネットが言う。


「生成水の安全性も未確認です」


「肉なら向こうに――」


「だから、まだ食べられない」


「覚えておる」


「なら言わないで」


「腹が減る話をしておるからだ」


 食料。


 布。


 薬。


 道具。


 これまで街で買っていたものは多い。


 今すぐ尽きるわけではない。


 けれど、長く続けば困る。


「学校はどうしますか?」


 ミネットが自分から尋ねた。


 食堂が静かになる。


 学校は街にある。


 第二接続地点から出て、そこまで歩かなければならない。


「ミネットの名前は通達に出てる?」


「出ていない」


 エウリオが答える。


「学校との関係は?」


「僕が見た範囲にはないね」


「では、今までどおり通える可能性はあります」


「可能性はある」


 リゼがミネットを見る。


「安全だとは言えない」


「はい」


「学校で情報を集めてもらうのは?」


 ヴィオラが口にした。


 すぐに、自分で首を振る。


「……駄目だね。それを始めたら、普通に学校へ行くのと違う」


「私が聞こえたことを報告するのはできます」


「できるかどうかじゃない」


 俺は言った。


「学校を続けるためならともかく、俺たちのために探りに行かせたくない」


 ミネットが俺を見る。


「でも、危険があるかどうかは確認しないといけない」


「はい」


「今日、今すぐ決めなくていい。通うかどうかも、どう通うかも、ミネットが一緒に考えてほしい」


「分かりました」


 ミネットは記録帳へ何かを書く。


 その足元で、縁が身体を起こした。


 ミネットの膝へ鼻先を寄せる。


 ミネットは記録を止め、縁の頭を一度撫でた。


「エウリオの家は?」


 俺は尋ねる。


「領主側に知られてる?」


「僕が家を借りていることは、家主が知っている」


「それはそうだね」


「魔道具士として暮らしていることも、周囲には知られている。《無為宮》につながっていることは話していない」


「俺たちとの関係は?」


「君たちが一度来たことを、誰かに見られた可能性はある」


「じゃあ、エウリオも危ない?」


「君たちほどではないと思うよ」


「どうして?」


「僕はダンジョン入口が消える前から、その街で魔道具士として暮らしていることになっているからね」


「別の大陸から来たことは?」


「話していない」


「《無為宮の王》なのも?」


「話す理由がない」


「今日ここへ来たことは?」


「淡い個体には、見られない経路を選ばせた。誰にも見られていないとは断言しない」


 エウリオは自分の安全も、何も考えていないわけではないらしい。


「これからも街の情報を教えてくれる?」


「嫌だよ」


 即答だった。


「まだ頼み方も決めてない」


「頼まれる前に断った方が早い」


「一回だけでも?」


「今日の一回を持ってきた」


 エウリオが卓の紙を指す。


「僕は、知らせに来ただけだよ。領主と話すつもりもない。君たちの無実を調べるつもりもない。街の噂を毎日まとめるつもりもない」


「分かった」


「本当に?」


「うん。今まで手伝ってくれたからって、この先まで頼めるとは思わない」


 エウリオが少しだけ目を開く。


 俺は紙を折り直した。


「知らせに来てくれただけでも助かった。街へ普通に入ってたら、何も知らないまま領主館へ連れていかれたかもしれない」


「そうだね」


「ありがとう」


「……どういたしまして」


 返事まで、少し間があった。


 エウリオは椅子へさらに身体を預ける。


「帰る?」


「今すぐ帰ると、来た意味より疲れた分の方が大きく感じる」


「泊まる?」


「食事が出るなら、少し考える」


「食べることは面倒じゃないの?」


 ヴィオラが尋ねる。


「食べなければ、後でもっと面倒になる」


「便利だね、その理屈」


「実際に便利だよ」


「先に、誰が街へ行けるかを考えよう」


 リゼが卓を軽く叩いた。


「今は誰も行かない、でいい」


「エウリオは?」


「僕は住んでいるから、行かない方が難しい」


「夜斗との関係を聞かれたら?」


「知っていると答えるよ」


「隠さないの?」


「後で違う説明を覚えておく方が面倒だ」


 エウリオらしい。


「でも、第二接続地点は話さないで」


「話す理由がないね」


「《淫獄》へ来る方法も」


「それも聞かれていない」


「聞かれたら?」


「答えたくないと答える」


「捕まるかもしれないぞ」


「その時は、捕まらない方法を考える」


「先に考えないの?」


「必要にならないかもしれない仕事は、増やしたくない」


 少し暴走気味。


 その言葉を思い出した。


 けれど今は、エウリオの欲望を俺が直そうとする時ではない。


 本人がどこまで危険を理解しているかを確認し、頼めることと頼めないことを分ける。


 それしかできない。


     ◇


 その夜、能力表示をもう一度開いた。


《十連召喚》


必要《淫獄石》:30,000


候補提示数:10


正式召喚数:1


 所持数は三万百。


 いつでも実行できる。


 昨日までなら、新しい召喚方式が現れたことだけで頭がいっぱいになっていたと思う。


 今も回したい。


 十人を見たい。


 その中から誰を選べるのか確かめたい。


 けれど、卓には領主の通達を書き写した紙が残っている。


 俺たちは街へ行けなくなった。


 正確には、行けば拘束される可能性が出た。


 ファステたちまで事情聴取の対象になるかもしれない。


 残った入口を見せれば、無実を信じてもらえる可能性はある。


 その代わり、俺たちが現地世界とつながる唯一の場所を知られる。


 見せなければ、疑いは強くなる。


 どちらが正しいかは、まだ分からない。


「首謀者、か」


 街では、もう少し乱暴な噂になっているらしい。


 夜斗がダンジョンを消した。


 夜斗が入口を奪った。


 夜斗が地下を独占しようとしている。


 正式な通達は、そこまで断定していない。


 それでも人から人へ伝わる間に、疑いは犯人へ変わっていく。


 今回のダンジョン消失には、首謀者がいる。


 そして、それは俺らしい。


 何も知らないうちに《万物迷宮》とつながれ。


 門前を奪われ。


 魔物を止め。


 残った入口から皆を連れ戻した。


 その結果、俺がすべてを起こしたことになりかけている。


 視界には、十人から一人を選べる召喚がある。


 街へ行けなくなった俺たちには、新しい誰かの力が必要になるかもしれない。


 そう考えた瞬間、指が止まった。


 必要だから呼ぶ。


 役に立つ相手を選ぶ。


 そのこと自体が悪いとは思わない。


 でも、まだ顔も名前も知らない誰かを、街へ行かせるための道具として選ぶのは違う。


 領主が俺を、自分たちに都合のよい説明へ押し込もうとしている。


 だからこそ、俺まで知らない誰かを都合のよい役割へ押し込んではいけない。


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 今日は回さない。


 回したくなくなったわけではない。


 むしろ、今すぐ十人を見たい。


 ただ、十連召喚はもう、十人を見比べて一人を選ぶだけのガチャではなくなっていた。

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