第145話 別ではありません
「私の使い魔に、なってくれますか?」
ミネットの声が、静かな庭へ残った。
誰も続けて話さなかった。
ヴィオラも。
ファステも。
レイナも。
少し離れた壁門側にいる千代とナーヴァも、こちらを見ている。
ミネットは縁の前へしゃがみ、手のひらを上へ向けたまま待っていた。
縁が、その手を見る。
鼻先を動かす。
一歩、近づいた。
ミネットの指先がわずかに震える。
それでも、自分から距離を縮めない。
縁の鼻先が、手のひらへ触れた。
「触った」
ヴィオラが小さな声を出す。
「静かに」
リゼがもっと小さな声で止めた。
縁はミネットの手の臭いを嗅いだ。
そのまま頭を寄せるのかと思った。
けれど、縁は離れた。
数歩後ろへ下がる。
ミネットの手だけが、その場へ残った。
「……縁?」
追いかけなかった。
呼び戻しもしなかった。
縁はミネットを見ている。
ミネットも縁を見る。
「今のは返事?」
俺が聞く。
「分かりません」
ミネットは差し出していた手を、ゆっくり膝へ戻した。
「触れた後に離れました」
「断られた?」
「それも分かりません」
声は落ち着いている。
でも、膝の上で重ねた指に力が入っていた。
「驚いただけかもしれません」
ファステが言う。
「学校や外へ行った後です。疲れている可能性もあります」
「今すぐ答えなくていいって言ってたもんね」
ヴィオラも続ける。
ミネットは頷いた。
「はい。私が待てばよいだけです」
立ち上がろうとする。
その時、縁が動いた。
ミネットへは来ない。
縁用に見える区画へ向かい、低い棚の下へ入った。
いつも使っている箱の中で丸くなる。
ミネットは立ち上がらず、その姿を見ていた。
「休むみたい」
「そう見えます」
「ミネットも休んだら?」
「はい」
返事をしたのに、まだ動かない。
「ミネット」
俺が呼ぶ。
「断ってもいいって、自分で言っただろ」
「言いました」
「本当に断られてもいいと思ってた?」
ミネットが黙る。
しばらくして、首を横へ振った。
「いいえ」
小さな声だった。
「断ることができなければ、聞いたことになりません。そう考えています」
縁の入った箱を見る。
「ですが、断られたくないとも思っています」
「両方あっていいんじゃない?」
「よいのでしょうか」
「嫌われたくないのに、相手へ選ばせることはできるだろ」
俺も、召喚のことで似たようなことを考えた。
来てほしい。
住民になってほしい。
でも、俺が望んだからといって、相手の答えまで決めていいわけではない。
「待つのも、結構怖いよ」
ミネットはもう一度頷いた。
「はい。怖いです」
ようやく立ち上がる。
縁の箱へ近づかず、少し離れた椅子へ座った。
「今日はもう、契約の話をしません」
「聞かないの?」
「今すぐ答えなくてもよいと伝えました」
記録帳を出しかけて、やめる。
鞄ごと椅子の横へ置いた。
「ですから、待ちます」
◇
昼に学校から戻ってきたばかりなのに、全員が朝からずっと動いていたように疲れていた。
ファステたちが遅い食事を用意する。
ミネットも手伝おうとしたが、今日は座るように言われた。
「私は怪我をしていません」
「怪我をしているかどうかと、休まなくてもいいことは別ですよ」
ファステに言われ、ミネットが口を閉じた。
「取られたね」
ヴィオラが笑う。
「私が言い始めたわけではありません」
「でも、増えたのはミネットが来てからじゃない?」
「それは……否定できません」
ミネットは座った。
縁は箱から出てこない。
眠っているのかどうかも分からない。
食事が並んでも、いつもの椅子の下へ来なかった。
「飯にも来ぬのか」
ナーヴァが箱を見る。
「疲れているのではないか?」
千代が言う。
「外へ出て、人の多い場所まで歩いたのであろう」
「腹が減れば出てくる」
「何を食べるか分からないのに?」
俺が聞くと、ナーヴァがこちらを見る。
「今まで何かを食って生きておるのだろう」
「何を食べてたんだろう」
「それも分からないの?」
ヴィオラに聞かれ、全員が黙った。
縁はいつの間にか《淫獄》にいた。
皆が置いた食事の一部が減っていることはある。
水場を使う姿も見た。
でも、何をどれだけ食べているのか、きちんと確認していない。
「契約すれば分かるの?」
俺はミネットを見る。
「契約しただけですべてが分かるわけではありません」
「何が変わる?」
「互いの魔力がつながります。距離が近ければ、大まかな状態や方向を感じ取れる場合があります」
「考えてることも?」
「言葉のように聞こえるとは限りません。契約の形式と、使い魔の性質によります」
「縁が何を食べたいかは?」
「分からない可能性があります」
「便利になるけど、何でも分かるようにはならないんだ」
「はい」
ミネットは食事へ手をつける。
「それに、便利にするためだけに契約するのではありません」
「じゃあ、何のため?」
ヴィオラが聞く。
「魔法の補助を受けるためです」
最初の答えは、学校で教わったもののように聞こえた。
ミネットは少し考える。
「私は魔法士を目指しています。そのために、使い魔と共に魔法を使う方法を学んできました」
「それだけ?」
「……それだけではありません」
箱の方を見る。
「今は、縁と一緒にいたいと思っています」
「それを先に言えばいいのに」
「順番が必要です」
「誰に?」
「私にです」
ミネットは、今まで自分の望みと縁の望みを分け続けてきた。
それが間違っていたわけではない。
ただ、自分の望みまで隠す理由にはならないと、ようやく思えたのかもしれない。
◇
食事が終わっても、縁は箱から出てこなかった。
ミネットは記録帳を開かず、椅子へ座って待っている。
時々、箱を見る。
そのたびにすぐ視線を戻す。
「見すぎじゃない?」
「見ていません」
「見てたよ」
「確認しただけです」
「何回?」
「数えていません」
「記録してないんだ」
「していません」
ヴィオラが面白そうに笑う。
ミネットは少しだけ頬を赤くした。
「縁が答えるまで、ずっとそこにいるの?」
「今日は戻る予定がありません」
「夜も?」
「必要なら」
「それ、縁に答えを急がせない?」
ミネットが動きを止めた。
「私がここにいることで?」
「ずっと見られてたら、落ち着かないかも」
ヴィオラの言葉に、ミネットは箱を見る。
今度はすぐに視線を逸らした。
「では、離れます」
「部屋に行く?」
「資料を整理します」
「結局仕事するんだ」
「必要な作業です」
ミネットが立ち上がり、鞄を持つ。
縁へは声をかけなかった。
返事を求めた後で、何度も呼ぶことを避けたのだろう。
食堂を出ようとする。
扉の手前まで進んだ。
箱の中で、小さな音がした。
ミネットが振り返る。
縁が箱から顔を出している。
すぐには出てこない。
ミネットも戻らない。
「私は、資料室へ行きます」
今度は行き先だけを伝えた。
「返事は、まだしなくてもかまいません」
縁が箱から出た。
身体を伸ばす。
床へ降り、ミネットを見る。
ミネットは待っている。
縁が一歩近づく。
さらに一歩。
ミネットの足元までは来なかった。
最初にミネットが手を差し出した場所で止まる。
「そこ?」
ヴィオラが呟く。
誰も続けなかった。
縁が、片方の前足で床を触る。
それからミネットを見る。
ミネットの呼吸が浅くなった。
「……契約の手順を、説明してもよいですか?」
縁は動かない。
「嫌なら、今と同じように離れてください」
ミネットはゆっくりと、縁の前へしゃがんだ。
さっきより距離を取っている。
手も差し出さない。
「使い魔契約は、私の魔力だけでは成立しません」
縁の目を見ながら話す。
「最初に、私から少量の魔力を差し出します。それを縁が受け入れ、縁の魔力を返してくれた時に、つながりができます」
「返さなかったら?」
俺が聞く。
「契約は成立しません」
「魔力を受け取っただけにならない?」
「最初に差し出す量は、ごく少量です。相手が受け入れなければ、すぐに散るようにします」
「縁が途中で嫌になったら?」
「魔力を返さなければ、そこで止まります。触れ続ける必要もありません」
「無理に成立させることは?」
リゼが聞く。
「契約術式を変えれば、相手の抵抗を弱める方法もあると聞いています」
ミネットの声が硬くなる。
「私は使いません」
「知ってはいるんだ」
「危険な方法として学びました」
使えることと、使ってよいことは別。
今回は誰も口にしなかった。
「学校では練習したの?」
「相手のいない状態で、魔力を差し出して散らすところまでです」
「本当に契約するのは初めて?」
「はい」
ミネットが両手を膝の上で握る。
「失敗する可能性もあります。私と縁の魔力が合わない可能性もあります。成立しても、すぐ十分な補助を受けられるとは限りません」
「それも縁へ説明してるの?」
「縁にも。私にもです」
縁は逃げない。
ミネットが、もう一度尋ねる。
「試してもよいですか?」
しばらく何も起きなかった。
縁が一歩進む。
ミネットの膝へ鼻先を寄せる。
それから顔を上げた。
「今のは?」
「分かりません」
「まだ分からない?」
「契約術式への返事かどうかは、始めなければ確認できません」
「じゃあ始める?」
ミネットはすぐには頷かなかった。
縁を見る。
「始めます」
◇
ミネットは皆へ、少し離れるよう頼んだ。
「近くにいてはいけないの?」
「絶対ではありません。ただ、ほかの人の魔力が近すぎると、私が間違える可能性があります」
「我もか?」
「ナーヴァさんは、できるだけ離れてください」
「なぜ我だけ名を呼ぶ」
「魔力が強いからです」
「ならば仕方あるまい」
ナーヴァが少し誇らしそうに離れる。
千代が、その袖をさらに引いた。
「もう少しじゃ」
「どこまで行かせる気だ」
「ミネットがよいと言うところまでじゃ」
皆が距離を取る。
俺も、何かあれば見える場所まで下がった。
縁とミネットだけが、庭の中央に残る。
ミネットは杖を使わなかった。
地面へ術式も描かない。
手のひらを上へ向ける。
「この方法は、一番単純な契約です」
縁へ言う。
「私から、魔力を差し出します」
ミネットの手のひらに、淡い光が生まれた。
小さい。
昼の明るさの中では、注意して見なければ分からないほど弱い光だ。
「受け入れたくなければ、触れないでください」
縁が光を見る。
「触れた後でも、離れてかまいません」
ミネットの声は震えていなかった。
「私の魔力を返さなければ、契約にはなりません」
縁が近づく。
鼻先を、光へ寄せる。
触れた。
淡い光が縁の鼻先へ移る。
ミネットの肩が揺れた。
縁も驚いたように顔を上げる。
光が細く伸びる。
ミネットと縁の間に、糸のようなものが生まれかけた。
次の瞬間、縁が後ろへ跳んだ。
糸が切れる。
光が空気へ散った。
ミネットはすぐに手を閉じた。
「止めました」
誰へ言うでもなく、はっきり告げる。
縁は少し離れた場所で、鼻先を前足で擦っている。
「痛かった?」
俺が近づこうとすると、ミネットが首を横へ振った。
「まだ待ってください」
「でも」
「縁が離れました」
ミネットは動かない。
「今は、私から近づきません」
縁が鼻先を擦るのをやめた。
ミネットを見る。
逃げる様子はない。
でも、戻ってもこない。
「失敗?」
ヴィオラが聞く。
「契約は成立していません」
「もう一回やる?」
「私からは求めません」
ミネットが手を膝へ下ろす。
「驚いたのかもしれません。嫌だったのかもしれません。魔力が合わなかった可能性もあります」
「どれか分からない?」
「はい」
「今度こそ断られたかも?」
「そうかもしれません」
ミネットの顔は少し青い。
それでも、縁へ手を伸ばさなかった。
「分かりました」
ミネットが言う。
「契約は、ここで終わりにします」
言葉にした瞬間、縁が動いた。
一歩。
止まる。
もう一歩。
ミネットは見ているだけだ。
縁が、光の消えた手の近くまで戻ってくる。
鼻先で、閉じた指へ触れた。
「縁?」
ミネットの声が揺れた。
縁は離れない。
前足を上げる。
ミネットの手首へ乗せた。
軽い重みがかかる。
ミネットは手を開かなかった。
「もう一度、試したいのですか?」
縁が答えるはずはない。
それでも、前足を下ろさない。
「縁から戻ってきた」
俺が言う。
「はい」
「さっきと同じところへ」
「はい」
「それでも分からない?」
ミネットは、縁の前足が乗った自分の手を見る。
「もう一度、確かめます」
顔を上げる。
「縁。先ほどと同じことをします」
縁は動かない。
「また嫌になったら、離れてください」
ゆっくりと手を開く。
縁の前足を押し上げないよう、少しずつ。
手のひらが上を向く。
縁の前足が、その上に残った。
「始めます」
淡い光が、もう一度生まれた。
今度は、縁が驚かなかった。
光が前足を包む。
細い糸が、ミネットと縁の間へ伸びる。
さっきと同じところまで進む。
切れない。
ミネットの魔力が、縁へ流れていく。
その流れが止まった。
一瞬、何も起きない。
縁が受け取っただけで終わるのかと思った。
淡い光の中に、別の色が混じった。
白とも灰色とも違う。
見る角度で色が変わる、小さな光。
縁の前足から、ミネットの手へ戻っていく。
「返ってきた」
ミネットが息を呑む。
光の糸が二つになる。
ミネットから縁へ。
縁からミネットへ。
二本が絡み、一本へ重なった。
強い光は出なかった。
音もない。
ただ、二人の間にあった魔力が、途中で切れずにつながった。
ミネットが目を閉じる。
縁も動かない。
しばらくして、光が消えた。
「どうなった?」
俺が聞く。
ミネットはすぐに答えなかった。
目を閉じたまま、自分の胸元へ手を当てる。
もう片方の手には、縁の前足が乗っている。
「近くにいます」
「見れば分かるけど」
「そうではありません」
ミネットが目を開ける。
縁を見る。
「目を閉じても、縁がここにいると分かります」
「考えてることも?」
「言葉では分かりません」
「気持ちは?」
「少しだけ」
「何て?」
ミネットは答えようとして、止まった。
「私が言葉へ変えてよいのか、まだ分かりません」
「じゃあ、契約は?」
ミネットが、縁の前足を乗せた手を見る。
「成立しました」
声が震えていた。
怖がっているようには聞こえない。
「本当に?」
「はい」
「縁も受け入れた?」
「私の魔力を受け取り、自分の魔力を返してくれました」
ミネットは何度も呼吸する。
「私が一方的に結んだものではありません」
縁が前足を下ろした。
今度は離れない。
ミネットの膝へ頭を寄せる。
ミネットの手が、その頭へ触れた。
撫でる。
以前よりも少し長く。
「ミネット」
ファステが呼ぶ。
「おめでとうございます」
「……ありがとうございます」
「やった!」
ヴィオラが駆け寄ろうとする。
リゼが襟をつかんで止めた。
「今は静かにしろ」
「もう契約したんだからいいじゃん」
「契約直後に何が起きるか分からない」
「何か起きるの?」
ミネットが縁を撫でたまま答える。
「急に大きな魔法を使わなければ、危険は低いです」
「じゃあ触っていい?」
「それは契約と関係ありません。縁の反応を見てください」
「そこは変わらないんだ」
「変わりません」
ヴィオラが縁の前へ手を出す。
縁はミネットの膝から離れず、ヴィオラの手を見た。
近づかない。
「今日は駄目っぽい」
「そう見えます」
ヴィオラは素直に手を引いた。
ナーヴァと千代も戻ってくる。
「これで、小さいのはそなたのものか?」
ナーヴァが聞く。
「違います」
ミネットは即答した。
「使い魔になったのであろう」
「契約したことと、所有物になることは別です」
「また別か」
「重要です」
「では、何が変わった?」
ミネットは縁を見る。
縁も顔を上げる。
「私たちは、互いの魔力をつなぎました」
「それだけか?」
「今確認できているのは、それだけです」
「強くなったのではないか?」
「まだ魔法を使っていません」
「何ができる?」
「分かりません」
「契約しても分からぬことばかりではないか」
「契約したことで、これから一緒に確認できます」
ナーヴァは少し考える。
「ならばよい」
何がよいのかは分からない。
でも、ナーヴァもそれ以上は聞かなかった。
「学校へ知らせる必要があります」
ミネットが言う。
「今から戻る?」
「今日は戻りません。次に学校へ行く時、正式に報告します」
「もう見習いじゃなくなるの?」
俺が聞く。
「使い魔を持たないという意味での見習いではなくなります」
「卒業?」
「それは別です」
「やっぱり?」
「私はまだ学生です。学ぶ必要があることも残っています」
契約できたから、全部終わったわけではない。
縁の能力も分からない。
一緒に魔法を使ったこともない。
どこで暮らすかも、これからだ。
「縁も学校へ行くの?」
「契約したからといって、必ず毎日連れていくとは決めません」
「今日はついてきたよ」
「はい」
「次も来るかも」
「その時に確認します」
ミネットは、縁の頭から手を離す。
縁はその場に残った。
離れた手を追わない。
でも、ミネットが立ち上がると一緒に立った。
「つながった感じ、まだする?」
「はい」
「どんな感じ?」
「近くに縁がいることが、魔力の向きとして分かります」
「嬉しい?」
ミネットは縁を見た。
「嬉しいです」
今度は一度も迷わなかった。
◇
ミネットは、契約が成立した時のことを記録しようとした。
記録帳を開く。
細い革紐が、頁の間から垂れる。
学校で縁の耳へ掛けていたものだ。
縁がそれを見つけた。
鼻先を寄せる。
「これは、私の《帰還目印》です」
ミネットが言う。
「今日、縁の印として借りてもらいましたが、契約印ではありません」
「縁専用の印も作る?」
レイナが尋ねる。
ミネットは少し考えた。
「私が勝手に決めることではありません」
「じゃあ、縁が選ぶの?」
「必要なら、一緒に探します」
「契約したんだから、同じ物を持ってもいいんじゃない?」
ヴィオラが言う。
「同じ物を持ちたいことと、持たなければならないことは別です」
「今日は何回目?」
「数えていません」
ミネットが記録帳へ視線を落とす。
筆先が、紙の直前で止まった。
「どうしたの?」
「最初の一文を考えています」
「契約しました、でいいんじゃない?」
「誰が、何を確認し、どの順番で成立したかが必要です」
「長くなりそう」
「長くなります」
それでもミネットは、すぐには書かなかった。
縁が足元へ座る。
ミネットも、その場へ腰を下ろした。
記録帳を膝へ置く。
「私が縁の使い魔になってほしいと思ったことと、縁がそれを望んだことは別です」
皆へ説明するように。
自分で確かめるように言う。
「うん」
俺は続きを待った。
「ですが、今、この契約を結ぶことについては」
ミネットが縁へ手を伸ばす。
縁が自分から、その手へ頭を寄せた。
触れたところから、淡い魔力が伝わる。
今度は途中で消えない。
「別ではありません」
ミネットが笑った。
いつものような、小さく納得する笑みではなかった。
縁を胸元へ抱き寄せ、頬を緩ませて、隠そうともせず嬉しそうに笑っていた。
可愛い。
そう思った瞬間、見慣れた表示が現れた。
『《淫獄石》を1,000個獲得しました』
『所持《淫獄石》:24,801』
「今?」
思わず声が出た。
「どうしましたか?」
「いや……何でもない」
契約が成立したから増えたわけではない。
縁が使い魔になったからでもない。
たぶん、あんなふうに笑うミネットを、初めて見たからだ。
それを説明したら、せっかくの空気が完全に壊れる。
もう半分くらい壊れている気もしたけれど、黙っておくことにした。
いつも何かを分けていた言葉が、初めて二人を同じところへ結んだ。
縁は、ミネットの使い魔になった。
けれど、それで縁がミネットのものになったわけではない。
学校を卒業したわけでもない。
暮らす場所を決めたわけでもない。
今日決めたのは、一つだけだった。
二人が、自分の意思で同じ契約を選んだ。
それだけは、もう分ける必要がなかった。




